アイルランドの異教的伝承「マグ・トゥレドの戦い」④(¶33~¶41)

私が翻訳したアイルランドの異教的伝承「マグ・トゥレドの戦い」(Cath Maige Tuired) をここに掲載していきます。

【前回】

前回は、ブレス王の圧政に苦しめられる神族の首長ダグザと、それを知略で救うマック・オーグ神のエピソードでした。

今回は、医神ディアン・ケーフトの嫉妬のエピソードと、ブレス王の吝嗇、そして放逐です。


ディアン・ケーフトの嫉妬

¶33
さてそのころ、ヌァザは治療中であり、そして普通の腕と同じように動く銀の腕が、医神ディアン・ケーフトによって与えられた。しかし、そのことは彼の息子ミアハにとって快くなかった。彼はその腕に向かっていき、その関節と関節を、腱と腱を(つなぐ)と言った。そして九晩のうちにこれを直してしまった。その最初の三日に、彼はそれを自分の脇に向かって回し、皮で覆った。次の三日、彼はそれを自分の腹に向かって回した。最後の三日、それが火の中で黒くなってしまってから、彼は黒い蒲の白い花を投げた。

¶34
ディアン・ケーフトにとって、その治療は不愉快だった。彼は息子の頭に向けて剣を投げ、剣は皮から頭の肉までを貫いた。若者は医術のわざでそれを治した。ディアン・ケーフトは再び彼を切り、すると剣は肉を割き、骨まで届いた。若者は同じように傷を治した。三度目の斬撃は脳膜に達した。若者は再び同じように傷を治した。四度目の攻撃は脳を切り落とし、(その日が)ミアハの命日となり、そしてディアン・ケーフトは言った、いかなる医者にもこれを治すことはできないと。


¶35
それからミアハはディアン・ケーフトによって埋葬され、彼の墓から、その関節と腱の数に等しい、365の薬草が生えた。それから、〔ディアン・ケーフトの娘〕アルメドは外套を広げ、その薬草を、法に則って根から取った。ディアン・ケーフトはそこへ来て、薬草をごちゃ混ぜにしてしまい、その適切な薬効の知識は失われてしまった、その後聖霊が人々に教えるまで。そしてまたディアン・ケーフトは次のように言った、「たとえミアハがもはやいなくとも、アルメドはまだ生きている」と。


ブレス王の吝嗇


¶36
そのころブレスは、自分に与えられた至高の王権を手中におさめた。彼に対する大きな不満が、その母方の親族であるトゥアサ・デー・ダナンの中にあった。なぜなら彼のせいで、彼らの短刀が脂を吸っていないからである。彼らが何度〔饗応を受けに〕来ようとも、彼らの息にエールの臭いはしないのだった。加えて、彼らは目の前で楽しませてくれる弾唱詩人も、吟遊詩人も、風刺詩人も、パイプ吹きも、角笛吹きも、大道芸人も、道化師も、家の中で見なかった。さらに彼らは達人たちの妙技の競い合いにもしなかった。戦士達が王の前で技を競い合うのも見なかった*1。ただ一人、エーディンの娘、オグマを除いて。

¶37
彼〔オグマ〕に命じられたのは、薪を砦まで運ぶ仕事だった。彼は毎日、クレア島*2まで薪束を運んだ。彼は十分に食べていないために弱っており、それゆえ海の波がその薪束の三分の二を奪い去った。彼は薪束の三分の一だけしか運べず、そして彼は丸一日ある軍団の給仕をしなければならないのだった。

¶38
しかし、神族からの奉仕も支払いも長くは続かなかった。神族の宝は、神族全体が捧げたわけではなかった

¶39
あるとき、ある詩人(すなわちトゥアサ・デー・ダナンの詩人、エーディンの息子カルブレ)が歓待を求めてブレスの館を訪れた。彼は小さく、狭く、暗く、陰鬱な小屋に通された。その上、そこには炉の火も、家具も、寝具もなかったのである。三つの小さなパンが、小さな皿に乗せて彼に配膳された。それらは乾いてしまっていた。
翌朝彼は目覚め、そして嬉しい気分ではなかった。庭を横切って出ていくとき、彼は言った。
「皿に(乗せて)素早く(出される)食べ物もなく、
仔牛が育つ乳もなく、
夕暮れの名残れるときに人びとの宿もなく、
詩人たちへの返礼もなく、
ブレスよ、かくあれ!」
「とにかく、ブレスの繁栄などありはしない」と彼は言った。そしてそれは真実であった。その時より、彼の上には衰亡のみがあった。そしてそれは、エーリゥにおいてなされた、はじめての風刺詩であった。

¶40
それから、神族は自分たちの養子、すなわちエラサの息子ブレス、について話し合うために連れ立って行き、そして彼に保証人を出すよう求めた。彼は彼らに王権を返還し、そして彼はそのときから彼らに対する(支配の)資格を失った。彼は、最後の年まで、すなわち七年、玉座に留まることを乞うた。同じ集会で、次のように言われた。「お前はそれを得られるだろう。しかしお前の手に課せられたあらゆる支払い――家と土地、家畜と食べ物に関しての――そして税からの自由、それまでの支払い、以上のものが、その同じ保証人によって保証されるのであれば」
「お前たちは言ったとおりのものを得るだろう」とブレスは言った。


¶41
彼が時間を要求したのは以下の理由からだった。すなわち、シーの戦士達、すなわちフォモーレ族を集め、力ずくでトゥアサ・デー・ダナンを支配し、絶対の権力を得るためである。いやいやながら、彼は王位を追われた。

*1 初期アイルランドにおいて、饗応は財産と身分ある者の義務である。拙記事「アイルランドにおける「もてなし」 の義務――初期アイルランド法」(https://note.mu/p_pakira/n/n610c49e823f4?magazine_key=mb8d275007058)参照

*2 クレア島:アイルランド西部、クルー湾にある島。メイヨー州の町ウエストポートの西方約30キロメートルに位置する。


【続く】

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