アイルランドの異教的伝承「マグ・トゥレドの戦い」⑫(¶149~¶161)

私が翻訳したアイルランドの異教的伝承「マグ・トゥレドの戦い」(Cath Maige Tuired) をここに掲載していきます。

【前回】

前回は、フォモーレ族の王インジェッハづきの詩人である〈半緑〉のローッホ(前回参照)が、ルグに助命を請い、戦死者の数を数え上げました。

今回は、ブレスが発見され、ルグに助命を請う場面です。


¶149
その後、ブレス・マク・エラサンを不意打ちする機会が彼らに訪れた。彼は言った、「私を助命したほうがいい、殺すよりも」

¶150
「そうしたら何が起こる?」ルグは言った。
「エーリゥの雌牛たちは常に乳を出すようになるだろう、私を助命すれば」とブレスは言った。
「我々の賢者たちに伝えよう」とルグ。

¶151
そのためルグはマイルトネ・モールブレサッハのところへ行き、彼に言った、「エーリゥの雌牛が常に乳を出すようになることは、ブレスの助命に値するだろうか?」

¶152
「助命する勿れ」とマイルトネは言った。「やつは牛の老化や出産に対しては何もできない。たとえ雌牛たちが生きている限りその乳の出を操ったとしても」

¶153
ルグはブレスに言った、「それではお前を助けることはできない。お前は老化や出産に対しては何もできない。乳の出を操ったとしても」

¶154
ブレスは言った、「マイルトネは苦い警句を与えたものだ」

¶155
「他にお前を助けてくれそうなものはあるか、ブレスよ?」とルグ。
「ある。お前たちの法律官たちに伝えろ。私の命を救えば、お前たちは3カ月ごとに収穫を刈り取ることが出来るようになると」

¶156
ルグはマイルトネに言った、「エーリゥの人びとが3カ月ごとに収穫を刈り取るようになることは、ブレスの助命に値するだろうか?」

¶157
「それは我々にふさわしくない」とマイルトネは言った。「耕して種をまく春、穀物がしっかりと実る夏の始まり、穀物が熟し切り、それを刈り取る秋の始まり。それを食する冬」

¶158
「それはお前を助けない」とルグはブレスに言った。「マイルトネは苦い警句を与えたものだ」とブレスは言った。

¶159
「お前を助けるものは、もっとささいなことだ」とルグ。
「何?」とブレス。

¶160
「エーリゥの人々は、どのように耕し、どのように刈り取ればいい? この三つのことを教えれば、お前は助かる」
「彼らに言え、『耕す火曜日、種を野に撒く火曜日、刈り取る火曜日』と」

¶161
そのため、この裏切りによってブレスは解放された。


【続く】

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