アイルランドの異教的伝承「マグ・トゥレドの戦い」⑬(¶162~¶167)

私が翻訳したアイルランドの異教的伝承「マグ・トゥレドの戦い」(Cath Maige Tuired) をここに掲載していきます。

【前回】

前回は、ブレスが農耕の方法を教えることと引き換えにルグに命乞いをしました。

今回は、オグマとダグザを主役としたわずかなエピソード、そしてモーリーガンによるピローグです。


¶162
一方、この戦いの中、戦士オグマは、フォモーレ族の王テスラの剣オルナを見つけた。オグマはその剣を鞘から抜き、きれいにした。するとその剣は、それによって為されたことを伝えた。というのも、この当時剣というものは、抜かれた時は必ず、それによって為された事績を示すものだったからである。このため、剣は抜き放たれた後、清拭という貢物を受け取るに値するのである。またその時より、剣の中には魔法が残っている。その当時悪魔が武器の中からしゃべりかけていたのは、その当時武器が人間によって信仰されており、そして武器は保証によって守られていたからである。〈半緑〉のローッホはその剣に対して次のような詩を唱えた――(以下文意不明)

¶163
ルグ、ダグザ、オグマはフォモーレ族の後を追って行った。ダグザの竪琴弾き、その名をウアスネという、が連れ去られてしまったがためだ。彼らは、ブレス・マク・エラサンとエラサ・マク・デルバイスがいる宴会場にたどり着いた。そこで、壁の上に竪琴があった。その竪琴の中に、ダグザは旋律を縛り付けたので、彼らは音を鳴らすことはできない、彼が次のように言って呼ぶまでは――


来たれダウル・ダ・ブラーよ、
来たれコール・ケサルフルよ
来たれ夏よ、来たれ冬よ、
竪琴の口と袋と管よ!

(その竪琴にはダウル・ダ・ブラーとコール・ケサルフルという二つの名前があった。)

¶164
するとその竪琴は壁の上から飛び出し、9人を殺しながら、ダグザの手元にたどり着いた。彼は三つの曲をフォモーレ族に向けて奏でた。その曲は竪琴弾きに地位を与える三曲、すなわち眠りの曲、喜びの曲、哀しみの曲だった。哀しみの曲を奏でると、涙をあふれさせたフォモーレ族の女たちは悲しんだ。喜びの曲を奏でると、女たちと少年たちは笑った。眠りの曲を奏でると、フォモーレ族の部隊全体が眠りに落ちた。それで彼ら三人は、フォモーレ族を殺しておきたくはあったが、無事に逃げ出した。

¶165
ダグザは、労働の対価として与えられた一歳子の雌の仔牛たちの唸り声のなか、フォモーレ族に奪われた牛たちを連れ戻った。なぜならば、彼が自分の仔牛たちを呼んだとき、フォモーレ族に税として奪われたエーリゥじゅうの牛が、草を食べていたからだ。

¶166
戦が終わり、殺戮の後始末がなされた後、エルンマスの娘モーリーガンが、そこでなされた戦と大勝利を、エーリゥの王の塚とシーの軍団に、主たる河とその河口に、知らせた。これが、バズヴが偉大なる行いを今でも語り伝える理由である。「何か面白い話はあるか?」と誰もがその時彼女に聞いた。
「天まで届く平和。地に至る天。天の下の大地、あらゆる者の持つ強さ、満たされた杯、溢れる蜂蜜、十分な蜜酒。冬の中の夏、盾に向けられた槍、手に持たれた盾。〔テクストの意味が不明〕」「何か面白い話はあるか?」「天まで届く平和。〔テクストの意味が不明〕」


¶167
それから彼女は世界の終わりを予言し、そのとき起こるあらゆる悪徳、あらゆる病、あらゆる罰を予言した。それから次の詩を唄った――
「私は好ましい世界を見ることはないだろう――花なき夏、牛は乳を出さず、貞淑さなき女たち、勇気なき男たち。〔テクストの意味が不明〕な王なき支配、実りなき森。実りなき海。〔テクストの意味が不明〕年寄りの誤った裁き。法律家の誤った判例。あらゆる人が裏切る。あらゆる若者が略奪する。息子は父親の寝床に入り、父親は息子の寝床に入る。兄弟が全員義理の兄弟になり、家の外に女を探しに行かない。〔テクストの意味が不明〕悪しき時代が長く続き、息子は父親を裏切り、娘は……を裏切り……」


【終わり】

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