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写ルンです - 今のわたしに、撮れるもの。
手にしたのは、”写ルンです”。
わたしは、写真が撮りたいのだ。
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右肘が痛み、薬指と小指が痺れ、かれこれ2週間が経った。
わたしは、生まれつき肘のつくりが良くないらしい。そのおかげで、些細なことが原因で、肘を走行する神経を痛めやすい。5年前に手術し、経過は順調であったが、この度また同じ症状が出てしまった。
主治医に診てもらうと「手術した場所は大丈夫だから、安静と投薬で様子を見れば治ると思うよ」とのことだった。実際、痛みと痺れはだいぶ軽減されていて、少しずつ出来ることも増えている。
この症状が一旦出てしまうと、日常生活がままならない。今回の発症は、利き手だった。食事は左手。着替えをはじめ、身の回りのことは夫が甲斐甲斐しく世話をしてくれている。こんなにありがたいことはない。
最初の1週間は、痛みとの戦いだった。鎮痛剤を飲み、無理をしない程度に働いた。しかし、夕方には痛みが増し、涙が滲んだ。何度も経験しているのに、治ればその痛みすら忘れてしまうものである。
次の1週間は、日に日に痛みは和らいでいった。まだ重いものは持てないし、細かい手の動きは難しいが、わたしの心は前を向き始めた。
その頃、美しい景色を見た。夕刻のことだ。帰宅途中の学生が、笑い声を上げ、自転車で走り去っていく。何でもない日常に添えられた太陽のあたたかさが、眩しかった。
「写真が撮りたい」
その時、わたしの眼は完全に”35mm”になっていた。この手で撮れる方法は、ないだろうか。
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手にしたのは、”写ルンです”。
重量90g、撮影可能枚数27枚。
今のわたしが手にすることができ、今のわたしが撮れる写真。
27枚に、そのすべての思いを込めた。
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無事、27枚撮り切った。27枚しか撮れないという思いから、いつも以上に丁寧になった。右肘から指先までがずっしり重い。やはり写ルンですの選択肢は正しかったようで、カメラを持つにはもう少し安静が必要だと感じた。
日は暮れ、春を迎える夜風はまだ冷たかった。
街は、少しずつ変化している。2021年と2022年の間違い探しをしたら、その答えは山ほどあるだろう。
しかし時によって、街は一瞬で劇的に変わってしまう。人間が太刀打ちできない自然災害、人間が引き起こす戦争。人がいて、生活をし、街になる。そこに積み上げられてきた日常は、いとも簡単に崩れてしまうことがある。
ここ最近の世界情勢により、それを実感する日々が続いている。決して対岸の火事ではない。わたしの「今を残したい」思いが、強さを増す。
ただひたすら、街の写真を撮っている。わたしの写真が、後世の魂に刻まれることを願って、シャッターを切る。それがきっと、今のわたしに撮れるものだろう。
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さて、ここまで丁寧に読んでくださった方の中で、このエッセイに疑問をもつ方はいないだろうか。そう、写ルンですの1枚目(#01)が掲載されていないのである。
「見て見て!」
わたしはポケットから写ルンですを取り出し、夫に見せた。
「おっ、持ってきたんだ」
「うん、様子見ながらだけど、これでスナップするの」
わたしがそう言うと、夫がピースサインをしてきた。わたしは夫に写ルンですを向けた。カチッとシャッター音が静かに響く。
現像して手元に来た写真には、笑顔の夫がばっちり写っていた。これが、写ルンですの1枚目。この写真は、大切にしまっておこうと思う。
どうか、健康でありますように。
どうか、平和でありますように。
10年後この写真を見返した時、「あの頃も良かったね、でも今はもっと良いね」と言えるような世界になってほしい、そう切に願うのである。
それでは、良い写真生活を。
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