Answer note│ふたりの想いを写真にのせて
この記事は、わたしの友人・たろちゃんが書いてくれたnoteに対するお返事エッセイになります。ぜひ、たろちゃんのnoteと併せてお読みください!
2021年11月23日
アラームが鳴り、飛び起きた。目覚めは最高だ。その爽快さは、交感神経が優位になっている証であった。
カーテンを開けると、青空が広がっていた。昨夜の雨は無事通り過ぎたようだ。
約束1時間前、わたしの身支度は済んだ。
機材チェックよし。ルートチェックよし。
平日ならば、1分1秒を争う朝。
しかし今、わたしは、優雅にコーヒーを淹れている。落ち着こう、いや落ち着いてはいるのだ。
緊張とは違う。胸の高鳴りを感じる。様々な感情が入り混ざり、ドキドキに変わっていく。
今日は、大切な友人のフォトウェディング。
わたしは、カメラマンを任されている。
コーヒーを啜りながら、今日までの日に思いを馳せた。
ふたりとわたし
くまきちと、たろちゃん。
ふたりは同性カップルだ。
くまきちは、わたしの親友である。
わたしとくまきちとの出逢いは、今から10年ほど前に遡る。SNSで知り合った。同じ音楽が好き、それがきっかけだ。
そのアーティストのグッズをお裾分けしてもらえることになり、会うことになった。
初めましての日。わたしたちは、品川駅近くで、生クリームが山盛りのパンケーキを食べ、プリクラを撮った。あの日のことは、なぜか鮮明に覚えている。
それからというもの、わたしたちは、よく遊んだ。大学の講義終わりに待ち合わせては、東京を練り歩いた。週一で、上野動物園のマヌルネコを見に行った。池袋の不二家で、レモンスカッシュを飲みながら、くだらない話を延々とした。もちろんライブも一緒に行った。
そう、大抵は、くだらない話ばかり。周りの恋バナとかね。しかし、そんなわたしたちにも、それぞれに志すものがあった。
時々、将来を語り合うその熱量は、キラキラと眩しく輝いていた。
時は過ぎ、社会人になった。住む場所は離れたが、わたしたちは相変わらずよく遊んだ。
話す内容は、少しずつ変わっていく。わたしの恋愛相談にも乗ってもらった。夜風吹く秋の河原で、「大人になったねえ」と、静かに笑った。
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そんな彼女から、彼女ができたと聞いた。
それが、たろちゃんだ。
くまきちは、長文のメッセージで、ふたりの経緯を話してくれた。彼女のセクシュアリティを聞いたのも初めてだった。わたしは、打ち明けてくれたことが嬉しかった。
そして、文章から、たろちゃんへの思いが、たくさん伝わってきた。
彼女は「この人と一緒に生きていきたいなって本気で思ったのはじめてかもしれない」と締めくくった。親友の言葉に、わたしも幸せな気持ちになった。
Yシャツとメガネ
それから、たろちゃんとは何度もお会いした。優しく穏やかで、周りの空気がふわっとなる。そんなたろちゃんの隣にいるくまきちも、ふわっと笑っていた。幸せが溢れている。
散々、大声をあげて馬鹿笑いしてきた仲だが、そのような笑顔を見たのは、初めてだった。
わたしは、カメラでふたりを捉えた。
その写真を送ると、とても喜んでもらえた。
フォトウェディングをしたい。
そのお話をいただいたとき、わたしは喜んで引き受けた。
わたしは、普段ポートレートは撮らない。スナップがメインである。しがないアマチュア写真愛好家に過ぎない。
しかし、わたしにとって大切なふたり。友人の目線から、精一杯撮らせていただこうと、決意した。
そして、フォトウェディングプロジェクトにしようと、話が出た。
プロジェクト名は、“Yシャツとメガネ”。ふたりのイニシャルYとM、そしてふたりのモチーフをもとに名付けた。
続々と集まった友人の力をお借りし、撮影計画が練られていく。そして、デザイナーのゆっきーが作成してくれたロゴには、とても素敵な思いが込められていた。
撮影の2ヵ月前、ふたりに会った。衣装はどうしようかとか、ブーケはどうしようかとか、楽しそうに話している姿が、大変印象的だった。
ロゴデザイン、ヘアメイク、撮影アシスタント。
多くの友人の力を借りて、撮影当日を迎えたのである。
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コーヒーを飲み終わると、約束の時間が近づいていた。
わたしは、これまでの想いを胸に、彼女たちが待つ部屋へ向かった。
秋深まる昭和記念公園
メイクシーンから撮影してほしいとの依頼で、ヘアメイクさん到着と同時に撮影スタート。
「うわあ〜睫毛めっちゃ上がる!」とはしゃぐくまきちと、それをソファから眺めるたろちゃん。
ふたりのヘアメイクが完了し、カメラを向けると、堂々たるくまきちの表情に対して、照れくさそうに口角をあげるたろちゃんの対比が、可愛らしかった。
支度が済むと、わたしたちは昭和記念公園へ向かった。
外に出ると、朝の風がひんやりと頬に触れた。公園のイチョウは見頃を迎え、地面には黄金色の絨毯が敷かれていた。
自然な表情を撮りたくて、あまり多くの指示は出さずに、なるべく空気になって撮影した。
撮影は1日がかりで行われた。
メンバーの皆に力を貸していただき、撮影は順調に進んだ。
フォトウエディングは、無事結ぶことが出来た。これも全て、メンバーのおかげである。自分ひとりでは、成し遂げられなかっただろう。
ふたりを取り巻く祝福は、とても温かく優しく力強かった。
そして、後日納品した365枚の写真は、わたしにとっても宝物となった。
想いを写真にのせて
ニセフォール・ニエプスが、写真の基礎を発明してから約200年。
時代は移り変わり、今では国民のほとんどがスマートフォンを持ち、簡単に高画質な写真を撮ることができるようになった。良いことも悪いことも、何にでもカメラを向ける時代だ。
一方で、ワードを入れると、AIが自動で画像生成できるようになった。今後クオリティが上がれば、絶景写真は簡単に生み出されるだろうし、実在する人物の、現実ではない写真も作られるだろう。果たして、どこまでが”写真”なのか…?その議論はまた今度。
つまり、ますます“撮る意義”が問われる時代となっていく。
写真を撮る理由。写真である必要性。
我々カメラを持つものは、新しい局面を迎えている。
わたしは、それでも、写真が撮りたい。
写真は、今を生きている証だ。そして写真は、記録だけではない。記憶をも残せる。その時の感覚も感情も、封じ込めてしまう。
さらにその想いは、見返すたびに何度でも蘇る。
人と人との繋がり、今を生きている証。
写真の価値は、リアルであること。AIには、きっと出来ない。
秋の冷たい風、雨上がりの匂い、落ち葉を踏みしめる音。
照れくさそうな笑顔や、ベンチで肩寄せ合い話したこと。
きっとこの日、特別な想いを胸に、彼女たちは笑っていた。
その五感と感情を、わたしはそっと写真に収めた。
わたしは、ふたりの“宣言”に、シャッターを切った。
写真に、ふたりの温かい想いが溶け込んでいく。
ふたりがいつまでも、一緒にいられますように。
写真を見返した時、あの日がふわっと香りますように。
1年越しに、改めて、おめでとう。
2022年11月23日 miho
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