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DESIGN : EAT for E

近年、環境への配慮から注目されているのがエントモファジーと呼ばれる昆虫食。昆虫食は栄養価が高く、高タンパク質・低脂質でビタミンやミネラルも豊富。そんなInsect food(昆虫食)をメインに提供し、毎日の「おいしい」も「たのしい」も決してあきらめず、その上で地球も身体も思いやる。サステナブルなレストラン、EAT for Eが渋谷にオープンしました。

メニューはミシュラン1つ星フレンチレストランsioのオーナーシェフ・鳥羽周作さんが監修し、“味と栄養にこだわった”おいしいサステナブルフードを提供しています。OUWNでは、テイクアウトメニューのパッケージデザインを担当しました。

食べるときの新たな選択肢を

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出井 : 暗闇ボクシングフィットネスを運営する、b-monsterの会社が新しく立ち上げた昆虫食のレストランで、フードメニューの監修に入ったsioの鳥羽さんから連絡をいただき、OUWNでデザインさせていただくことになりました。

ー 昆虫食を選ぶということは、環境に配慮した行動のひとつですよね。

出井 : そうですね。例えば牛と比べたときに、1kg生産するのに必要な敷地面積は牛で約250平方メートル、虫では18平方メートルくらい。育てる環境の面積が違うから、二酸化炭素の排出量や使う牧草の面積など、コストも変わってきます。栄養素では100gあたりのタンパク質はほとんど同じくらいなので、昆虫は栄養価が高く環境への負担が少ないんです。
すごく簡潔に言えば、牛より虫を食べたほうが環境の循環的には良いってことですね。

石黒 : タンパク質は虫からも摂れるし、食べることに抵抗がなければそっちの方が地球には良い。正直抵抗はあるとは思いますが、近年昆虫食が注目されているのは感じていたし、鳥羽さんの技術やアイデア、熱量も知っていたので、そこに参加できるのは嬉しいなと思いました。

ー sioの鳥羽さんとは以前から交流があるんですか?

石黒 : 最初は普通にsioに食事に行ったのが始まりです。鳥羽さんってすごく熱量のある方だからたくさん話をしてくれて、そのときは店内に飾ってある絵の話をしたんです。白い絵が飾ってあったんですが、その空きの空間があることで、意識を違う場所に変えることができるというようなクリエイティブな話をしました。仕事に対する姿勢とか考え方っていうのも似てる部分が多く話が盛り上がり、そのあとに自分もsioをイメージした作品を作ってプレゼントしました。そこから鳥羽さんとは縁があって、何度かご一緒させてもらっています。

今回僕らはパッケージを担当させてもらい、ロゴや店舗のデザインは別の方です。鳥羽さんが料理の監修で入った際に、料理のパッケージには今までも親交があり信頼のある方にお願いしたい、ということで選んでいただけました。鳥羽さんがそう思って依頼してくれたことが嬉しかったし、全力で打ち返したいなって思いました。

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ー フードメニューは食べましたか?

出井 : 全部頂きました!一番美味しかったのはスープかな。スープはほとんど虫の形はなくて、多分言わなかったら分からないくらい。見た目としても食べやすいと思います。サラダボウルには虫の揚げたものがトッピングされていて、カリカリでスナックみたいでした。

石黒 : 最初は抵抗あるかもしれないですが、よくよく考えたら桜エビみたいなことじゃないかなって。海外の人も桜エビとか、カッパえびせんのパッケージって見た目に驚くって言うし、概念的な問題なのかも。これ自体はそこまで味がするわけでもなく、中も空洞になってたりするので、「そういう食べ物」って思えば他の食材と同じように食べれる人もいると思う。

出井 : ガパオライスは虫の形を粉末状に変えられるんです。なので見た目が無理って人は、そういう風にしたらチャレンジしやすいかもしれないですね。


「事実を表現して知る」 パッケージデザイン

ー デザインするとき、最初に意識したことはなんですか?

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石黒 : やっぱり一番は料理が綺麗に見えること。鳥羽さんの料理が一番映えるものっていうのが大前提にありました。料理はガパオライスの目玉焼きだったり、スープのトマト味だったりとカラフルな色味だったので、そういうカラフルなものに対しては、白よりも黒い世界の方が映える。昆虫食という部分でも料理に伴う強さがないといけないので、白でなく黒をメインにしました。

ー デザインはテキストがメインですね。

石黒 : やっぱり昆虫食で伝えられることがたくさんあるし、事実を表現して知るってことが一番重要だから、コンセプトをしっかり書いてパッケージに入れた方が良いと思いました。
食べているときって、なんとなく手持ち無沙汰なことあるじゃないですか?無意識に成分表示とかを眺めてみたり。なので食べているとき、外したスリーブをなんとなく眺めて読めるようにテキストを入れました。コピーも僕らが書くよりも、b-monsterの方に書いてもらった方が誤差がないと思ったので、デザインのコンセプトを伝えて書いてもらいました。

出井 : 他にも最初は写真を使った案なども提案して、写真があると自然をダイレクトに感じられるということもあり、3案中2案は写真を入れていました。先方に提案して、タイポグラフィがメインのデザインに決定しましたね。

石黒 : 今回自分は全体の設計を担当して、テキストの組みなどは出井さん。思いっきり「昆虫食」という雰囲気を出しても料理との差が生まれてしまうから、品を保ちつつ、コンセプトをちゃんと伝える。さりげなく虫のイラストを入れたり、大胆というよりも気の利いたデザインを目指して、出井さんに色々組んでもらいました。

出井 : タイポグラフィのデザインは好きなので、楽しんで作りました。ALBIONのお美くじ然り、チマチマ組んでいくのは好きなんです。
でもコンセプトをただ並べていったり、たまに文字を大きく見せたりっていう文字組みだと楽しくないから、1つ1つの固まりだけでもデザインになるように意識しました。1つのブロックだけノートみたいな罫線を引いたり、段違いで書体をイタリックにしたり。ロゴとまではいかなくても、その部分だけ抜き出しても魅力的に見えるように。

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この部分(↑写真・MOMENTS OF HAPPINESSの部分)は文字を弧にしてタイトルっぽくすることで、それだけを抽出しても成り立つようなデザイン。文字部分がドットになっているのは虫に食べられたイメージで、自分でも気に入っているところですね。あとは、文章中では「EAT FOR EARTH」だけど、Eの後ろの「ARTH」に線を重ねて消して、お店の名前のEAT FOR Eにしていたり、文章の最後の「?」だけ書体を変えていたりと、ポイントがいろんな所に散りばめられています。

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石黒 : この1と2の部分(↑写真・EATING DELICIOUS〜の部分)とかもいいよね。人の見る視点って、上から左右に動いていくと思うんですけど、視点が急に両方に向かうポイント。左右の一定の動きから変化することで、デザインのアクセントになると思う。自分もデザインを紙面でするとき、人の視点の誘導っていうのは考えます。

ー 長々と同じように書いてあるよりも読みますもんね。このライス・サラダのところは?

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出井 : 中身がライスだったら、サラダの方をペンで塗りつぶして消すんです。黒だからこそできるデザインですね。

石黒 : コスト面のこともありますが、あえて同じパッケージにしました。
選択するっていうことは、今回の案件の中で重要なキーワード。色々な選択肢がある中で自分が何を選ぶのかっていう時代になっているから、そこを表現できるようなものを入れたいなって思いました。

ー 細かく見ると発見がたくさんありそうですね。やっていて大変だった部分はありますか?

出井 : 難しかった部分で言うと、文字の内容としての整理ですね。表面の情報は、実は中面の英文と全く同じなんです。文章の順序を入れ替えることで伝えたいことが変になってしまったら、読める人から見ればわけわかんなくなっちゃいますよね。でもそのままの順番だと、なかなか見え方が綺麗に保てなかったりする。組み替えつつも同じ意味合いで伝わるようにというところは英語の知識も必要で、こういう時に英語力って必要だなと感じます。

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石黒 : この中面の部分で使っているアートは店舗に飾ってあるものなんですが、店舗とイメージを連動させるために絵を入れることにしたんです。よりグラフィックとして強さを出すために、少しノイジーにしてドット処理を加えて、表面がブラックな世界なので中面は色を入れてギャップをつけました。


コンセプトに合う紙選び

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出井 : OUWNの今までの仕事の中でも、食べ物にまつわるデザインはいくつかありましたが、テイクアウトでスリーブだけのデザインっていうところでは考え方など含めて新たな取り組みでしたね。グラフィックはスリーブのみですが、料理を入れる容器とかも印刷所に協力してもらいながら探したり。容器の紙は「バガス」っていう紙を使っていて、地球に配慮したものを選んでいます。

石黒 : バガスっていう紙は、サトウキビの絞りかすから作られたもの。砂糖の原料となる汁を絞ったあと廃棄されるものを使って紙を作るんです。
最近はサステナブルな案件も増えていて、そういうときには特にバガスを選択することが多いですね。質感は少しざらっとしていて、パッケージとかに向いてるような固めの紙です。

出井 : 自然の色なので、白でなく少しベージュっぽい色になります。付属するスプーンも、分解して土に還るようなものを選びましたね。
スリーブの紙は気泡紙。ある程度厚みがあるもので、肌触りが良いものという点で選びました。

石黒 : 一応グラフィックデザインの中では出どころがわかるようなもので、ECFパルプ配合のFSC森林認証紙、ちゃんと環境にはある程度配慮しているものです。

出井 : あとはコントラストがしっかり出るようにしたくて、インクはリッチブラックでもなく、スーパーブラックみたいな強めの黒にしてもらっています。

石黒 : 印刷はショウエイさん。ショウエイの辻さんとよく一緒に仕事をしていて、今回もたくさん検証してくれました。スリーブの形も、ここに少しエッジがあった方が留まりやすいとか、そういう加工の部分でも色々考えてくれました!


デザインにも繋がる?食に対する意識

ー 2人とも食にこだわりがあるイメージですが、それは元々ですか?

石黒 : 食べることは元から好きだったけど、働いてからより好きになったかな。美味しいものを美味しく食べるっていう時間はとても大切だと感じているので、日々の中で用意するようにしています。新たな発見であったり頭の思考を変えるということでもあるけど、そういうのを抜きにしても好きです。

出井 : 食事は日常の中で自然とできる体験だから、必然的にやることの中での引っかかりを感じられるから好きなのかなと思います。ご飯って絶対に食べるものだから、せっかく食べるなら何か気づいたり感じたりしたいなって。

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石黒 : 出井さんも食べるのが好きだし、一緒に会話をするのも楽しいんですよね。出井さんとご飯に行っても、視点が若干違うのが面白い。
すごい前に、インプットも兼ねて一緒にご飯に行った時があって。タオルが固形で置いてあって、そこにアロマの匂いがついてる水を垂らすとタオルが膨らんで使える、みたいな演出があった。それって単純に楽しいし、用意するのも簡単だったりでお店的にもいいのかもしれない。だから面白いし良いねって話していたんですが、出井さんは「ちょっと演出が過剰な可能性もある」って。

出井 : そのひとつだけだったら過剰ではないけど、何度もそういう演出があったんです。それはアトラクションのようなもので、遊園地みたいで良いとは思うんですが、少し飽きるというか。

石黒 : 自分もそう言われると、確かになと思って。デザインもコース料理も全体のストーリーで、店舗のイメージとか所作とか全部が含まれてるから、少しめんどくさく感じたのかな。引っかかりポイントになるけど、それが毎回あると多かったのかも。本当に些細なことではあるんだけど、心に残るポイントが複雑になる気がして、だから出井さんに言われてなるほどなって思いました。

出井 : さらっと流せばいいんですけど(笑)、職業柄ということもあってか、またこういうのきたか!みたいに感じるのが多くて。
どこのお店もこだわりがあるとは思うんですが、こだわりが出すぎて、それがお客さんに伝わっちゃって疲れちゃうことがある。クリエイティブとかデザインをやってる人だと、これってこう考えてやってるんだって気づいちゃう。それが悪いわけではないんですが… 作り込まれすぎて自然なものがないと、ちょっとくつろぎにくいかなと。

石黒 : 研ぎ澄ましている場所だからこそ、より些細なことを感じたんだと思う。ちょっとささくれがある、みたいなテンションというか。ちょっと気になるな、みたいな。でも本当にこれはレベルの高い話で、そういうことを話せるっていうのはすごいなって思います。デザインとかでも、99人は良いって言うけど、残りの1人はなんか違うって言うような、最終審査みたいなレベルの深さ。本当に些細な感じ方で話せるから、楽しいな〜と。

良い方の例で言うと、六本木にあるフレンチのcogitoっていうお店。店内に葡萄の木が生えてたり、内装も可愛いお店で料理も美味しい。洗練された上で、全部がちょうどいいんですよね。不快になるポイントが何もなくて、純粋にその場にいると会話が弾む。食べ終わった後の幸福感が高いお店だなーって思います。それってすごい最強だなって。

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出井 : cogitoは、ナイフやフォークがきちっと置かれていても「こうしなきゃ」と身構えたりせず、緊張せずに楽しめる雰囲気が素敵なお店です。
デザインでも、奇抜で変わってる表現をしたら目は引くけど、長期的に見たらどうなんだろうとか、お客さんのことを考えたらどうなんだろうとか。自分の仕事にも置き換えて考えられるので、そういう部分でも食事や、お店は勉強になります。

ー やっぱり日々感じるものがデザインにも繋がるんですね。同じものを2人が一緒に見れるというのも大きい気がします。

石黒 : デザインも人もそうだけど、追求されてつらいってなるんじゃなくて、追求されて徹底されている上で心地いいっていうのが一番いいですよね。究極な話なので、それを毎回OUWNが出せるのかっていうとちょっと難しいかもしれないけど(笑)。そういうデザインを毎回できたらいいなって思います。

CL : EAT for E / @eat_for_e
CD+AD+D : ATSUSHI ISHIGURO(OUWN) / @ai_ouwn
AD+D : YUMI IDEI(OUWN) / @ideiyumi

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聞き手 ・ 執筆 : 星成美


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