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デンマークが教えてくれる持続可能な都市経営5つの視点

デンマーク・川崎市の都市経営について、ニールセン北村さんと対談させていただきました。

デンマーク ロラン島在住の北村さんは、ジャーナリスト、国賓クラスの通訳、デンマークの教育機関で食のフォルケホイスコーレの立ち上げといった幅広い分野で活躍中です。

幸福度ランキングで常に上位にある国で有名ですが、(2020年はデンマーク2位、日本は62位)

幸福の一言には表せない、ものすごく洗練された社会システムがありました。そして日本と私たちの、未来へのメッセージも。

今回は、北村さんからのお話、そして中島健祐さんの書籍から、デンマークを都市経営の視点で紹介したいと思います。

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はじめに:デンマークとは

ちなみに、どんな国なのかを少し

広さ:約4.3万㎢(九州とほぼ同じ)
人口:約581万人(兵庫県と同じくらい)
1人あたりGDP:60,692ドル
(日本39,304ドル)※2018年
日本に対しては貿易黒字国(医薬品や豚肉など)

さらに幸福度以外の高い評価も!

QOL(生活の質)ランキング2020_1位
腐敗認識指数ランキング2019_1位
SDGs達成度ランキング2019_1位
電子政府ランキング2020_1位

そして首都コペンハーゲンは、2025年までにカーボン・ニュートラルを実現する目標を掲げ、デンマーク全体では2050年までの達成を目指す、”超”環境先進国。様々な取組のベースには地球環境が強く意識されています。


はじめに:電力自給率800%のロラン島

ちなみに北村さんがお住まいのロラン島は、沖縄本島くらいの面積で、6万人(前後あり)ほどが暮らす農業や牧畜の盛んな地域。

こちらの島、なんと風力発電などで800%の電力自給率を誇ります。余った電力を150キロ離れたコペンハーゲンに供給する仕組みも。

さらに地元農家さんが風力発電に出資していたり、ワラを地域熱供給に使いながら、農業の副収入にしていたりと、地域資源をフル活用。農業とエネルギーが密接に繋がっています。

はじめに:「デザインDNA」と4方よし

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※Denmark design center HPより

デンマークではあらゆる場面で「デザイン」が活用されます。家具とか「美的造形」だけじゃなく、食、スポーツ、都市空間、社会システムまで多岐に渡ります。

半官半民組織の「Denmark design center
(企業や行政がデザインを活用して、新しい価値を生む支援をする組織:後述)

上図はHPにある「Denmark design DNA※」
デンマークのあらゆる取組に共通するデザインの特徴を概念化したものです。

※Denmark design DNA
・human=人間
・social=社会
・tranceformative=変革を起こす
・user-driven=ユーザー主導
・holistic=全体的なアプローチ
・quality=品質
・craft=工芸品
・durable=長持ち
・factual=事実に基づく
・simple=シンプル と10項目

デザインは人間に内包されていて、その人間が持続可能な社会を作っていくための必要な構成要素が整理されている。というところでしょうか。

日本で近江商人が提唱した「三方よし」
デンマークはさらに「売り手よし、買い手よし、世間よし、未来よし」と「未来」が加わった
「四方よし」が息づいているそうです。四方よし実現のために、デザインを取り入れているって考えるとイメージしやすいかもしれません。

では、こういったデザインが、どんな都市経営に繋がるのか。


1.複合的に課題を解決するパブリックデザイン

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デンマークの都市経営は、
・人間(市民)が主体にデザインされている
・1つの課題に対して包括的にアプローチする
・物事をポジティブにループさせる

そんな特徴が見られます。

デンマークの世界的都市デザイナーで建築家のヤン・ゲールによると
「良いパブリックデザインは、魅力的な都市をつくりだす。魅力的な都市とは子どもたちと高齢者がストリートに見られることだ」と述べている。
パブリックデザインとは、快適性を追求することだけでなく、都市の課題を解決したり、未来のイノベーションを実現するためにあるデザインでもある。
※中島氏の著書より引用

こうした取組による事例を少しご紹介です。

①ゴミ処理場から健康、教育、熱供給

◆特徴
2017年、首都コペンハーゲンの海辺にある工業地帯に誕生したコペンヒル
ごみ処理施設でありながら、スキーやハイキング、クライミング、カフェなどが楽しめる、レクリエーション施設になっています。

◆アプローチ
避けて通れないゴミ問題。迷惑施設になりがちですが、憩いの場として、むしろ市民が集まる場所になっています。
さらに、3万世帯分の電力供給、7万2,000世帯分の地域熱供給も実現。エネルギー効率は90%以上を誇る世界有数のクリーン施設。
施設の煙突から水蒸気がリング状になって排出されますが、それは1トン分のCO2量を示しており、環境問題を意識してもらう仕掛け。
周辺にはお洒落な集合住宅や、ヨットハーバーまであり、エリア内の民間投資にも繋がっている

ゴミは捨てて終わりではない」ことを市民に示す見事な仕組み。

◆ポジティブループ
課題:都市部におけるゴミ問題
⇒ 処理施設をつくる
⇒ リゾート利用、健康になる、電気・熱の供給、住宅環境の充実、環境リテラシー醸成
⇒ コペンハーゲンの価値向上やエリアへの民間投資にも波及

②移民の文化が共存する公園

◆特徴
2012年、コペンハーゲン中心から北に位置するノアブロ地区に誕生した公園「スーパーキーレン」
移民を受け入れてきた経緯から、安い集合住宅のあるノアブロ地区は多国籍化が進んで治安が悪化。将来スラム化するリスクがありました。
その課題解決のために、国鉄車庫の跡地を公園に変えるプロジェクトでこの公園が誕生

◆アプローチ
プロジェクトを手掛けたチーム(BIG、スーパーフレックス、トポテック1)は、住民と徹底的に話し合うことからスタート住民主導のアイデアをつくりあげ、60カ国の人々が祖国で親しんだ遊具、ベンチが並び、スポーツができる施設も。
犯罪を防ぐため、見通しを良くするランドスケープまで意識されています。
多国籍の住民は自然とコミュニケーションが取れるようになり、人が集まることで周辺に新しいカフェやレストランもオープン。見事に治安が改善されました。

◆ポジティブループ
課題:移民の増加で治安悪化
⇒ 交流を促す公園をつくる
⇒ 住民コミュニケーションの改善、多文化共存、治安改善、健康になる
⇒ 「多国籍文化」が価値となり、むしろエリアの価値が高まっています。

③歩行者専用空間と自動車のあり方

◆特徴
冒頭の写真にあったニューハウンをはじめ、コペンハーゲン市内の公共空間には、オープンカフェが並び、歩行者専用の空間が街一体にデザインされています。
さらに「自転車」専用の一般道や高速道路まで整備されていて、健康や環境にも配慮した都市空間がつくられています。

◆アプローチ
1950年代、ニューハウンの運河沿いは自動車の道路や駐車場になることが議決されていました。
しかし一人の建築家が、自動車社会に疑問をメディアに訴えたことで一転、人(歩行者)の空間として見直されることに。
さらに1960年代、コペンハーゲン市内のメインストリートを歩行者専用に道路化する社会実験もスタート。
市内にオープンカフェの席数が年々増加して、2014年からは通年で設置できるように。
人が快適に過ごすための空間を、50年以上の歳月をかけてつくりあげたのです。

デンマークは自動車社会からの転換がかなり進んでいます。自転車専用の高速道路って驚き!

◆ポジティブループ
課題:自動車が溢れる、景観と環境の悪化
⇒ 広場にオープンカフェ設置、自転車社会の構築
⇒ 大気環境の改善、景観が良くなる、健康になる
⇒ 海外からの観光客の誘致、ブランド力アップ
長年の地道な努力が都市の価値を高めました。

④食からアプローチする地球環境

◆特徴
デンマーク料理は、2000年頃までジャガイモや豚肉などがシンプルな調理法で食され、あまり美食と認識されていませんでした。
しかし2003年に開業した、後に世界一のレストランと呼ばれる「noma」が食文化を一変させます。
翌2004年に「新しい北欧料理のためのマニュフェスト※」を発表して以降、食を通したライフスタイルの転換が加速しています。

※新しい北欧料理のためのマニュフェスト
1,我々が大切にしたい清潔感、新鮮さ、シンプルさ、道徳観を表現をすること
2,食で季節感を表現すること
3,地域の気候、地形、水特有の食材の調理を基本とすること
4,食べ物のおいしさに対する追求と、健康や「よりよいありかた」についての認識を組み合わせること
5,ノルマンディの食べ物や生産者たちを後押しし、それらの背景を広めること
6,動物の福祉や海、耕地、自然の生態系を守ること
7,伝統的な北欧の食材の新しい可能性を伸ばすこと
8,北欧料理の料理手法や伝統と、外部からのアイデアを組み合わせること
9,ローカルな自給自足と高品質なものを組み合わせること
10,北欧の国々におけるすべての強みや利益に向けて、消費者、シェフ、農業や漁業、食産業、小売りや卸売り、研究者、教師、政治家や権威者が協力すること

◆アプローチ
マニフェストは地産地消をイメージされるかもですが、単に食文化の視点だけではありません。
風土にあった食材の活用、生態系を守る、自給自足するなど、地域内での循環経済や、地球環境にもアプローチしています。
なんと環境負荷の高い肉の消費量を減らす動きまで生まれ、政府も公式にアドバイスを出してます。

結果、2019年でベジタリアンまたはセミベジタリアンの人口が80万人ほどに増加し、2年間で約倍になっているそう。たった数年で食のライフスタイルは大きく変化し始めています。

◆ポジティブループ
課題:大量消費・未発達な食文化、地球温暖化
⇒ 地産地消の美食レストラン開業
⇒ 新しい食のマニフェスト
⇒ 観光客の増加、環境リテラシーの醸成、肉の消費量削減
⇒ 地元食材のブランディング、美食文化の定着、環境負荷の低減、ベジタリアンの増加

複雑化した社会での都市経営は「一つの取組で複数の課題を解決すること」がすごく重要です。
ではどうしてこんな分野横断的にアプローチできるのかを考えてみます。

2.本質や課題解決を学ぶ教育

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まず紹介したいのはデンマークの教育

①デンマークの教育
有名なのは、とにかく自由な「森のようちえん」

カリキュラムが一切ないので、幼児期から「自分が何をやりたいか」を毎日考えるトレーニングをします。自由に伴う「責任」も学んでいきます。

また、学校の授業で、国語の一幕はこんな感じ

アーティストの曲を聴いて、どんな想いで作ったのかチームになって分析してください。
Googleでも文献でも調べる方法は自由。
分析結果の発表は、どうゆう考え・流れで答えを導き出したのか話してください。

目的は、物事の本質を考えてもらうこと。

幼少期からトレーニングを積んでいくので、言われたことをやるのではなく、自分たちのやりたいこと、やるべきことを考える癖がつきます。

「でもでも、あまりに自由度が高いと、各自好きなことだけやって、まとまらないのでは?」

ついそんな質問を北村さんにしてしまったところ、レゴブロックに例えて教えてもらえました。

②レゴブロックに学ぶアプローチ
デンマークに本社がある「レゴ社」
レゴブロックって細かく形がそれぞれ違います。互いの形を活かすから、色んなものが創造できる。それは人にも言えることで。

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・人それぞれ考え方が違うことを尊重する
・他人との比較ではなく、自分の強みを伸ばす
・well-being、より良い状態を目指す


そんな社会システムを幼い頃から学んでいくから分野を超えて連携できる。だから教育は大切

社会に出て本当に必要な能力を、幼いことからしっかり身につけている印象を受けます。
決まったこと、同じ形のブロックを作る教育だと、集まっても単純なものしか作れないのかもしれません。

これからの教育や人材育成を考えるうえで、非常に示唆のあるお話でした。

3.デンマークにおける社会でのアプローチ手法

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そうした教育を経て社会ではどんなアプローチが行われているか、興味深いものをいくつか紹介します。

①PPP(トリプルヘリックス)
コペンハーゲンではPPPも積極的に行われています。例えば2009年に設立された「コペンハーゲン環境技術クラスター」このクラスターが注力していたのが、産官学分野が”動的”に連携した「トリプルヘリックス(三重螺旋)」

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この環境技術クラスターは成果も出していて

5年以内にPPPで1,000人を雇用する目標を設定。
2016年に1,096人の雇用を生み出し、126社のスタートアップを支援。
EUから革新的プロジェクト事例として表彰されています。

こういった現実的な成果を上げるため、クラスター運営責任者の職域を含めて、形だけの連携でなく、生きた組織をつくる仕組みができています。

クラスターの運営責任者は、行政、企業、研究機関からの出向ではなく、正式な正規雇用者。
自らプロジェクトの企画書を作成し、国や自治体、民間企業から出資を募り、プロジェクトを実行する。
運営責任者は自身の給与もプロジェクトを通じて捻出しなければならないので、必然的に企画力、関係者を巻き込むコミュニケーション力や交渉能力に長けている人材が雇用され、プロジェクトが継続できる仕組みを構築しなければならない
それぞれの職務責任も明確なので、結果を出すことに真剣になる。

以前に紹介したPPPエージェントを中心に据えているイメージ。

トリプルヘリックスは現在、「市民」と「環境」も加わって、クインティプルヘリックスに進化しています。ロラン島の自然エネルギーの活用にもこうした連携の概念が使われています。

②デザイン・ドリブン・イノベーション
また、ミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティ教授が提唱した「デザイン・ドリブン・イノベーション」も興味深いところです。

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新製品の開発や、スマートシティの課題解決に使われている概念で、キーワードは「人間中心」「社会価値の創造」「共感」。
人間(ユーザー)の理解を大切にしつつ、ユーザーだけでは気づき得ない価値を、技術やデザインの力で見つけていくというもの。
デザイン・ドリブン・イノベーションとして有名な事例が、アップルウォッチと言われています。

デンマークではサービスロボットの分野、ビッグデータを活用した交通渋滞予測などで活用されているそうです。
予測できない社会のなかで、こうしたアプローチは有効な手段ではないでしょうか。

③Denmark design center(DDC)
前述したDDCは、社会課題を解決するために、デザインを戦略的に活用しています。

複雑化、デジタル化する社会で、DCCが強調しているのは、人間が中心で、公共の利益を追求し、環境とバランスをとった持続可能性を追求する「人間中心のガバナンス」

そのガバナンスの実現に必要なことは、多くの関係者が参加して、イノベーションを実現するための実証プロセスを経験・共有すること。
そのために公共の利益を追求できるリーダーシップを磨くこと。

最近では国内でも都市デザインを人間中心に考えるというアプローチがよく見られますが、DDCは様々な場面でこのアプローチを行っています。
行政は特に、学ぶべき点が多い。

例えば、行政が社会のリソースをうまく活用した事業例として

高齢者のデジタルリテラシーを向上させるプログラムを数年前にコペンハーゲンで実施しました。これまでの行政府の考え方ですと「学校をつくろう」とか「行政主催の講座を公民館で開催しよう」となるのですが、このプログラムでは、荒れた地域で育った若者たちに、地域の老人たちにデジタルのスキルを教えさせることを実施しました。このプログラムを通して、若者たち自身のデジタルリテラシーも向上しましたし、人に教えることで自分自身に対する自信や誇りを育むこともできました。と同時に、老人たちに地域コミュニティとの繋がりをもたらし、地域の安全性も高まったのです。
※以下のnoteから引用

人間中心の考え方や、アプローチの手法について詳しくは、こちらの記事がすごく興味深い。けっこう無料でも読めるので興味ある方は是非。


4.都市と地方の関係をデザインする

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そして近年では、「都市と地方の関係性」もデザインされています。
2017年にコペンハーゲン首都圏と地方都市のロラン市がサスティナブル協定」を締結しました。

きっかけはコペンハーゲン市の2025年までにCO2ニュートラルにするエネルギー政策。ロラン市も過去は財政赤字、高い失業率などあってその島の形から「腐ったバナナ」と揶揄されていた。
だけど、今やクリーンエネルギーの先進地域となり「グリーンバナナ」と呼ばれています。

そこで、ロラン市がコペンハーゲンに、必要な電力を売ったり、コペンハーゲンの資金によってロラン島にエネルギー研究センターを整備したり。
雇用、エネルギー、バイオマス、食糧、観光の分野で相互補完する協定となってます。

すごいのは、「外国から購入していた化石燃料」から脱却して、都市間でクリーンな電力を売買するのは、国外へキャッシュアウトしない持続可能な経済構造にも繋がること。

北村さん曰く

持続可能性の観点から見た大都市は、あらゆる資源が外から供給されないと維持できない。まるで保育器で育てられている「赤ちゃん」
・都市はお金、知識(情報)が豊富
・地方はエネルギー、労働力(ヒト※)、水が豊富
 ※地方で育ったヒトが都市に移動する
両者は対立するのではなく、本来相互に作用して成り立つ。大都市の住民は、エネルギーや食がどこから来ているのか学ぶ必要がある。

日本は「地方 vs 東京」となりがちですが、本来お互いの強みを活かすことが大切。人口を取り合うだけの構造では持続可能ではない。

まさにグローカルを実践する都市経営。


5.改めて問われる日本の民主主義

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デンマークだからできたのでしょうか。そうではないと、北村さんが力強く仰ってくれました。

最初からこんな連携ができたわけではなく。民間も行政も苦労しながら最適解を見つけてきた。

・そもそも社会に正解も完成形もない。
・未来のシナリオが見えないなか、その場にあるリソースで対応し続けなければならない。
・一人ひとりが違うことを認めて、最適解を探さなければならない。


考えてトライし、育てて手直し、またトライし続ける必要性がある。それが民主主義として息づいている。

デンマークは、どんな国でありたいか
そのためにどんなことが必要か
必要なものをどんな教育で育んでいくか
それを考え続けている。

日本にできないわけがないと。

デンマークはこうした精神がベースにあるから、
伸ばす教育で、自分の好きなことを追求しても、最終的に自分がどう社会に貢献するか、
そこに立ち返る道徳観が養われているから、幸福と云われる国になり得るのではないでしょうか。

ないものを探すばかりでなく、今ある魅力を磨いて積み上げる。そして持続する未来のこと、少しでも意識してみることは今からでもできるはず。

デンマークは、私にとって大きな気づきを与えてくれました。

今回の紹介はごく一部なので、デンマークの都市経営に興味のある方がいましたら、ぜひ一緒に学んでいきたいです。

そして明るい春がきますように。今回もありがとうございました!!




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