泉桜舟

二十代から「旅」や「禅」に惹かれ、「歴史」に親しみ、「人生と文明」をテーマに60年歩い…

泉桜舟

二十代から「旅」や「禅」に惹かれ、「歴史」に親しみ、「人生と文明」をテーマに60年歩いてきた。「現代は、文明の果実が見事なまでにたわわに実り、楽しいことに溢れているのに、なぜ、多くの民は幸せになれないのか」の大パラドックスに挑む。八十路なお、「夢」に生きる・・・ナイーブな老書生。

最近の記事

エピローグB;天地人和楽

#15 天地人和楽 1 コロナは教えてくれた  さて、最終章です。  本エッセイの上記の主題についてまず総括しておきたいと思います。  コロナの教訓の第一は、シンプルな、身近な、日常の幸福というものに気づかせてくれたことではないでしょうか。自粛生活をせざるを得ない状況下、外出も旅行も外食や呑み会も控えなくてならなくなりました。でも、日々の生活そのものの中にいろいろの発見がありました。家族が家族らしくなった、子供といる時間の楽しさ、親といる時間のぬくもり、食事、風呂、掃除、

    • エピローグA;知足適欲

      #14 1 幸福十景  今回は、これまで述べて来た「幸福の要素」を顧み、補足や修正をふくめて反芻したいと思います。まず、3週目に扱った「幸福の序論」ともいうべき「現代は楽しみに満ちてについて・・・ そこでは、歴史ある超大国、中国の古典「書経」から「五福」を紹介しました。その内容は次の通りでした。 1 長寿 2 富裕 3 健康 4 徳を好むこと 5 天命を全うすることの五つです。 いかにも漢字の国らしい簡潔明快な表現です 次に最も歴史の若い国、超大国米国の統計的調査(アン

      • Ⅸ 愛:いのちの泉・慈しみの心

        #12 1 日本;「詩歌の森・慈しみの国」  「太古の神々や天皇の歌から始まって、日本列島は代々詩歌の森におおわれてきた。いまでも日曜日ごとに新聞には短歌や俳句が寄せられている。これもこの国ならではのこと、山野の緑は減っても、言の葉はなお茂り、さやぎつづけているのだろうか。列島住民の魂の究極のよりどころは、この詩歌の森のうちにあるのかも知れぬ。」  これは国際的にも著名な比較文明・比較文化の碩学、芳賀徹先生の著書「詩歌の森」(中公新書)の書き出しにある文章です。  日本には

        • Ⅷ 悠遊・偕楽

          #11 1 「遊」;幸福に不可欠なもう一つの要件  序章で「幸福の要件」を五つ挙げましたが、もう一つ不可欠な要件があります、「遊」です。そもそも「遊び」とは何か? 幼児期の人間にとって「遊び」はすべてでした。それがやがて学習となり仕事へと展開し分離独立していきます。青壮年期には仕事が中心になりますが、遊びも常にその支えとなり、人生に喜びと潤いを与え続けます。「仕事は生活の背骨である」とはⅢ章で見た通りですが、それに肉付きのふくらみを賦与するのが「遊び」ではないでしょうか。疲

        エピローグB;天地人和楽

          Ⅶ 神様からの贈り物(健康)

          #10 1 元気が一番、元気なくすりゃ元も子もなし  私たちの身体は、なんと30兆の細胞から構成されているといいいます。この不可思議玄妙なる人体は、1兆単位の細胞がまとまって、脳、目・耳・鼻・口を創り、精巧な五臓六腑を形成し、四肢および手指10本足指10本を造り、動脈静脈や毛細血管となって全身をめぐり、骨格となり骨髄液となり,絶妙なる生殖器となり卵子と精子と生み出すのです。  この無数の全器関が複雑に絡みあいながら、時時刻刻の情報を交換しあって、日々整合性を保ち正常にバラン

          Ⅶ 神様からの贈り物(健康)

          Ⅵ お金

          #9 1 「今も昔も、人間万事、金というものが土台さ」  幕末から維新にかけて獅子奮迅の活躍をした勝海舟の言葉です。  260年続いた徳川幕府の崩壊を予見し、西郷隆盛と組んで100万都市だった江戸の街を戦火から救い、明治新政府の樹立を影で支えた大政治家でした。幕末大乱の中で困窮した幕府がフランスから安易に金を借りようとしたとき断然拒んで国難を防ぎ、一方では戊辰戦後の負け組である幕臣たちの生活をどう救うか、茶の栽培をはじめいろいろの手を尽くしました。その体験が次の言葉になりま

          Ⅵ お金

          Ⅴ 家族・仲間

          #8 1 人生は家族で始まり家族で終わる  「世の中がどんなに変化しても   人生は家族で始まり家族で終わる」  英国の美術史家、アンソニー・ブラントの言葉です。  人間は家族のなかで生まれ、家族に看取られるなかであの世へ旅立つ。  途中ではいかに離れようとも人生の始めと終わりには家族が傍にいる。  むろん独りで終幕を迎えることはあっても葬式には家族の誰かが立ち会い、一周忌、三周忌には近親が集って法事をおこなうのが常です。血はそれほど運命的であり、家族は祖先から子孫へとつな

          Ⅴ 家族・仲間

          Ⅳ 仕事はすべて天職、楽しむべし!

          #7 1 仕事とはそもそも何か  「人間という奴は、一生のうちに何か夢中にならんとな。なんでもいいから夢中になるのが、どうもいちばんいいようだ」とは「孔子」の著作もある井上靖の言葉です。  なかでも「仕事」に夢中になれる人は、一番幸せだということになりましょうね。  では仕事とは何か、ちょっと筋立てて考えてみましょうか。  序章の処(真の幸福とは何か)で述べましたが「中国の古典」、「米国の調査」、そして日本の「五か条のご誓文」を素材に読み説いてみましょう。勝海舟や福沢諭吉

          Ⅳ 仕事はすべて天職、楽しむべし!

          Ⅲ 装いの悦楽

          #6 1 衣から装いへ  七五三の季節になると、近くの神社で可愛い子供たちが目いっぱい着飾って嬉々としている姿をみるのはいいものです。若いパパもママもそしてお爺ちゃんやお婆ちゃんもそれなりにお洒落をして幸せそうです。どんな少女でもいい衣装を着けた時はウキウキして幸せがこぼれ落ちそうな表情をしているし、男の子もなにか誇らしげで「オレちゃんは男だぞ」とでもいいたげな高揚した気分が伝わってきます。いつもは実用的な目立たない姿でいる大人たちも、髪型を整え化粧もして礼服を着ると別人の

          Ⅲ 装いの悦楽

          Ⅱ 住まいの楽しみ

          #5 1 住まいの原点は、寝る・育てる・食べる  もう七百年も前のことですが、かの兼好法師は「徒然草」でこう述べています。 人間の生活にとって重要なものは・・・ 「第一に食物  第二に着る物  第三に居る場所  人間の大事、この三つに過ぎず、  飢えず、寒からず、風雨におかされずして、閑かに過ごすを楽とす」 住まいといわず、居る場所といっています。しかものどかに楽しめるところといっています。のどかでなく楽しめない所では失格という意味でありましょうか。  住まいの役割とはそ

          Ⅱ 住まいの楽しみ

          Ⅰ 飲食の快楽

          #4 1 食事は第一の快楽  まず、食事について私の体験的な一日をご紹介しましょう。  私は朝型でだいたい5時台に起きて夜は11時台に床につきます。家族は仕事の関係で夜型なので生活時間が完全にずれています。つまり、同居はしていても別時間を生きていて、食事に関しては独り者と同じなのです。  そこで朝起きるとまず食事の支度をします。定番はドンクのパンにオランダの黒コショウ入り生チーズ、紅茶はスリランカの香り高いアールグレイ、蜂蜜はアルゼンチンの美しい湖水地帯の産、ミルクは日本の

          Ⅰ 飲食の快楽

          現代は楽しいことに満ちている

          #3 1 「幸福」の五つの要素  「幸福」という言葉に、みなさんはどんな意味を感じていますか?  私は、正直に申し上げると、「幸福」という言葉がピンとこないのです。「幸福」という字面から感じるのは、なにか静的で、穏やかな感触があります。ダイナミックで、刺激的で、ワクワクするような躍動感が伝わってこないのです。ですから、これに代わる言葉はないかと探してみました。「生き甲斐」、「生きる歓び」、愉快、愉悦、快楽、歓楽、歓喜、感動など・・・でも、ピッタリという訳にはまいりません。

          現代は楽しいことに満ちている

          プロローグB;モアモア文明から 適々文明へ

          #2 1 モアモア文明、度が過ぎるとモノみな悪になる  「モア、モア」とは「もっと豊かに、もっと便利に」という意味です。いわゆる近代化とは科学技術の進歩と産業経済の発展によって、高性能の機械や設備が生まれ、優れた組織やシステムが誕生し、人々の生活が次第に豊かになり便利になっていく過程といえますね。ところが近代文明の進歩発展は目ざましく、驚くほど豊かになり便利になりました。さらにコンピューターが発明されてその応用技術が多分野に及ぶと、一段とスピードを増して今や「豊かさと便利さ

          プロローグB;モアモア文明から 適々文明へ

          プロローグA;真の幸福とは何か ~コロナは教えてくれた~

          創刊号 #1 1 新型コロナと現代文明  2020年、春、日本は突然、コロナ大魔神の襲来に見舞われました。 それはまるで幕末の「黒船来航」を思わせるような衝撃的な出来事で、またたく間に日本列島の隅々にまで知れ渡りました。    人類は、欧米で250年、日本でも150年、 いわゆる近代化なるものを進め、それまで想像もできなかったような驚異的な大文明を築き上げました。 その結果、文明の大樹には見事な果実が溢れんばかりに豊熟し、人々はその恩恵に浴して、中世時代には一部の貴族や富

          プロローグA;真の幸福とは何か ~コロナは教えてくれた~