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現代は楽しいことに満ちている

#3

1 「幸福」の五つの要素

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 「幸福」という言葉に、みなさんはどんな意味を感じていますか?
 私は、正直に申し上げると、「幸福」という言葉がピンとこないのです。「幸福」という字面から感じるのは、なにか静的で、穏やかな感触があります。ダイナミックで、刺激的で、ワクワクするような躍動感が伝わってこないのです。ですから、これに代わる言葉はないかと探してみました。「生き甲斐」、「生きる歓び」、愉快、愉悦、快楽、歓楽、歓喜、感動など・・・でも、ピッタリという訳にはまいりません。やっと行き着いたのは「楽しく生きること」でした。

 そこで気づいたのは、「幸福」は気分的なもの、感性的なもの、しかも多面的なものだということです。それは人それぞれであり、一言でいうのは土台むりなこと、しょうがないから「幸福」という言葉を仮につかっているだけと理解したのです。でも、そういう気分にさせる要因はあるはずだ、それは何だろうと探索していたら回答を二つ見つけました。

 一つは五千年の歴史をもつ大中国における「五福」という言葉です。それは古典中の古典といわれる「書経」にあるものです。
㈠ 長寿
㈡ 富裕
㈢ 健康
㈣ 徳を好むこと
㈤ 天命を全うすること

の五つです。
 なるほど、さすが中国だと思いました。徳とは善をなすこと、天命とは人それぞれの仕事をやりとげること、と解釈すればすんなり理解できます。日本人は長く大中国の影響を受けてきましたから、多くの人、とくに戦前生まれの人は共感できるのではないでしょうか。
 
 もう一つは、若い大国米国生まれの言葉です。歴史といえば植民地時代から数えても五百年、独立後だと二百五十年にもならない国です。そこで「五福」に準ずる「五つの言葉」をみつけました。それは、いかにもこの国らしい現代的統計手法によって抽出されたもので、内容は世論調査で著名なギャラップ社がまとめた『世界150カ国調査でわかった人生を価値あるものにする5つの要素;「WELL BEING」(日本訳:「幸福の習慣」)です。そこには次の五つが挙げられています。
1 仕事に情熱を持って取り組んでいる
2 よい人間関係を築いている
3 経済的に安定している
4 心身ともに健康で活き活きとしている
5 地域社会に貢献している

 とても具体的でわかりやすく米国らしいなと感じました。これを中国の古典と照合してみると、仕事は天命、経済は富裕、健康は健康、三つは全く同じといっていい。それから人間関係は徳に通じますから、これもほぼ同じと理解できる。米国の調査でちょっと違和感があるのは地域社会への貢献ですが、私見ではこれも人間関係に含めていい感じです。一方、中国の挙げる長寿というがむしろどうかという気がします。現代では特に医療事情が進歩して先進国では長寿は当たり前のようになっています、長寿すぎてむしろ困っているくらいだからです。

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 とすれば、「幸福の要素」は古今東西、同じなんだ、同じ人間なんだからそうなんだと納得し安心しました。そして、一つ空席ができたので、私なりの解釈で現代的な要素を一つ加えさせていただき、五つにまとめたのがこの図です。それは「日常生活の価値」であり「それを楽しむこと」です。前にも述べたように現代では文明が著しく発展して暮らし向きが格段によくなりました。貧しい時代は生活そのものが苦しく、余り楽しむ余裕がなかったともいえます。ところが今日では「日々の暮らし」のなかに幸福の要素がたっぷりあるのに、そのことに気づかず宝の持ち腐れ的に過ごしている人が多いのではないかと思ったからです。特に日本人は、各種の調査で「幸福度」が低く、自殺率も高いという意外な結果が出ています。その意味で「いかに楽しく生きるか」は、もっと真剣に取り組むべき極めて重要な課題だと考えたのです。

2 二つのマスターキー;夢と愛

 さて、幸福の要素を「幸福への扉」に譬え、それを開ける五つの鍵としてみました。ところが、どうしても鍵が足りないことに気づきました。人生はままならないことが当たり前で、そう好都合には事は運ばないからです。どこの扉も開かないような場合、救ってくれる鍵が必要です、マスターキーですね。それが「夢」であり「愛」であると私は思うのです。それを示したのがこの絵図です。

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 「夢」は実に重宝な優れものです。現実がいかに厳しくても夢を見るのは自由ですから、イマジネーションを働かせてヴァーチャルな世界に遊び、いつか実現すると思えば楽しくもなり希望も湧いてくるからです。それに「夢」は「夢」だからとバカにはできません。「夢」は願いを込めて祈り続けると「念ずれば通ず」でしばしば現実になるからです。
 人間は不思議なもので、今日幸せでも明日に望みがもてないと不安になる、逆にいくら今は困っていても明日、明後日に明るい望みがあれば耐えられる、ちゃんとまっとうに生きていけるのです。「夢」はいわば人生の万能薬でもあると思います。

 もう一つの「愛」は、申すまでもありませんね。男女の愛、夫婦の愛、友達の愛、とりわけ母の愛、父の愛は無償の愛であり、「慈愛」というべき深い愛です。若い時にはやたらに親や世間に反抗したくなることがあり、暴力や諍いで警察沙汰にさえなることがあります。社会に出ても仕事や人間関係で酷く失敗し、どうしようもない時があります。そんなとき黙って受け入れ、深く同情してくれるのが「慈愛」です。それは祖父母にも学校の先生や信仰の師にもあることで、その深い愛が当人の心をいやし再起の元気を蘇らせてくれるのです。
 愛もまた人生の万能薬です。夢と愛という守護神をもつことができれば、人生の荒波も困苦も乗り切って幸福をつかむことも可能というものです。

3 コロナも教えてくれた「人生の楽しみ方」

 ところで、今回のコロナ禍の下で私たちが気づいたことがありますね。
 自由な行動が制限されて日本中が自粛している間に、だんだん解ってきたことは、意外にお金はそう使わなくても、生活できるし、楽しいことはいくらもある、ということにです。むろん職や所得を失うような直撃を受けた人々は別にしてのことですが、一般の人々にとっては、料理や掃除を手伝ったり、子供と一緒に勉強したり遊んだり、買い物その他これまでしたことのないことを体験して、「なかなか楽しいな」と思ったことがあるはずです。また、住まいの近所を歩いてみれば、自然の美しさ、風の肌触り、雲の変化の面白さなどにも気づき、こんなところに洒落た店があったとか、素適な手作り工房があるとかいろいろの発見があったのではないでしょうか。
 そして何よりも満員電車で通わなくても、リモートで仕事も勉強もできることを知りました。そんなあれやこれやで多くの人々が大人も子供も日常の生活そのものの中に「生き歓び」を感じることがあったと思うのです。

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 さて、三百年も前の人、貝原益軒を知っていますか?
江戸時代元禄のころ、あの有名な「養生訓」を書いた人です。でも、益軒先生の主著はむしろ「楽訓」であることは意外に知られていません。この方は徳川の政治が安定し新田開発や商品の流通も一段落して経済が成熟段階にはいったころ、いわばゼロ成長の状況が続く中で、「人生を十倍も楽しもう」と自ら実践し、人々にも「楽しみ方」を教え、いわば「楽しみ成長論?」を主唱した大先生でした。

 コロナショックは、「我々が水膨れのような経済成長を無理やり続けて排せつ物を地球に垂れ流しているのに腹を立て、いきなり水をぶっかけて警告を発したようなもの」ではないですか。そして我々に、成長すべきは経済ではなく非経済的な価値ではないの?と教えてくれたのではないでしょうか。
 益軒先生が、今ここに現れたら、こうのたまうに違いありません。
「君たちは人生の楽しみ方を知らないようだ。こんなに楽しいことがあるのに、折角の人生がそれではもったいない。金や名を追いかけるのではなく、真の生きる楽しさに目覚めたらどうじゃ・・・」と。
 いまの日本には「幸福・生き甲斐倍増論」こそ必要なのではないか、と私も思ってしまうのです。 

4 核の傘の下、夢・希望に託すか絶望の下に生きるか?

 「明珠在掌」、この言葉の元の意味は「財宝は掌の上にあるのに何故気が付かぬのか」という意味です。が、その後もっとひろく、精神的に貴重なもの、悟り幸福のようなものにもたとえられています。ここでは「楽しみは近くにある、手をのばせば届くところにあるのに・・・」という意味にとってください。

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 かの「青い鳥」で有名なメーテルリンクもこんなことをいってます。
「みんなが考えているより、ずっとたくさんの幸福が世の中にはあるのに、たいていの人はそれを見つけられない」でいると。

 しかし、そんなノー天気なこといってていいのか?という声が聞こえて来ます。
 外には核戦争の危機、気候の大変動、内には大借金、そのうえコロナ禍で国はさらに大きな債務を抱え込むことになる、その付けは誰がいつ払うのか?と。
 そうです、日本人はすっかり借金やクレジット馴れして不感症になっていますが、この後始末はいずれしなくてなりません。その時にはきっと大波乱が起きる、戦争か大恐慌か革命的な大改革か大インフレかになるでしょう・・・それは承知し,覚悟しています。

 思うに、対応する道は二つしかありませんね。
 一つは、人間を愚かとみて絶望し、あきらめの境地で日々悶々と過ごす道です。
 もう一つは、人間の賢さを信じ未来を「夢と愛」に託して、日々を楽しく生きる道です。賢慮を信じるか、愚昧を信じるか。
文明を利器にするか、凶器にするか。
 私は人間の叡智を信じたいと思います。

予告

次回からは、「幸福の実景」、「人生の楽しみ方」を具体的な風景として取り上げ、「人生の達人たち」の名言名句からも学んでいきたいと思います。
まずは「日常の生活を楽しむ」ことから、そして順次、仕事、家族と進んでいくつもりです。

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【毎週土曜朝発信】

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