王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第36話
第36話 弱虫の取扱説明書
ーー前回ーー
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それなのに現実、目の前の那智は2つの能力を使用し攻撃をしてきた。琥樹は那智を同じく風使いだと考えていたため、先ほどの雷の攻撃は想定外だった。
戸惑う琥樹に、那智は鼻で笑う。
「あの攻撃をよく避けたなぁ・・・ふぅん。気を感じる能力は長けてるよ坊主。そこは褒めてやる。・・・・でもな坊主。逃げるだけじゃ、何にも変わらねぇんだよ!!!」
すると那智は思いっきり足で地面を蹴ると、高く飛び足を伸ばした。と同時に足に風を纏い、その上から雷を纏う。
「なんで・・・」
「ぼけっとしてて大丈夫か?行くぞ坊主!!!!」
その掛け声に我に返った琥樹は、右の利き腕が使えないため、左手で扇子を構えた。
"ガキーーーーン!!!"
「っく!!!」
那智の足技を何とか扇子で食い止めるも——
"ビリッ!!!"
「ぐあ!!!!」
那智の足に纏った雷が、琥樹の扇子を伝い左手を襲った。驚いた琥樹は思わず扇子を離すと、すかさず那智は琥樹の腹に蹴りを入れた。
"ドシーーーーーーン!!!"
勢いよく太陽の泉周辺の森に吹き飛ばされる琥樹。
吹き飛ばされている最中も、待った無しと那智はすぐさま琥樹に追いつき、今度は上空に突き飛ばした。
「かはっ・・・!!!!」
那智の猛追に息もできずなすがままの琥樹。
"ドサッ・・・"
森の奥まで吹き飛ばされ倒れると、あまりの強い蹴りに、琥樹は何とか息をするのに必死だった。重ねて雷の攻撃により、全身が痺れている。
猛追の中で何故那智が風と雷の二つの能力を使えているのか、全くわからず混乱する琥樹。
「カハッ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
冷たい雪の地面に倒れこみ息を整えていると、ふと琥樹は思った。
(な・・・なんで・・・俺たち休息で・・・来たはずなのに・・・)
いつもは任務で他の地方に行っていたため、今回休息という名目で太陽の泉に行けるのは琥樹にとって何より嬉しいことであった。
が、一転して現在、冷たい雪の上に倒れ込みボロボロになった自分の姿に涙を浮かべた。
(マダムは現れるし・・・洋一さんは崖から落っこちちゃうし・・・さっちゃんたちとは連絡取りたくてもコウモリの翼も隊服もないし・・・俺・・・このまま死んじゃうの・・・?素っ裸で・・・?)
「死にたく・・・ないよぉ・・・。せめて服着たいよぉ・・・」
冷たい雪がクッションとなり、飛ばされた琥樹を包んだものの、今では凍えるような冷たさが琥樹を襲った。素肌にはかなり酷であり、痺れだけではなく凍傷にも所々なっていた。
「ぅう・・・どうしたら・・・」
那智との力の差に愕然とし、この状況の打開策など浮かばない琥樹。
「まだ・・・死にたく・・・ないよぉ・・・」
朧げになっていく意識の中、琥樹はとある日のことを思い出していた。
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『あらら、琥樹くん。こんな所にいましたか。戦術班の皆さんが探してましたよ。』
『ぅう・・・坂上さん・・・俺のことはいないものだとスルーして・・・ぐすっ・・・』
『あははっ。こんなに泣き腫らして・・・』
『戦術班、怖いんだ。人をマダムに向けて投げるんだよ。ぐすっ・・・。俺いつかマダムじゃなくて、戦術班に殺されちゃうよ。ぅう・・・』
『そうですねぇ・・・。戦うのは怖いですか?』
『当たり前だよ!怖いよ!死にたくないもん!!俺はセカンドとしてそんなに強くもないし・・・逃げるしかできないんだ・・ぐすっ・・・』
『ふむ・・・確かに。でも、琥樹くん。ちょっと視点変えましょうか?』
『・・・視点?』
『はい。こんな琥樹くんにも、誰にも負けない強みがあります。』
『強み?・・・俺が?』
『はい!他のセカンドたちがせずに、琥樹くんが誰よりもしてることです。』
『ぇえ?俺なんて、いつも泣いて喚いて逃げてるだけ・・・』
『はい。それです。』
『坂上さん・・・俺を馬鹿にしてるの?』
『とんでもない!真面目な話ですよ。』
『逃げてることが強みになんて・・・』
『琥樹くんは、誰よりも先に危険を察知して、すぐさま逃げます。』
『それでいつも戦術班に連れ戻されます。』
『あははっ。そうですね。でもその強みは、琥樹くんの最大の武器にもなり得ると思いますよ。』
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琥樹は、とある日の坂上との会話を思い出していた。
(なんでこんな時に・・・坂上さんとの会話を・・・。親のいない俺を養父として育ててくれた坂上さん・・・俺が死んだら悲しんでくれるかな・・・)
意識が朦朧としながらも、考えていると——
"ピクッ"
「あ・・・」
那智がこちらに近づいてきていることに気がついた。
(こっちに来てる・・・あの木の方・・・ん?)
そう考えていると、琥樹はとある違和感を覚えた。
(なんか・・・もう一つ・・・いる気が・・・)
那智に追われているはずが、なにやらもう一つの気配を感じる琥樹。
「・・・え・・・待って・・・・待って待って待って!!増えた?え!増えたの!?脅威が増えたの?!?嘘でしょ?!今度は何が来るの?!!!」
泣きながら喚いていると——
「みっけ。」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
那智に見つかった。
「たくっ。んな大声で叫んでりゃ見つかるに決まってんだろ。アホかお前は。」
呆れながら、雪の上に寝そべる琥樹に近づいていく。
「ってかさ。お前、寒くねぇの?そんな裸で雪の上寝そべって。」
「寒いよ!!寒いに決まってるでしょ!?凍え死にそうだよ!!」
「そうかそうか。ならすぐ終わらせてやるよ!!」
そう言って、再び那智の攻撃が始まった。
"シュン!!"
「うわぁ!!」
驚き咄嗟に逃げる琥樹。防衛本能か、頭よりも先に身体が動いた。
「ははっ!まだ逃げる力が残ってんだな!すばしっこいやつ!!」
直ぐに今度は雷の攻撃が琥樹の頭上を襲う。
(・・・あれ?)
"ドシーーーン!!!!"
「やったか?」
電流が周囲を覆う中、那智は琥樹の様子を伺う。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・危ない・・・」
しかし琥樹は何とかスレスレで避けていた。
その様子に、那智は笑うしかなかった。
「はっ・・・・!はっはっはっ!あっはっはっはっは!!!ここまで避けるなんて・・・本当やるじゃねぇか!」
なんとか立つ琥樹に、那智はすかさず目で追えないスピードで近づき、足で琥樹のお腹を蹴り上げた。
"ドスッ!"
「ぐはぁ!!!!」
渾身の一撃が琥樹のお腹を襲う。
あまりの衝撃に琥樹は血を吐き、白い雪の地面に滴る。
「・・・っよっと!!!」
"ドスッ!"
そしてもう一発蹴り上げると、琥樹は宙にあがりそのまま雪の積もる地面に倒れた。
「はっ・・・はっ・・・はっ・・・」
さすがに骨が折れたかもしれない。あまりの衝撃に息ができずにいると、すかさず那智は右手を上げ指を鳴らす。
”パチンッ!”
その瞬間、再び琥樹の頭上に雷が降ってくる。
しかし琥樹は、頭上の雷ではなく違う方向に視線を送った。
「流石に当たるだろ!?!!」
"ドシーーーーーーン!!!"
再び恐ろしいほどの地響きと共に、琥樹が倒れ込んだ場所に雷が落ちた。暫く雪が舞いう中、那智がじっと目を凝らすと、琥樹らしき人影が倒れているのがわかった。
那智がやったかと思った瞬間——
"タッ!!!"
「なっ!!?」
寝転んでいた琥樹はなんとか身体を起こしたかと思うと、とある場所に走り出した。
「あ・・・?また逃げたか?」
(ほ・・・本当は行きたくない・・・いや、絶対行きたくないんだけどね・・・!お・・・俺の勘が・・・いや、危機を察知するのが本当に強みとなるなら・・・!!)
琥樹は何かに気付き、とある木の前まで重い身体を持っていくと、慣れない左手で扇子を持った。
「察知するなら・・・先にやっつけちゃえばいい!!これ以上痛いのは嫌だからね!!!」
「おい!!?!待て!!!」
那智が何やら焦り出したがもう遅い。
「第二血響!飄風の乱!!」
琥樹は目の前の大きな木に、無数の鋭い風の刃を向けた。
"シュ!!!シュ!!!ザシュ!!!!!"
すると、大きな木は倒れ始め同時に何やら悲鳴が聞こえてきた。
「わわわ・・・・ぁぁぁぁああああ!!!」
「榛名ぁぁぁぁぁぁああ!!!!」
"ドシーーーーン!!"
これまた凄まじい地響きを上げ、木が倒れた。
・・・いや、木だけではないようだ。
那智は倒れた木に急いで近づくと、木の枝の間から、イタルアサーカス団の榛名の巨体が一緒に倒れてきた。
無数の風の刃により、所々傷を負い泡を吹き気絶していた。
その様子に、琥樹は荒く呼吸しながら少し安堵していた。
「や・・・やっぱり・・・」
寒いはずだが、額にかいていた汗を拭き取っていると、那智が榛名を抱えながら口を開いた。
「・・・いつから気づいていたんだ?」
「・・・俺は人より数倍弱虫だから・・・。誰よりも危ないと思ったら一目散に逃げてきて・・・だから、危険を感じることが・・・たぶん人より早くて・・・。那智さんが風で攻撃するときは、那智さんがいる方から危険を感じるのに、雷の攻撃のときは違う場所から感じたんだ。・・・最初は・・・感覚がおかしくなったんだと思ったけど・・・でもさっきの風と雷の交互の攻撃で確信したんだ。雷の攻撃は那智さんがしてるんじゃないって。・・・だから、さっきの一撃が来る時、頑張って集中してみたら・・・その木から危険を感じて・・・一か八かでやってみただけだよ。」
琥樹の言葉に、那智は暫く気絶する榛名を抱きしめていたが、優しく雪の上に寝かせると——
"スッ!!"
「!!」
目にも止まらぬ速さで琥樹の前に来て——
"ドーーーーン!!"
「がはっ!!!」
再び琥樹の腹に思いっきり蹴りを入れた。
その力で飛んでいく琥樹。
しかし、那智は飛んでいる状態ですかさず琥樹に蹴りを再びいれる。
"ドスっ!!!!"
琥樹に息などさせるかと言わんばかりに蹴りを入れていく那智。ただでさえボロボロの琥樹は、かなり危ない状態だ。
蹴りを何発も入れられ、吹き飛ばされていると、いつのまにかまた太陽の泉に戻ってきていた。
太陽の泉の目の前で、力尽き倒れる琥樹。もう身体に力など入らない。そんな琥樹に、足をかける那智。
”グッ・・・”
「ったく。初めから力を抜くことなんかなかったな。すぐに終わらせてやるよ坊主。榛名の分もな。」
そして足に風を纏わせはじめた時、琥樹は朧げな意識の中、力を振り絞って口を開いた。
「・・・な・・・んで・・・」
"ピクッ"
「・・・なんで・・・こんな・・こと・・・を・・・」
問いかける琥樹に、冷たい視線を向ける那智。
「・・同族・・じゃない・・・か・・・同じ・・・太陽族・・・」
そう言う琥樹の右腕に刻まれた太陽の刻印をちらっと見ると、那智は琥樹の右腕に足をかけた。
"ッグ・・・"
「うっ!!」
雷によりやられた右腕に、激しい痛みが襲う。
「・・・同じだと?酷い戦禍を戦ってきた俺たちを捨てておいて、まだ太陽族のために生きろって言うのか?・・・ふざけるな!俺は、この族に人生捧げるために生まれたんじゃない!!!俺は・・俺が守りたいものを守る!ただそれだけだ!!!それに・・もう・・・もう戻れねぇんだよ・・・」
那智は怒りを込めて叫ぶも、表情は眉をひそめ苦痛を感じているような表情をしていた。
琥樹は、その那智の表情に驚き目を見張るも、那智は風を纏わせた足を思いっきり上げると、身体中傷だらけになった琥樹を見て言った。
「じゃあな、坊主。中々に楽しかったぜ。」
そして、那智の足が琥樹に降りかかった。
「第二血響 アシギリ」
——いや、降りかかったはずだった。
"ガキンッ!!!"
「!!!?」
すんでのところで、那智の足が止められた。
太陽の泉から上がったばかりだろうか。
身体から湯気を纏わせ、これまた素っ裸のとあるおじさんが、太い木の枝で那智の足を止めていた。
ーー次回ーー
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