王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第37話
第37話 刺客と目覚める支客
ーー前回ーー
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「じゃあな、坊主。中々に楽しかったぜ。」
那智の足が琥樹に降りかかる。
「第二血響 アシギリ」
——いや、降りかかったはずだった。
"ガキンッ!!!"
「!!!?」
すんでのところで、那智の足が止められた。
ボロボロに倒れる琥樹の前に現れたのは・・・
太陽の泉から上がったばかりだろうか。
湯気を纏わせ、これまた素っ裸な状態のおじさんが、太い木の枝で那智の足を止めていた。
「・・・っち。」
那智は、攻撃を受け止める裸のおじさんを見ると舌打ちをし、一旦琥樹たちから離れる。
那智が離れたのを確認し木の枝を投げ捨てると、裸のおじさんはボロボロの琥樹を抱えた。左手に握る扇子に視線を向け、おじさんはぼそっと呟く。
「・・・・セカンドか?」
身体の節々が痛い琥樹は、目の前の誰ともわからないおじさんに視線を向けた。
バキバキに割れたメガネをかけ、いまいち瞳が見えにくかったが、琥樹を抱える腕は、筋肉につつまれガッチリしている。クルンと巻いた前髪は特徴的で、筋肉質ではあるものの丸々とした体形はどこか雪だるまを連想させた。
「・・・お・・・おじさん・・・だ・・・れ・・?」
琥樹が口を開くと、おじさんは琥樹の痛々しい姿に太い眉を歪めた。
「・・・那智・・・お前、何してるんだ?この子は誰なんだ?」
少し離れた場所にいる那智に問いかけるおじさん。
那智を知っているようだ。
「・・・俺たちの計画に邪魔だったから、退散してもらおうとしてただけさ。」
「計画?」
「そ。あんたも邪魔なんだよね。シャムス軍副隊長さん。」
"ガバッ!!!!!!!"
「うおぉお?!」
その言葉に、琥樹は先程の怪我なんかへっちゃらとでも言うように、思いっきり飛び起き、副隊長と呼ばれるおじさんの肩をつかんだ。
「お・・・!!!おじさん!!」
「え」
「おじさん、シャムス軍の副隊長なの?!?副隊長?!ねぇ!!!」
あまりの琥樹の勢いにたじろぐおじさん。
「え、ま、まぁ・・・おじさん、一応副隊長だけど・・・その、猛って言うんだ。坊っちゃん。」
その言葉に、琥樹は顔から大粒の涙を流し始め、思いっきり猛に抱きついた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁあん!!!ご・・・ごわかったよぉぉぉぉぉお!助けてよぉぉぉぉぉお!おじざぁぁぁぁあん!!うわぁぁぁぁあん!!!俺死んじゃうよぉぉぉぉぉおおお!!!!」
「え、あ、え?」
いまいち状況が分からずに困惑する猛。
大泣きする琥樹の右腕にある太陽の刻印を見て、琥樹が同族であることを確認した。
すると那智は足をトントンと鳴らし、何やら体操をし始めた。
「全く・・・時間もそんなにねぇんだが・・・・。面倒な客が目覚めちまった。」
足を伸ばし何やら準備をする那智に、再度猛は問いかけた。
「那智、もう一度聞く。お前、何をしてるんだ?」
周囲に充満する那智のセカンドの気配。
ボロボロになって泣き叫ぶ琥樹。
折れた木々や、真っ白な雪に染まる赤い血の色。
そして——
太陽の泉に浮かび、目を覚さないシャムス軍隊員たち。
(何が・・・どうなってるんだ?俺は確か、太陽の泉から戻ってこない隊員たちを連れて戻らないと、夕貴に殺される状況だったはずで・・・なんで裸になって泉で眠ってたんだ?)
猛が必死に状況を整理していると——
「第三血響、舞踏蹴り!!!」
"シュン!!"
「っ?!」
「うわぁ!!!」
那智が攻撃を再開した。縦横無尽に動く風の刃が猛や琥樹を襲う。まるで、那智のステップを風が踏んでいるようだ。
瞬時に猛と琥樹はなんとか避ける。
「おい!!那智!!何をするんだ!!」
那智は同族。
同じシャムスに住む者であり、一緒にこのシャムスを守ってきた仲間でもある。
そんな那智が、何故攻撃してくるのか理解が追いつかない猛。
しかし、反応は薄くそのまま攻撃を続ける那智。
"シュン!"
「うわ!」
"ガシャン!"
「ぎゃ!」
"ジュン!"
「ひっ!!」
とりあえず逃げまくる猛と琥樹。
猛は攻撃を返すどころか、琥樹と共に必死に逃げている。
そんな状況に、琥樹は何やらデジャブを感じてきていた。
(な・・・なんか・・・展開がさっきと同じな気が・・・)
何故か嫌な予感を感じ始めた琥樹に、那智はニヤッと笑った。
「坊主、その猛が現れて嬉しそうにしてたが、諦めた方がいいぞ。」
「え?」
「シャムス軍の副隊長はへっぽこで有名だからな。ははっ。」
「・・・・え?」
那智の言葉に琥樹は猛の方を勢いよく振り向くと、怒ることもせず、苦笑しながらまん丸の頭をかいていた。
(――あ、これホントなやつ・・・)
一瞬悟ったが、琥樹はすぐさま頭を振った。
「ふ・・・副隊長まで上り詰めるには、何より戦闘能力が重要なはずだよ!!そうだよ!!戦闘能力が低くて副隊長になれるはず・・・・」
言い返しながら猛を見るも、何やらもじもじし始めた猛。
(――あ、これだめなやつ・・・)
また悟ったが、すぐさま再び頭を振る琥樹。
「じ・・・・じゃあどうやって副隊長になったの?!?試験とかあるんでしょ?!!」
セカンドの中で頂点を極めたものが持てる称号、天神。
シャムス・ソール・アテン・タイヤン——
各地域の太陽族軍隊長4人は、皆その称号を保有している切れ者であり、色々な意味で曲者でもある。
そんな4人の軍隊長と隊員たちを繋ぐのが軍の副隊長である。
様々な能力が求められるが、勿論戦闘能力は軍隊長に次ぐ能力を誇らなければいけないことは言わずもがなである。
「どうやってって・・・えーっと・・・」
猛が言い淀んでいると、痺れを切らした那智が口を開いた。
「みんな嫌がったからだぜ。」
「へ?」
「シャムスの軍隊長はご覧の通り、かなりの曲者だろ?みんな嫌がって最後まで唯一残ったのが猛ってわけ。」
那智の説明に、琥樹は声にならない叫びをあげる。
「ま・・・まさかの消去法?!」
どこか恥ずかしいのか照れる猛。
「いや、照れるとこじゃないよ!!!嘘だ!!え、ってか副隊長って消去法でなれるもんなの?!!嘘でしょ!!それに、名前だって強そうじゃん!!」
必死に猛の肩に抱きつくも・・・
「よく言われるよ、あははっ。」
「いや、笑ってないで否定してよ!!!!!」
"シュン!!"
「うわぁ!?」
そんな状況を嘲笑うように、那智はすかさず足技の攻撃を続けた。
"カン!!"
「ぎゃ!!」
"ズサっ!"
「ひぇ!」
"ジュン!"
「うぎゃ!!」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
(こ・・・猛・・・)
なんとか那智の攻撃を2人で避け続け、琥樹は確信した。
(・・・俺と弱虫だ・・・・)
琥樹は悔し涙を流しながら、唇を噛み締めた。
「えっと・・・ぼっちゃん・・・」
「ぅう・・・琥樹です・・・・」
「こ・・・琥樹くんか。琥樹くんはえーっと、セカンド?シャムス軍では見たことないけど・・・」
忘れてはならないのは、2人とも今、素っ裸であること。
情報は右腕の太陽の刻印のみ。
「俺は、太陽王直下の調査部隊のセカンドです・・・。」
「調査部隊・・・??」
猛は聞いたことないと首を捻ると、琥樹は付け足した。
「そこら辺では、コウモリ部隊って呼ばれてます・・・。」
すると少し間が空き、猛は閃いた。
「・・・・ぁあ!コウモリ部隊か!でもなんで太陽の泉に?」
「・・・本当は太陽の泉で身体を休めるために来たんですけど・・・気づいたらこんな事になってて・・・ぅう・・・帰りたい・・・!!!!!」
「そ・・・そうか。大変だったなぁ。」
泣きべそをかく琥樹に、慰めようと猛が頭を撫でる。
「猛さん・・・」
コウモリ部隊では、泣きべそをかいて慰めてくれる人なんていない。
猛の優しさに、琥樹は感動するも——
"シュシュ!!"
「うぎぁあ?!?」
すかさず那智の風の刃が降り注いだ。
「・・・感動してる場合じゃない!!猛さん!!どうしよう!!もう1人もいるんだ!!えっと・・・あの・・・なんか大っきい人!!」
「まさか・・・!榛名もか?!ってことは、イタルアサーカス団全体の仕業か?!」
「わ・・・わからない!とりあえず、今は那智さんと大っきい人が攻撃してくるんだ!」
「琥樹くん、何かしたのか?」
「してないよ!しないよ!こっちは養生で来ただけなのに、あんたらの女王様に無理矢理連れてこられてこのザマだよ!!」
若干キレながら琥樹が言うと、逃げる足を止める猛。
「ま・・・ままままままさか・・・夕貴が来てるのか?」
「姉貴?」
「あ、えっと、軍隊長が来てるのか?」
「え、うん。来てるって言うか、連れてこられて・・・」
その瞬間、猛の表情が一変した。
顔はみるみるうちに真っ青になると、逃げていた方向の真反対、また太陽の泉へ向かおうとした。
「え、ちょ、ちょっと!そっち行ったら攻撃が・・・!」
「そんなこと言ってる場合じゃないんだ・・・!!!!」
「え・・・」
「早く隊員たち起こさないと・・・」
切羽詰まった顔で琥樹につめよると——
「太陽の泉で寝ているとこなんか、夕貴に見られたら・・・シャムス軍は死んじまう!!!」
「へ?」
さっきとは打って変わって、あまりの真剣な表情に琥樹は戸惑うしかなかった。
太陽の泉に向かって走りだす猛に、琥樹が止めようとした時——
"ドスッ!!"
「ぐあぁああっ!!!!」
鉢合わせた那智に蹴りを入れられる猛。
「猛さん!!!!」
蹴り飛ばされる猛に、那智は再度蹴りを入れようとした。
「っ・・・!第二血響、飄風の乱!!!」
"ヒュン!!!!"
「っち!」
那智と猛の間に、なんとか琥樹が攻撃を放ち、2度目の攻撃は避けられた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・な・・・なんで・・・俺が助けてるの・・・!」
猛は蹴り飛ばされ、太陽の泉付近に倒れていた。
"ドサッ"
「っいってて・・・」
腰をさすっていると——
"ゾクッ"
「おいおい、副隊長殿が背後取られてどうすんだよ。」
すぐ後ろに那智が迫った。
「っ!!!セカンド、火の解放!!!」
そして——
"ドシーーーーン!!!"
物凄い地響きと共に雪が舞い、白い噴煙が舞った。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!!な・・・なにが・・・?!?」
傷だらけの身体でなんとか走ってきた琥樹は、噴煙と地響きに呆然としていた。
暫くして辺りが晴れてくると——
「!!」
そこには、那智の足技を止めている猛がいた。
手には、何やら武器を持っている。
太い棒に先端に鉄の尖った刃がついており、武器全体は熱を帯びているのか赤く、湯気が上がっている。そして、口を開く。
「・・・第二血響、地獄業火!!!!」
"ブァァァァァァアン!!!"
その瞬間、猛の持つ武器がより赤く光り、炎を上げた。
「・・・っく!!」
逃げようとするも、間に合わず直撃する那智。
「や・・・やった・・・?!?」
猛の攻撃を浴び、炎に包まれた那智は冷たい雪の中に倒れる。
そんな那智の様子などおかないなく、猛は急いで太陽の泉に入り、気を失っている隊員たちを起こし始めた。
「おい!!起きろ!!やばい!夕貴が来てるぞ!!こんな光景見られたら殺される!!」
「え・・・」
那智に攻撃されていた時より必死な猛の姿に・・・
(どんだけ恐れられてるの・・・・夕貴。)
琥樹が呆れながら、猛と一緒に隊員たちを起こそうと太陽の泉に近づこうとした時——
"ピリッ"
「・・・っあ・・」
(!!!この気配・・・・!!)
琥樹は咄嗟に猛に叫んだ。
「猛さん!!早く泉から出て!!!早く!!!!!!」
「え?」
しかし遅かった。
"ビリビリビリビリ!!!"
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!」
泉に大量の電流が流れ、猛や気絶している隊員たちを襲った。
一瞬の出来事であった。
琥樹が駆けつける前に、猛たちは泉の水を伝い、かなりの電気を浴びその場に倒れてしまった。
かなりの電気に、猛たちは痺れからか体をピクピクさせ、泉に浮かんでいる。
(まずい!!!!ショックからあのまま泉の水を飲み込んだら・・・肺に入っちゃう!)
琥樹が猛たちの元へ行こうとするも——
"シュン!!"
「!?!」
再び風の刃が琥樹を襲う。
なんとか避け、攻撃が来た方を振り返ると、そこには火傷を負った那智がいた。
「おいおいおい。痛いじゃねぇか。ははっ。」
「っく!!」
琥樹は太陽の泉に視線を移すと、そこには倒れていたはずの榛名の姿があった。
手を泉にいれ、絶えず電気を流しているようだ。
「おい!!余所見するなんて、随分余裕がでてきたなぁ!!坊主!!!!」
「第二血響、アシギリ!!!」
"バーーーン!!!"
「っかは!!!」
風を纏った那智の足で蹴られ、宙に浮く琥樹。
すかさず那智は飛ばした琥樹のところまで行くと、今度は地面に向け、背中に蹴りを入れた。
"ズドーーーーーン!!!"
「っう!!!!」
地面に叩きつけられる琥樹。
ただでさえ体力の限界を超えており、今にも気絶しそうだが、なんとか自身の扇子を握りしめ意識を保とうとした。
「ん?まだ生きてんのか?お前はしぶといな。」
雪の上で倒れ込んでいる琥樹に、那智は足で琥樹の頭を踏んだ。
琥樹の視線の先では、榛名が泉に入り、倒れ込む猛たちにとどめを刺そうとしている。
那智もその様子を見て、琥樹に冷たい視線を向けた。
「榛名も丁度か。せめて寂しくないよう一緒に逝かせてやるよ。」
(・・・うぅ・・もう・・・動けな・・・)
琥樹の思考回路は止まりかけていた。ただただ、目の前で榛名が猛たちに攻撃をしようとする光景を見ていることしかできなかった。その状況が何とも悔しく、涙を浮かべ唇を強く噛みしめる。
そして、榛名と那智が同時にとどめの攻撃をしようとした。
ーー次回ーー
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