見出し画像

王神愁位伝 第1章【太陽のコウモリ】 第7話

第7話 拾い主


ーー前回ーー

ーーーーーー


「・・・騒がしいと思ったら。戻ってましたか、琥樹こたつくん。」
「あ!坂上さかがみさん!!」

いつの間にか、カーテンの横にとある男性が立っていた。
スラっとした高身長の体系も特徴的ではあるものの、茶色の艶やかな長髪と、深い水色の瞳はなにより特徴的であった。
肩には、頭に包帯を巻きつけた黒猫がのっかっていた。

「傷だらけですね。任務ご苦労様です。治療は受けましたか?」
「坂上さんまで痛くて怖い治療受けろっていうの・・・?」
涙を流し、坂上の足元に縋りつく琥樹こたつ

「治療っ♪治療っ♪しないと治らないっ♪」
「そんなリズムよく言ったって、お前らが治療ミスしそうになったこと許さないからな!!!」
はしゃぐタマゴたちを、キッと睨む琥樹こたつ

一方坂上と呼ばれる男は、じっと見つめてくる幸十にクスっと優しい笑みを浮かべ、近くまで来た。
「こんにちは。私は坂上さかがみと申します。」

坂上と名乗る男性は、胸にある太陽のブローチに手をあて、頭を少し下げ挨拶した。

「それは・・・ナマエ?」
想像していた返答とは違い、坂上はキョトンとする。

「ーえぇ。私の名前です。」
「坂上・・・」
「貴方の名前・・・聞いてもいいですか?」
「・・・幸十。」
「サチト?」

坂上が聞き返すと、隣にいたメリーが手に持っていたボードを坂上に見せた。そこに書かれていた”幸十”という文字を見て、何か少し考え坂上は頷いた。

「・・・いい名前ですね。幸せが沢山きそうな名前です。」
幸十に優しく微笑む坂上。
そんな坂上を横目に、メリーはため息をついた。

「・・・今日起きたばかりだ。色々話すなら明日にしてくれよ。」
「容態はどうです?」
「あんまり良いとは言えないね。外傷だけじゃなく、内臓全体がありえない程損傷している。今普通に座ってられるのが奇跡だよ。」
メリーの見解に坂上は少し考えると、幸十の方を見て微笑んだ。

「幸十くん、少し話しましょうか。」
”ゴン!!”
「いたたっ・・・」
「あんた!私の診察結果聞いてたかい?!あんたんとこのセカンドといい、あんたといい、コウモリ部隊・・・・・・は、医療班あたしたちをなめてるんかねぇ?!」
容赦ないメリーの鉄拳が、坂上にも降りかかる。

「あはは・・・。いやー、幸十君と話したくて・・・」
「明日にしな!!今日は休ませて・・・」
「いいよ。」
メリーが坂上の胸ぐらをつかみ怒鳴っていると、先ほどからじっと見ていた幸十が唐突に言った。
その言葉に、騒がしかったその場が一瞬静寂になり、全員幸十を見た。

「いいよ。坂上、俺と話したいんでしょ。別にいいよ。」
メリーもさすがに重症の幸十を怒鳴る気持ちになれずにいると、坂上がたたみかけるようにメリーに言った。

「大丈夫です。ここで長話をするつもりは毛頭ないです。ご挨拶程度に。」
メリーはため息をつくと、坂上から手を離し、タマゴたちの方を向いた。

「シロミ、キミ、カラ。琥樹その臆病なセカンドを連れて、あっちで治療しな。」
「あいあいさー!!!」
「え、ちょ」
元気よく3人が返事をすると、嫌がる琥樹こたつの両手両足を掴み別の治療室に向かった。
琥樹こたつの何やら叫ぶ声が聞こえてくるが、誰も相手にしない。
幸十は琥樹こたつが連れていかれた方向に視線を向けた。

「嫌そうだ。」
琥樹あれは気にしなくていいよ。静かになったとこで・・・」
メリーは坂上の方に視線をうつした。
「10分。今日はそれ以上の会話はだめだ。それ以降は本当に休まないと、この子の身体が危ない。それと私も同席する。何かあった時に対処できるようにね。」
「分かりました。」

メリーの言葉に快く返事をすると、坂上はベットの近くにあった椅子に座り、改めて幸十を見た。
「改めまして、幸十くん。まずは・・・そうですね・・・ここはどこだか分かりますか?」

坂上の質問に、聞いていたメリーは馬鹿にしているのかと呆れていた。この場所・・・・を知らない者がいるはずない。
「ー分からない。」
「え?」
しかし、予想と反した答えに驚くメリー。
坂上は特に驚くこともなく、そのまま続けた。

「そうですよね。幸十くんが気絶している間にここに来ましたから。ここは太陽の心臓・・・・・に位置する太陽城・・・です。太陽族の本拠地です。」
「タイヨウジョウ?」
「はい。太陽族の人々が住む領土の中心であり、太陽族が生きていくための重要な場所です。幸十くんも太陽族なので関係のある場所ですよ。」

坂上は、幸十の右腕に刻印された太陽印に視線を向けた。
「・・・太陽族。」
「幸十くん。君の身体は相当お疲れです。少し休ませ、回復しましたらこの太陽城を案内しますね。変な人が多くて頭が痛くなりますが、城は素晴らしいです。」
「あんたもその中の一人だよ。」
メリーがぼそっと呟く。
「そんなこと・・・メリーさんには負けますよ。」
”ゴン!”
あと何回、メリーの鉄拳がおちるのだろうか。
肩に乗っていたクロは、逃げるように坂上の肩から降り幸十のベットの方に移動した。そんなクロを見て、幸十は頭を傾けた。

黒ヒョウ・・・・・・・」
”ビクっ”
「!!!?」
クロを見て発した幸十の言葉に、坂上もクロも目を見開く。
その場の空気が一変したかと思ったがー

「ったく、言わんこっちゃない。子猫を豹と間違えるほど疲れてるんだ!あんまり無理させないでほしいね!」
メリーがほら見ろと言わんばかりに、坂上を責めた。
クロはどことなく嫌そうな顔をしたが、坂上はホッと安堵するも無表情の幸十を探るように見つめた。

「もうそろそろ10分ですかね。」
部屋の出入口にある太陽の形をした時計を見て坂上は立ち上がると、幸十に手を差し出した。
「幸十くん。回復しましたら、城の案内と一緒に、私の部隊・・・・を紹介しましょう。」
「ブタイ?」
「はい。」

坂上はにっこりとほほ笑む。
太陽王直下の調査部隊・・・・・・・・・・。通称、”コウモリ部隊・・・・・・”。・・・そう呼ばれております。」
「コウモリ・・・」

すると、坂上は幸十の手を握った。
「えぇ。気に入ると思うのです。お互いに、ね。」
何やら含みを持たせる坂上。
「おい!」

メリーが何やら止めようとすると、坂上は幸十の手を離し立ち上がった。
「では、幸十くん。また後日。ーそれと、」
坂上は何やらメリーに近づくと、耳打ちをした。

「このことは、ここだけの話・・・・・・ってことで。医者の鑑、メリーさんなら大丈夫かと思いますが・・・。」
ぼそっとメリーに言うと、メリーは少し冷や汗を流した。

「はぁ・・・あたしらの部長・・・・・・・には言うなって事かい?」
その言葉に、坂上はにこっと微笑んだが、目は笑っていなかった。
部屋を出ようとする坂上に、クロも幸十のいるベットから降り、坂上に続いた。一人と一匹がこの部屋を出ていくと、メリーはまたもやため息をつき、キョトンとする幸十を見た。

「あんたも可哀そうだね。面倒な奴らに目を付けられて・・・・・・・。」
憐れむように幸十を見るメリーだったが、幸十には何のことか分からなかった。



♢♢♢♢♢☀♢♢♢♢♢



"コツ・・・コツ・・・コツ・・・"

坂上とクロは、幸十たちのいる医療室から出て、城の廊下を歩いていた。
城の中は、外と同様煌びやかであり、この廊下の壁は一面色とりどりのステンドグラスでできていた。
外から差し込む太陽の光は、様々な色のステンドグラスを通し、複数の色の光が廊下に差し込む。
それも一つの芸術作品のようである。

しかし、そんな綺麗な廊下など目にもくれず、坂上とクロは考えこんでいた。
あるじ・・・。我はしっかり小さかったにゃ?」

坂上の首元で不満げに聞くクロ。
「えぇ。これでもかというくらい、可愛い子猫ですよ。今でも。」
”ペチ”

それはそれで嫌だというように、尻尾で坂上の頭を叩く。
坂上は、頭を抑えながら考えこんだ。
「ー彼は、プライマルでしょうか。」
「・・・わからにゃい。」
「珍しいですね。クロが悩むとは。いつもセカンドとプライマルの違いをすぐに察知してるじゃないですか。」

坂上が驚きながら、肩にいるクロを見た。クロは暫く考えこむと、
「セカンドではにゃい。あやつから力は感じられにゃい。」
「ふむ。何が引っ掛かりますか?」
「・・・わからにゃい。」
「え」
「ープライマルにしては、どこか異常・・にゃ。どこがと言われれば・・・難しいが。」
クロの曖昧な発言に、坂上はお手上げという様子で、ステンドグラスの窓越しに外を眺めた。

「一とりあえず・・・メリーさんに勘づかれなくてよかったです。今日もクロは可愛い子猫です。」
”ペシ”
すかさず、肉球パンチをくわせるクロ。
「幸十くんの身体がある程度回復しましたら、能力探査機・・・・・にかけてみましょうか。そうすれば、プライマルかセカンドかが分かります。」
「あいつに直接聞けばいいのではにゃいのか?」

クロの言葉に、坂上はため息をついた。
「覚えていれば・・・いいのですがね。」
「ー?記憶喪失にでもなってると言いたいのか・・・?」
「さぁ。ですが・・・名前を聞いた時、メリーさんがわざわざ文字を見せてきました。多分、文字が読めない、または書けないのではないかと思います。今の時代、孤児でも文字は読み書きできて当然です。よっぽど人を避けて生活していれば分かりませんが・・・。となると、記憶喪失か、それ以外か・・・。」

そう話す坂上の表情を見て、クロは嫌な予感がした。
「・・・主。あやつを部隊に入れるつもりか?」
クロが聞くと、坂上はにこっと微笑んだ。
「楽しみですね!」
その回答に、クロは苦い表情をした。
「これ以上、軋轢を生んでも知らにゃいぞ。他の部隊どころか、にも幸十あやつの報告をするつもり・・・にゃいだろ。」
「しょうがないです。私はうっかり者ですので。」

クロはため息をつくと、これ以上話しても仕方ないと考えたのか坂上の首に頭を寄せた。
「まずは、バンたち・・・・との軋轢をどうにかするにゃ。」
「何だかんだ優しいので。バンくんは。」

どこか嬉しそうに、坂上は廊下を歩いていった。


ーー次回ーー

ーーーーーー


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?