王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第18話
第18話 やっかいな来訪者
ーー前回ーー
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「おやおや。やっぱり、セカンドが野蛮な奴らの集まりというのは本当のようだな。特に、太陽のお荷物であるシャムスは特に・・・。」
地方庁からまた誰か出てきたかと思うと、どこか高そうな服に、胸元には幸十たちと同じように太陽のブローチをつけた男2人が出てきた。
「うわっ。」
その2人を見て、思わず嫌そうな顔をするココロ。
1人は、天然パーマのボリュームがある髪に面長な顔が特徴の青年。厚手の服を着て、完全防寒対策をしているようだ。身なりからしても、ちゃんとしていた。
もう1人は、ねずみのような大きな出っ歯が特徴の青年。頬のそばかすに、細い目でジロジロと周りを舐めるように見渡す姿はあまりに好ましい印象を与えない。
二人がコートの下に着ていたのは、白にオレンジ色のラインが入った、琥樹たちと同じ隊服だった。
出てきた2人に、キッと鋭い瞳を向ける夕貴。
そして、少し手を挙げ後ろにいたシャムス軍の隊員たちに言った。
「街の人々を。」
「はい!」
夕貴の指示に返事をすると、シャムス軍の隊員たちは、地方庁の周りにいた街の人々をその場から遠ざけ始めた。
シャムス軍の手際の良さで、その場にはイタルアサーカス団員たちとシャムス軍、地方庁から出てき青年2人と幸十たちが残った。
「あれ、都合の悪い話は聞かせたくないのか?どうせシャムスの低俗なプライマルたちは何聞いたって分かりっこない。」
「はっ!そのくっさい口閉じな。本部の糞みたいな空気をシャムスの大事な人々に聞かせるわけには行かないからね。ひーーーーーーっさびさに本部から来たと思ったら・・・・。中身はもはや期待しないから、せめて外見のいい人寄越してほしいね。」
天然パーマの青年と夕貴の間で、バチバチと火花が飛び交う。双方どうも仲が良くないようだ。
夕貴の言葉に顔が真っ赤になっていく天然パーマの青年。
「お前の目は節穴か!誰もが嫌がるシャムスに来てやったブラシカ様の勇姿!どう見てもかっこいいだろう!!」
「出っ歯は黙ってな!!」
まるで夕貴に威嚇され、萎縮するネズミのようだ。ブラシカと呼ばれる天然パーマの青年は咳払いをすると、再び口を開いた。
「っふ。外見だけしか見ないとは、人を見る目もないなんて可哀想な奴だ。」
ブラシカたちの来訪に、達は血のついた口を拭き、近づいて頭を下げた。
「ご無沙汰しております。ブラシカ様、ロッタ様。」
どう見ても達の方が年上に見えるが、その2人の方が態度が大きく、頭を下げる達を見下ろしていた。
「ぁあ。まだ居座っていたのか。」
その言葉に、イタルアサーカス団員たちがピクッと反応する。ピリつく空気もお構いなく、自身の天然パーマの髪をくるくる触り続けるブラシカ。
「本当に・・・。何で貴方みたいなのが庁長なのか理解に苦しみます。貴方は何から何まで、参謀本部の品格にふさわしくないのに。結婚してシャムスの地を強奪するとは・・・。」
ブラシカは、品定めをするかのように頭を下げ続ける達と、その背後でブラシカたちに鋭い視線を向けるイタルアサーカス団員たちをジロジロと見た。
「・・・ぁあ。貴方たちか。馬鹿げた団を構成しているという・・・なんだったっけな・・・っふ。まぁ、思い出す価値もないか。」
「馬鹿げた団ではない。イタルアサーカス団だ。」
風季が言うも、ブラシカは面倒くさそうに手をひらひらさせた。
「ぁあ。あの頭が狂った馬鹿な女が拾ってきた寄せ集めたちなんだろう?本当、使えない奴らを集めて馬鹿騒ぎするなんて・・・あれでも参謀本部所属の由諸正しい家柄でしたから目を瞑ってましたが・・・。本当、シャムスの人間は、参謀本部所属でもレベルが低くて反吐がでる。だからアレは女として捨てられて、無様な死に方をし・・・」
"シュ!"
「?!」
その瞬間、風季と那智、榛名がブラシカのクビにセカンドの武器を向けた。
風季は拳を、
那智は左足を、
榛名は持っていた斧を。
驚きのあまり、ブラシカは冷や汗を流す。
夕貴率いるシャムス軍や達も止める気配がない。シャムス軍にいたっては、同じく今にも手を出しそうな勢いだ。
「お、お前たち!!その汚い手をどけろ!!!誰に向かって刃を向けていると思っているんだ!!」
ロッタの叫びを誰も聞き入れず周囲がピリついていると、達たちの背後からコソコソ喋る声が・・・
「ーもじゃもじゃ。」
「しっ!さっちゃん!」
「ひひひっ。もじゃもじゃって・・・ひひっ!それええな。」
「ねぇ琥樹、どうしたらあんな頭になるの?」
「やめてさっちゃん、そんな純粋な瞳で俺に聞かないで・・・。俺を巻き込まないで・・・。」
「ロッタは、掃除小屋にいたネズミに似てる。捕まえそこねたんだけど。」
「ね、ネズミ・・・あっはははっ・・・腹痛いわサチ・・・!」
「おい、頼むから静かにしろ!」
ココロが小声で幸十たちを促していると、終始聞こえていた風季たちは、バカバカしくなったのか武器をおろした。
那智や榛名は必死に笑いを耐えようとして、耐えきれなくなっている。
コソコソ話していたものの聞こえていたブラシカは顔を真っ赤にし、幸十たちの方をギロッと見た。
「おい!お前らはなんなん・・・」
指で幸十たちを指すと、途中で言葉を止め幸十たちをじっと見る。
目を細めココロたちが来ている隊服を見て、なにやら考え始めた。
「その紫紺の隊服・・・んん?」
ブラシカがジロジロ見ると、不意にココロは顔をそむけた。
そんなココロを見て、ブラシカは何かに気づいたようにココロに目を向けた。
「もしや・・・ココロ・グレイスか?」
どうもココロに聞いているようだ。
しかし、ココロは一向に返事しようとしない。どうも関わりたくない様子だ。その反応にやはりと言うように、ブラシカは再びココロに指さした。
「お前!やっぱり!グレイス家の!!」
気まずそうにするココロに、ブラシカは鼻で笑った。
「あのグレイス家ともあろう人間が!間違った道に行っているとの噂は本当のようだな。我々のように、正しい道を進んでいればいいものを。馬鹿なのか?」
「グレイス家?!」
ブラシカの発言に周囲がざわついた。
達やサーカス団員たち、シャムス軍のセカンドたちも驚きの表情を浮かべている。周囲の様子にギュッと拳を握るココロ。
「もじゃもじゃが話しかけてきてるよ。ココロ知り合いなの?」
「うるさいわ!!さっきから貴様は!!俺はもじゃもじゃなんて名前ではないぞ!!」
「あ、怒った。」
ペポとラビは面白いのか、幸十の周りできゃっきゃっと騒いでいる。
「きぃぃぃい!!貴様ら!!だまれ!!」
顔を真っ赤にし怒鳴り散らすブラシカ。
そんなブラシカを宥めながら、ロッタも幸十をキッと見た。
「お前!!このお方をしらないのか!?このお方はな・・・」
「うん。知らない。」
「人の話を聞け!!!」
間髪入れずに話す幸十。洋一はその様子に腹を抱えて笑う。
ロッタは咳払いをし、再度口を開く。
「ゴホンっ!!このお方はなぁ!!参謀本部学部庁に所属する若手のホープ、ブラシカ・ブクル様だぞ!!?!」
ロッタに紹介され、ドヤ顔をするブラシカ。
一方、幸十は表情を変えずそのままじっとブラシカの頭を見ていると、隣で笑いを必死にこらえている琥樹に言った。
「ねぇ、琥樹。なんかブロッコリー食べたくなってきた。」
ブラシカの頭から、何かを連想したようだ。
「だからさっちゃん・・・俺を巻き込まないで・・・」
「キィィィィィイ!!誰がブロッコリーだ!!お、お前!!そんな態度をとってただで済むと思っているのか!?!?お前はどこの所属だ!!おい!言え!!」
ブラシカが怒鳴り散らす。
「ショゾク?」
「そうだ!!今度の参謀会議で盾突く人間がいると報告してやる!!名前と所属を言え!!」
「ナマエ・・・は、幸十。ショゾクは・・・」
分からないのか、隣の琥樹に再び視線を向ける。・・・と、琥樹も視線を逸らした。
その様子に、ココロはため息をつくと幸十たちの前にでた。
「・・・俺たちは、太陽王直下の調査部隊です。」
その言葉に、ブラシカとロッタは一層顔を険しくした。
「ぶら下がりのコウモリ部隊か!?!あの害悪しか与えないと言われている!!」
「なんや、その貶し方初めてやな。」
何か新しい動物を見るように、洋一がブラシカたちをジロジロ見る。
「なるほどですな。ブラシカ様。本部に帰ったらすぐさま報告しましょう。またコウモリ部隊が、我々を妨害してきたと!」
「ぁあ。即報告だ!洞窟でぶら下がって静かにしてれば良いものを・・・外に出て何をしでかすつもりだ!!」
「はぁ・・・・別に。俺たちは休養のため太陽の泉に行くだけです。関係ありませんよ。」
その言葉に、ピクッと反応する夕貴。
ブラシカたちも反応すると、ニヤッと笑った。
「それは無理だな。」
「は?」
「太陽の泉は、今立ち入り禁止だからな。そして・・・これから参謀本部直下の土地になる!!貴様らのようなならず者が入れるような土地ではもうない!」
「な!?」
「は??」
「え」
ブラシカの言葉に、ココロたちだけではなくサーカス団員たちも驚きを隠せずにいた。達も理解が追いつかないようだ。
「あ・・・あの・・・・それはどういう・・・」
戸惑い、達が聞くと、ブラシカは面倒くさそうに言った。
「言葉のままだ。神聖なる太陽の泉を、シャムスに管理させとくべきではない。これからは参謀本部できっちり管理し、参謀本部が認めた者たちしか入れないようにする。これは本部の決定事項だ!」
ブラシカの言葉に、そこにいた誰もが戸惑いを隠せずにいた。
ーー次回ーー
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