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王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第29話

第29話 覚醒の夜明け

ーー前回ーー

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"ヒラッ"
『・・・地図?』
『・・・それは、僕たちサーカス団が行った場所を示した地図だよ。赤点がすでに行った村や街の場所なんだ・・・ゴフォ!』

『あー、団長、血を荷物につけんでくださいよ~』

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「あ・・・!あの地図・・・・!!!」

いきなり声を上げるココロに、驚く子供たち。
ハッと我に帰り、子供たちがまた泣かないように不器用に笑うと、ココロは焦り始めた。

かがりさんに見せてもらったロストチャイルド発生地帯を印した地図・・・どこかで見覚えがあると思ったら、イタルアサーカス団のソリで見た地図だったのか!!・・もしや・・・)

ずっと引っかかっていた見覚えのある地図。
どちらも赤い印・・・がついたため、既視感があったようだ。
しかしココロは嫌な予感がし、鮮明に記憶された2つの地図を頭の中で重ね合わせる。

(・・・っ!!赤い印、全て一致するじゃないか・・・・・・・・・・・!!)
隙間風が入る古びた小屋は寒い。しかし、ココロの額には冷や汗が垂れていた。ココロは何か・・を察し、子供たちに急いで声をかけた。

「ごめん、この縛ってる縄、ほどけるかな?」
すると子供たちはココロに近寄り、まず足から縄をほどき始めた。

「硬いわ。」
「硬いね。」
「結び目があるから、そこからやればどうにかなるわ!」

"おいしょ、おいしょ"
か弱い力で、一生懸命解き始める子供たち。





"キィィィィィイン"
「!!」

不快な鳴き声・・・・・・が遠くから微かに聞こえ、冷や汗がココロの顔をつたう。

「・・・やっぱり・・・来るか。」
ココロは表情を曇らせ、一気に頭を回転させ始めた。

その間、子供たちが一生懸命縄をほどこうとするも、まだ10歳にも満たない子供たちのか弱い力では、きつく縛られた縄は中々ほどけない。
しかしそうこうしている間にも、その気配・・・・は段々と確実にこちらに近づいてくる。殺気とともに。



——10メートル、5メートル、3メートル、2メートル・・・




「・・・っ!」

1メートル・・・

"しゅるん!"
「あ!解け・・・」
”ガッシャーーーーン!!!!”
足紐がとけた瞬間、ココロは子供たちの前に立ち、目の前で鎌を振るいながら入ってきたマダムから離す。

"キィィィィィイン!"
”グサッ!!”
「っく!!」
逃げている暇などなく、まだ縛られている腕で何とかマダムの刃を止めるも、プライマルのココロとマダムとでは、力の差は歴然だった。

”グググ・・・”
どんどん押されていくココロ。
後ろにいる子供たちに視線を向けると、恐怖で顔が真っ青だった。泣き出すことも忘れるほど体は震え、恐怖に支配されていた。
(逃げろと言っても・・・外にもマダムがいないとは限らない・・・いや、いない方が可能性的に低い。)

「・・・大丈夫、大丈夫だっ・・・!」
ココロが子供たちをなだめるように声を発すると、子供たちはココロのコウモリの翼をぎゅっと抱きしめた。

”グググ・・・”
「・・・っ!」
(外の状況は分からないが・・・どのパターンを考えてもここの小屋に居続けるのは危ないな。外にマダムがいる場合は尚更・・・。7人か・・・重量的・・・には・・・いけるか・・・?)
子供たちを見ながら考えると、覚悟を決めたように目を見開き言った。

「みんな!俺に掴まって!思いっきり!早く!!!」
そう言われ、子供たちは泣きそうになりながらも全員ココロの足や腰、腕にしがみついた。

「よし!みんな、ありったけの力で俺にしがみつくんだ!絶っっっっ対に離しちゃだめだよ!!!みんなで家に帰るんだ!!!!」
ココロは再度力強く話しかけると、子供たちが頷いたのを確認し——

”ブンッ!!!”
「っく・・・!!」
マダムを抑えていた腕を勢いよく横にふり、マダムの鎌を流した。

バサッ!!!ガッシャーーーーン!!!!
「きゃぁあ!!!!」
その一瞬でブローチの金具を引っ張ると、コウモリの翼を広げ、脆い小屋の天井をぶち破って空中に飛んだ。
子供たちの悲鳴が聞こえたが、とりあえず必死にバランスをとり逃げるココロ。
外に出ると明け方のようで、日の出の光により外は明るくなってきていた。

”キィィィィイイン”
(!!・・・やっぱりいるよな・・・)
辺りを見渡すと数体のマダムを発見し、マダムのいない方向へ飛び出した。

子供とはいえ、7人を抱えながら飛ぶのはかなりのバランス感覚を要する。そして今は手を縛られた状態でもあり、翼の重量制限もとっくにオーバーしている。
しかし、ココロは必死に頭を働かせながら身一つでバランスを保ち飛び続けた。

"キィィィィィイン"
不快な鳴き声が近づいてきており、背後からマダムが来ていることが分かった。

(っ・・・まずいな。かなりの速さで数体来てる・・・!!)
そう考えながら、再び前に視線を戻したとき——


"キィィィィィイン!!"
「っな!!!」
目の前にマダムが現れる。

(もう一体、待ち伏せを・・!!)

"ギュイン!!"
「きゃぁぁあ!!」
「うわぁぁぁあ!!」
「っく・・・!!!」

”ドサッッッッッッ!!!!!”
思いっきり方向を変えたことにより、バランスを崩し地面に落ちた。
幸い、シャムスの雪がクッションとなってくれたため、身体への衝撃は幾分か抑えられた。子供たちも、絶対にココロから離れるかと掴んでいたため、投げ飛ばされることもなかった。

ココロは急いで身体を起こし、自身の後ろに子供たちを下げると、すぐ目の前にはマダムが数体近づいてきていた。

"キィィィィィイン"
(っく!!!まずいな・・・セカンドがいなきゃマダムは倒せない・・・琥樹こたつも夕貴軍隊長もいないのに・・・)
ココロは一か八かと、縛られた手で何とかブローチを掴み無線を繋げた。

「夕貴軍隊長!!琥樹こたつ!!どちらか聞こえませんか!!」

ブローチに呼びかけ始めた。
(すぐに来なくてもいい!!つながってくれ!そうすれば来るまでの間、どうにか逃げ切る方法を考える!!頼む!!)

「夕貴軍隊長!!琥樹こたつ!!聞こえませんか!!!?」
「・・・」
必死に呼びかけるも、応答がない。

「夕貴軍隊長!!琥樹こたつ!!!頼む!!応答を!!」

"キィィィィィイン!"
しかしマダムは待ってくれない。
マダムの鎌が容赦なく襲い掛かる。

"シュン!"
後ろの子供たちを庇いながら、なんとか避けるココロ。

(くそっ!繋がらないか??!?)

すると——
「・・・ザザッ・・・!」
「!つながっ・・・」

"キィィィィィイン"
"ザクッッッ!!"
「ぐあっ!!!」
マダムの鋭い鎌が、ココロの縛られている腕に突き刺さった。

「お兄ちゃん!!」
「兄ちゃん!!」
「う・・・うわーーーん!!!!」
子供たちの悲鳴があがる。

"グググッ!"
「ぐっ・・・!!!」
抑えようと腕に力を入れれば入れるほど、どんどんココロの腕に深く刺さっていく。
腕からは、大量に血が流れ始めた。

(まずいな・・・何か策を・・・考えないと・・・)

プライマルは、セカンドのような身体能力も力も持ち合わせていない。そのため、戦いの場では使い物にならないと言われている。
だが、プライマルはセカンドよりも頭脳明晰なことが特徴だ。そんなプライマルの中でもトップクラスの頭脳をもつココロ。コウモリ部隊では、戦術班の天才・・・・・・と言われている。コウモリの翼を開発したのもココロである。

そんなココロだからこそ、あの小屋からここまで来れたのだろう。他のプライマルでは小屋の時点で正気を失い、その場でマダムにやられていただろう。
しかしそんなココロも、この状況を打開する策がどうしても頭に浮かんでいなかった。

(必ずこの子たちを親元に帰してやるって言ったばかりなのに・・・)
セカンドがいない今、逃げ回るだけではココロたちの体力が持たずいつかやられてしまう。しかしこのままここにいても、子供たちにも攻撃が及んでしまう。
血がどんどん流れ、貧血状態になっていくココロ。
意識も徐々に薄れ始めていた。

(俺がここで倒れたら・・・この子たちが・・・)

ココロに必死に掴み、涙を流す子供たち。
しかし、ココロは考えることを辞めなかった。
辞めるという選択肢はなかった。

(この状況を打開するには・・・)

そう考えていると、残り数体のマダムも痺れを切らしたから、一斉にココロたちの方へ向かってくる。


"キィィィィィイン!!"

(考えろ・・・考えろ!!!!考えることしか俺はできないだろう!!!!)
そんな中、ココロの脳裏にとある記憶が蘇る。

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『ココロ。お前の血は、この太陽族で一番高貴な血統だ。誰も私たちをないがしろには出来ない。』

『考えろ!考えろ!考えろ!考えるんだ!それが高潔な血を持った我々グレイス家の使命!!いずれこの世の頂点に立つのだ!!』

『どうしてお前は血統から逃げたがる弱虫になってしまったんだ・・・。お前には・・・失望した。』

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(くそっ・・・こんな時に、最悪の思い出・・・・・・を・・・)

"キィィィィィイン!!"
マダムたちの攻撃がココロたちに一斉に降りかかる。


その時——




"タッタッタッタッタ!ドスッ!!!!!!"



走ってくる足音・・・・・・と共に、何か・・がココロの腕に鎌を刺すマダムを蹴り飛ばした。

"ドシーーーーーーーーーーン!!"

物凄い音と共に、マダムが勢いよく飛んでいく。
「え・・・?」

あまりの迫力に驚くと同時に、蹴り飛ばされたマダムの腕は引きちぎられ、まだココロの腕に刺さっていた。
しかし——

"シュュュュウ・・・・"
「これは・・・セカンドの力・・・?いや・・・」

ココロの腕に刺さっていた鎌が消えた。
何かに吸い取られた・・・・・・・・・かのように。

「な、何が・・・」
ココロが驚いていると・・・




「ココロ。大丈夫?」

そこにいたのは幸十・・だった。
短い夜が明け、周囲が明るくなってきた中で、幸十の黄色い瞳はいつもより輝いて見えた。



ーー次回ーー

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