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王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第9話

第9話 不意の襲撃

ーー前回ーー

ーーーーーー



"ゾク!"

幸十は背筋に悪寒が走った。

"シャキン!"
「さ・・・ささささささっちゃん!!!後ろ!!」
振り返ると、鎌のような手を向け、今にも襲い掛かりそうなマダム・・・がいた。

"クルン!!"
ギリギリのところで琥樹こたつは、幸十の丸々と大きくなったお腹にしがみ付きながら回転し、マダムの刃を避けた。

「いてて・・・さっちゃん、大丈夫?」
頭を押さえながら幸十に聞く琥樹こたつ

「大丈夫・・・だけど大丈夫じゃないかも。」
「え?どこか怪我・・・」
幸十の怪我を見るため、琥樹こたつが顔を上げると言葉を失った。
イタルアサーカス団の演出かは分からない黒い霧により、あたりはやみに包まれている。しかし、よく見ると赤い不気味な瞳がギラギラと輝いていた。
その瞳は一つではない。周りにうじゃうじゃいる。

「こ・・・これって・・・」
「なんか沢山いる。」
「いやぁぁぁぁぁぁああ!!!ぇえ?!嘘でしょ?!なんで・・・なんでマダムがここにいるの!!!?
大量のマダムに暗闇の中囲われ、パニックに陥る琥樹こたつ
必死に幸十にしがみつく。

琥樹こたつ、どうしよう。」
「どうしようってどうしよう!!なんでこんないっぱいいるの!!逃げるよ!さっちゃん!」
琥樹こたつが幸十の手を引っ張ろうとするがー

"グイッ"
幸十が動かず、逃げられない琥樹こたつ
「さ、さっちゃん?!」
琥樹こたつ。」

幸十は真顔で琥樹こたつに顔を向けるとー

「お腹が重くて走れない。」
"ガク!"
幸十は自分の大きなお腹を指した。

「もう沢山食べるの禁止!!!」
「それに・・・村の人たちが危ないよ。」
幸十の指差す先には、マダムが気絶している村人たちにも近づいていた。
その光景に、琥樹こたつは今にも逃げ出したい衝動を必死に・・・とにかく必死にこらえた。

「~~~~・・・あ~も~分かったよ!!!セカンド俺しかいないし?やるよ!!やればいいんでしょ!!・・・俺たち休息のためにきたはずなのに!!なんでこうなるの!!」
逆上しながらも立ち上がると、琥樹こたつは左耳につけた琥珀色のイヤリングを触った。

セカンド、風の解放!!

すると、イヤリングが光だし、親骨が黄金に輝く扇子・・が現れた。扇子の要部分には、イヤリングと同様の琥珀色の装飾が光っている。

"ブォォォォォオン!"
同時に、琥樹こたつの周りに風が巻き起こる。
扇子を開くと、白い扇面の一部が光りながら緑に変色していく。
そして、大きく振り上げるとー

第二血響けっきょう飄風ひょうふうの乱!!

勢いよく扇子を下げ、風で出来た扇形の刃がマダムに向かって無数に降り注いだ。

"キィィィィィイン!!!"
マダムの不快な鳴き声が周囲に響く。
琥樹こたつの扇子から放った風の刃に、次々と切られて行くマダムたち。その様子に、セカンドの攻撃を初めて見た幸十は驚いた。

「すごい。琥樹こたつ。」
「本当?えへへ。俺あんま強くないから、日頃誰も褒めてくれないんだよね。」
琥樹こたつが嬉しそうに、頭をかき照れているとー

"キン!"
琥樹こたつ!!」
マダムが琥樹こたつに襲い掛かってきた。
間一髪のところで、琥樹こたつが扇子の武器で攻撃を食い止めた。

「ぁぁぁぁあ~・・・太陽の泉に入りに・・・休息で来たのにぃぃい!!!」
琥樹こたつは涙を流しながら目の前のマダムたちを相手に戦い始める。

”ぽよん・・ぽよん・・・”
琥樹こたつが複数のマダムを相手にしているのを見て、幸十は重たいお腹を抱えながら寝ているココロの近くへ行った。
寝そべるココロの体をゆらゆら揺らす幸十。
「ココロ。」
「ぅうん・・・」

少し反応がある。その様子に、幸十はより力を入れてココロを揺らした。
「ココロ、起きて。琥樹こたつが大変。」
「・・・ん・・・?・・あれ?」
揺らし続ける幸十。

「え、ちょっと・・・」
"ゆらゆらゆら"
「・・・い・・・いや・・・なんだよ!!」

起きても揺らし続ける幸十に、ココロが幸十の手を掴み止めた。
「あ、起きた。」
「起きたよ、さっきから・・・」

幸十に呆れるも、ココロは咄嗟に周囲の異様な状況に気づいた。
「ーなんだ?これは・・・」

黒い霧で視界がおぼつかないものの、人々が倒れているのを見てココロが驚いているとー
"ガキン!!カン!!"

奥から、刃が重なる音が聞こえた。
「飄風の乱!!!」

ーと同時に
"ヒュッ!!"
刃のようなものが、ココロの右頬を掠めた。

「あ、ココロ、血。」
右頬から流れる血に幸十が言うと、ココロは刃が飛んできた方を睨んだ。

「こらーー!!琥樹こたつ!!!好き放題攻撃するんじゃない!!!!いつも言ってるだろう!!」
キレたココロは、琥樹こたつがいるであろう方向に向かって叫んだ。

「ひぃ!!」
同時に琥樹こたつの驚く声も聞こえてきた。
ココロはため息をつくと立ち上がり、少し先でいびきをたてて寝ている洋一のお尻に片足を乗せた。

「おい、起きろ。洋一。」
"グワングワン"
「ぐおーー!!」
「洋一」
"げしげし"
「ぐあーー!!」
いくら体を揺さ振っても起きる気配のない洋一。
堪忍袋の緒が切れたココロは、洋一の耳元で怒鳴った。

「いい加減起きろーーー!!寝てる場合じゃないんだ!!」
ココロが洋一の首元を掴み揺らすも・・・

「ぐおーーー!」
起きる気配が全くない。
ココロは半ば諦め、洋一を床に落とした。
"ドサッ"

「全く・・・どうしたらこんなに寝てられるんだ・・・」
幸十は、床に落ちた洋一をココロと同様に揺らしてみた。

"ゆらゆらゆら"
「ーぐお!っ、ん・・・あ?なんや、サチ?」
幸十が触れて少し揺らすと、洋一はすぐに起きた。

"ガシッ"
「お前寝たふりしてただろ。」
思わずキレるココロ。

「へ?!なんや?!寝たふり?いや、そんな・・・」
(・・・・・?)
嘘をついているようには見えない洋一の様子に、ココロは違和感を覚えた。
そうこうしているとー

「あ!ココロ!!」
洋一がココロの背後を見て思わず叫ぶ。

"キィィィィィイン!!"
「っうわ!!」
”ザザッ!”
いつのにか背後に現れたマダムの振りかざした刃から、なんとか避けるココロ。周りを凝視すると、いつのまにか3人は多数のマダムたちに囲われていた。

「うわ~、なんやこんなぎょうさん集まって。」
「感心している場合じゃないだろう。」
琥樹こたつは?」
「あっちで戦ってる。」
洋一とココロは周りにいるマダムを見ながら、状況整理をした。

「はぁ~、セカンドが琥樹こたつしかいないんはちと厳しいなぁ。」
「厳しいどころじゃないよ。」
「せやけど、燃えるわ!」
洋一とココロは太陽のブローチの金具をぎゅっと掴んだ。

「幸十。コウモリの翼で・・・」
ココロは言いかけて、幸十のまるまる膨らんだお腹を見て止めた。
洋一も幸十の体を見て、思わず笑い始める。

「あっはっはっは!!サチ、そや、そんなパンパンのお腹じゃあ飛べへんな。あっはっは!!」
立ち上がることすらままならなく、そもそもコウモリの翼をまだコントロールできない幸十に、今飛べというのは酷なことだった。

(まったく・・・この状況を突破するには空中にマダムを連れて行かないと、村人に被害が出てしまうのに・・・。)
ココロは周囲にいる無数のマダムを見ながら考えた。
洋一と2人で飛ぶのもありだが、残った幸十が無事でいられる補償はない。
もし幸十がやられてしまった後、次の標的は村人におよぶ可能性も高い。
唯一マダムたちを倒せるセカンドの琥樹こたつは、奥で他のマダムたちを相手にしている状況だ。
ココロは思考を巡らせながら目を閉じた。

「・・・ココロはどうしたの?」
目を閉じ黙るココロに幸十が聞くと、洋一は人差し指を口元に立てた。

「しー。うちの天才戦術家・・・・・が、もうそろそろ名案・・を思いつくで。」
”カッ!”
洋一はニヤッと笑うのと同時に、ココロが閉じていた瞳を開けた。

うん、これでいってみよう。
ココロはシャムスの寒い気温にも関わらず、額には大量の汗をかいていた。



ーー次回ーー

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