佐藤優氏の『官僚の掟』を読む 「第二官僚」の誕生とナチス

▼作家の佐藤優氏は『官僚の掟 競争なき「特権階級」の実態』(朝日新書、2018年)で、「経産省内閣」と呼ばれている安倍晋三総理大臣の内閣について、「第二官僚」の誕生、という角度から分析している。

具体的には、「日本経済再生本部」(142頁)や「経済財政諮問会議の再始動」(143頁)に着目。官邸の評価によって人事の力学が変わってしまったこと、政治の結果責任を誰がとるのか、といった問題点を指摘したうえで、こう述べる。

〈(第二官僚とは)法の下の平等という原則のもとで働く官僚とは異なる働き方をする官僚たちです。原型は小泉政権で政治任用された竹中平蔵氏に求められると思います。その場合と同じように、安倍総理に近い現役官僚に加え、総理にさまざまな肩書で起用された、官僚OBや学者、財界人も「第二官僚」だといえます。つまり民間人による「新官僚」です。そこでは、専門性も実務能力も高い官僚によって成り立つ既存の府省の頭越しに、政策が作られているように見えます。第二次安倍政権から5年9カ月、「第二官僚」は、誰かが設計図を引いたわけでもないのに、それで完結した一つの「制度」になりつつあるようです。

 ワイマール憲法とナチス/「第二官僚」は日本の統治機構の中でどのように成り立っているのでしょうか。安倍総理は、自分と距離の近い「第二官僚」による政治を進めるために、新たに法律を作ったわけではありません。基本的には、重要政策ごとに諮問会議を立ち上げ、経産省をはじめ各省庁からの出向者を事務担当にするというやり方です。現行制度の枠内で、政治と官僚との間に変化を起こしました。

 諮問会議でまとめられた内容が、実質的に政策の骨格になっています。しかしその委員は選挙によって直接国民に選ばれた人たちばかりではありません。いわば、民主主義が「迂回(うかい)」されているのです。/麻生太郎財務大臣が学んだという「ナチスの手口」とはこのようなものです。(以下略〉(150ー151頁)
 
▼ナチスドイツと現今の日本政府の動きとを比べてみて、とても似ている面があることを佐藤氏は指摘する。

〈まさしく憲法を変えず、現行制度をうまく利用すれば、ヒトラーは自分の取り巻きのナチス党幹部を要所に配して国家を運営できたのです。言い換えれば、総統との距離が近い人間を新しい官僚、いわば「第二官僚」とし、既存の官僚機構の上にかぶせて、ワイマール共和国を乗っ取ったのです。

 朝日新聞は、経産省が官邸の下請けになっていると報じています。多くの経産官僚が官邸入りしたことによって、そこで立案された政策の実務が経産省本体に下されるようになった。また、安倍政権が新たな目玉政策を経産省に求めてくるが、年々、その要求が厳しくなっている。経産省本体が官邸の「下請け」となる場面が目立つようになったといいます。あるいは外務省の場合のように競合する「同業他社」をぶつけて、老舗の力を削いでいくという手口も、日本経済再生本部や経済財政諮問会議が、財務省や厚労省、文科省などの専門領域を飛び越えて政策をつくることと、共通しているように思えます。〉(154-155頁)

▼本書は具体的な対処法は示さないが、大まかな方向性を示す。それは〈「第二官僚」に、民主主義を迂回する道をつくらせてはなりません。私たち「社会」の側が知恵を絞るときがやってきたと思います。〉(157頁)というものだ。筆者もこの方向性に同意する。

(2018年11月19日)

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