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ギャンブル依存症を生む日本の仕組み

▼2018年はカジノ法(特定複合観光施設区域整備法)が成立した年でもある。ギャンブル依存症について、『文藝春秋オピニオン 2019年の論点100』で筑波大学教授の原田隆之氏が日本の特徴をわかりやすく紹介していた。適宜改行。

〈厚生労働省の研究班が2017年に発表した推計によれば、わが国でギャンブル依存症が疑われる人は、320万人おり、人口の3.6%に当たる。諸外国と比較すると、オランダ1.9%、フランス1.2%、スイス1.1%などとなっており、わが国が突出していることがわかる。

この調査によれば、ギャンブル依存症の疑いのある人が、最もお金を使ったのは「パチンコ、パチスロ」という結果であった。

つまり、カジノができるからといって慌てて依存症対策に乗り出すのは悪いことではないが、どう考えても遅きに失している。依存症対策というのであれば、カジノ規制を検討するだけでなく、パチンコ対策に本気で乗り出す必要があることはいうまでもない。

▼原田氏は日本がギャンブル大国になった理由について「アクセスのしやすさ」という社会的な要因を挙げている。そのとおりと思う。

国家が公認している賭博(とばく)にはいろいろあるが、担当の官庁が何をしているのかについて、ずいぶん前に読んだ「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子氏の鋭い指摘を紹介しておきたい。(「エコノミスト」2017年4月4日号)

〈行政の管轄を超えてギャンブル業界に規制を掛けられる仕組みをつくることが重要だと思います。公営ギャンブルでしたら、競馬が農林水産省、競艇が国土交通省、競輪とオートレースは経済産業省が管轄しています。

バブルがはじけてから、日本のギャンブル業界の売り上げは右肩下がりでしたから、各管轄官庁は懸命にテレビCMを流すなどの振興策を行ってきました。

 例えば、競馬の有馬記念ではテレビCMをバンバン流したり、山手線の電車のラッピングや柱の広告巻きなど、派手な宣伝をしています。振興策を行っている省庁がギャンブル依存症についての規制や啓発を行うには無理があります。

また、自分たちが管轄している業界は、関係省庁の天下り先になっているわけですから、売り上げ減少で縮小傾向になっては困りますよね。ギャンブルの規制と振興を同一の省庁が管轄していることが、依存症対策が進まない最大の原因だと思います。

▼一つのギャンブルの規制と振興を同じ省庁が担当しているというこの深刻な問題は、ほとんど報じられない。ちなみにパチンコの管轄は警察庁である。

馬は美しいし、好きだ。しかし、クリスマス前後に毎年、盛大に流れる有馬記念のCMを目にするたびに鼻白む思いがする。

(2018年12月25日)

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