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「これからの時代、美学が存在しないサービスに人は響かない」

映像クリエイターとして出発した僕の仕事(キャリア)も、プレイヤーからマネジメント(オーナー)の領域にこの数年の間に徐々に移行してきたと実感しています。今では9:1くらいの比率でクリエイター以外の仕事になっている状態。どんな仕事なのかっていうと、毎日毎日どこかしらのパイプから水が漏れてきたり燃料や酸素の残量を常に気にしながら、ちゃんと浮上して空を見ることが出来るのかどうかという不安と常に戦っている小さい潜水艦の艦長みたいな仕事です。生き残るために答えがハッキリしないものをジャッジしていくのが仕事。ジャッジを間違えたらもう空を見て外の空気を思いっきり吸う事すら叶わなくなる。たとえ二度と浮上できないリスクを抱えていたとしても、働き方やその内容も含め組織の成長に合わせて徐々に変化するから仕方ないよねと、覚悟を決めた次第です。そしてこのコロナというパラダイムシフトで経験値爆上がりしたオンスは次の10年を見据えて動き出します。

そしてまさに社会の価値観が根底から変わってしまったこの時期、来るべき次の局面に備えて今一度メンバー全員がオンスにジョインする意味を考えてみるという機会を作ることにしました。もう一度基本に立ち返り、自分たちのすべての行動や判断の指針となるオンスの理念や哲学を再確認し、これらの問いに対して各々が真摯に向き合ってほしかったからです。ということで、メンバーに向けてプレゼンした内容をここにシェアしたいと思います。


”誰もが自分の人生を映像や写真として表現できる世界を目指す“


これがオンスの目指す世界です。僕がオンスを立ち上げた頃、有名人をよく撮影する仕事をしていたんだけど、その時現場で思ったことがある。スタッフや取り巻きからヨイショされて気分を高揚させた有名人たち。いい表情を引き出すためにあの手この手でみんなが現場を盛り上げるんだけど、ふっと我に返って頭に浮かんだことがある。「キラキラした有名人がいる華やかな現場を撮影したい人ってこの世にいっぱいいるよな。これ、撮影するの俺じゃなくてもよくない?」と。有名人を撮影したいクリエイターなんて掃いて捨てるほどいるよね。そうじゃなくて、キラキラした有名人たちだけじゃない普通に暮らしている人たちの人生を映像や写真で表現し、それが(普通の人たちの)人生の糧になるような世界を目指したいなと。望むなら誰もがプロに撮影してもらい、質の高い映像として気軽に手に入れることができ、それによって少しでも人生が豊かになってくれればいい。それまではある意味特権階級だけのものだった映像っていうコンテンツを、一般の人たちでも手に入りやすくする本当の意味での「映像の民主化」をしていくこと。それが僕らの目指す世界なんです。

”撮る人も撮られる人も一緒に豊かになること”

これがオンスの理念です。この業界では、撮る人の賃金はなるべく安く抑えられてきました。なぜならウェディング業界というのは典型的な労働集約型のビジネスモデルだからです。全国で土日祝日だけに行われる結婚式の映像制作業務に対応するため、とにかく大量の人手がいる。人海戦術的にアルバイトを雇ってごく短期間で最低限のスキルとマナーを覚えさせ、なるべくミスしないためのフォーマットを用意して金太郎飴の如くその通りにやらせる。そういった練度の低い即席の「カメラマン」や「エディター」たちが多いので、当然週明けには各会場から何かしらのクレームが入る。すると業者の正社員たちは各会場を行脚し、尻拭いをしてまわる。それが「営業」という彼らの立派な仕事であり、会場との持ちつ持たれつの関係性も出来上がる。会場は業者に依存し、益々既得権益は強化されていく。大事なのは顧客に提供する映像の質や美的センスの備わったサービスではない。どれだけ多くの人を集めて短期間で効率よく教育し、途切れることなく最前線に送り込めるかという人材派遣業的な運用能力に価値がある。まあ、歴史を見れば勝者のそういう側面が間違っているとは言えないんだけど、やっぱりウエディング映像っていうジャンルが映像業界の中でも最底辺として扱われるようになった大きな所以と言えるのは間違いない。

そういう今までの大量生産型ビジネスモデルに嫌気がさしてオンスを立ち上げた経緯から、それらとは正反対の進み方をする必要があった。勝たなくてもいいけど、負けないやり方。これがオンスのような小規模チームには必要だと思った。そして長くウェディングという仕事に携わって気が付いたことがある。そもそも撮る人が豊かな人生を送っていなければ、顧客を映像や写真で豊かにすることはできないよねってこと。すごくシンプルなんだけど、この当たり前なことを実はみんな忘れてるんじゃないかなって。だから撮る人が豊かになる方法を常に考える会社でありたい。ただし、これは会社だけの一方的な努力では成り立たない。参画するメンバーの努力と貢献も必要不可欠であって、会社とメンバーの相乗効果があって初めて成り立つものだと思います。

”顧客にとって人生の糧となるような作品を残すために、普遍的かつ本質的な価値を常に探求すること”

これがオンスのフィロソフィです。オンスを立ち上げた頃はまだこんな言語化された哲学なんて持ち合わせていなかった。でも、やっていくうちに自分たちのフィロソフィが必要になってきた。何故ならば、それが仕事をする上での指針になるから。指針がなければ何を基準に行動しなければいけないのかが分からない。どこを目指せばいいのかも分からないから、樹海をコンパスなしでひたすらさまようのと一緒になっちゃう。そんなことしてたらいずれ消耗し、生き残れないだろうと。フィロソフィを創るにあたって参考にしたのは、アメリカ留学時代に大学の授業で勉強した映画監督の小津安二郎。世界の映画監督が選ぶ史上最高の映画で堂々の1位を獲得した「東京物語」の監督だ。小津の作品から学んだ思想や哲学がオンスのフィロソフィを形成する原型になった。そもそもフィロソフィ(哲学)なんてものをウエディングの映像制作に持ち込むのがまだ珍しい時代(2012年頃)だったこともあり、小規模チームでもなんとか生き残ってこれたのはフィロソフィという指針をちゃんと考え続けてきた結果だと確信している。

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しかしながら2021年現在の同業他社を見渡してみると、もうこのフィロソフィは広くコモディティ化してしまったという感じがする。今の時代、普遍的かつ本質的なことを考えなければ生き残れないのはある意味当たり前であって、もう珍しくもなんともない。映像の表層(スキルやテクニック)だけでなく、その核心には何があるのかを分析するようになると、賞味期限の長いものを作ろうとする要素がそれだってことにみんな気付いちゃった。ということで、残念ながら(というか、ウェディング映像の本質を考え始めたクリエイターが世に増えてきたってことは素直に喜ばしいことである)もうこのフィロソフィだけではオンス固有とは言えなくなってしまったと思っている。でも、すごく大事なオンスの原点であることに間違いない。

オンスらしさの正体とは

フィロソフィが普及しちゃったってことは、オンスらしさ(自分たちらしさ)っていうのを表現していくのが難しくなってきたということ。フィロソフィ以外でもっと自分たちらしさを押し出して差別化していかなきゃいけないよねって話になる。ではそのオンスらしさって一体なんなのか?僕たちはその自分たちらしさを「オンスイズム」と呼んで来ました。このオンスイズムの要素が作品に反映されていなければ、オンスが提供するサービスとしての価値は低いってことになる。ってことで、オンスイズムこそがオンス固有の価値観となります。普遍的かつ本質的な価値を追求するというフィロソフィとオンスイズムの二つの要素があって初めて「オンスが創る作品」としての価値が生まれる。では、オンスイズムとは具体的に何のことだろうか?それはすなわち「芸術性」のことです。芸術性の解釈は多岐に渡りますが、オンスイズムの芸術性は引き算の美学から生み出される「余白」や「間」を中心とした考え方から始まっており、余白の豊かさこそが鑑賞する人の想像力を刺激すると考えます。言語化するのが難しい部分なんですが、だからこそ価値があると考えています。

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いつまでも色褪せない映像を創るには?

ただ、僕たちのフィロソフィが普及してしまったように、オンスイズムもやがて普及してしまうだろうと思ってます。じゃあどうするのか。カギは「作家性」にあります。普遍的かつ本質的な価値を追求するという「フィロソフィ」と芸術性という「オンスイズム」に、「作家性」という要素が加わってオンスの価値は最大になります。フィロソフィとオンスイズムをクリエイターそれぞれが再解釈し、試行錯誤しながら自分なりの表現方法を見つけていくプロとしての姿勢が「作家性」です。それはつまり自己の美的感覚を高めていく行為であり、感性を養うための日々の生き方や己との向き合い方のこと。これまた言語化するのが難しい抽象的で概念的な美意識や芸術性の領域は、そもそもその中に自分なりの答えを見出そうとする行為自体がなかなか難しいと言えます。誰もが行きつく答えが同じではないからこそ価値がある、そんなふうに考えてます。

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”プロの映像クリエイターやフォトグラファーとは「視点」を貸す仕事である”

もう一つ、作家性を理解する上で大事なのが「クリエイターという第三者の視点」という考え方です。人間が一番興味があるのは「自分自身」なんです。「自分」では気付かないような視点から「自分」を表現する事で新しい「自分」に出会える。知らない自分を見たいという人間の根本的な欲求(探求)こそが、プロに写真や映像を撮ってもらうひとつの大きな理由だと思っています。

プロの「視点」というフィルターを信じて顧客は撮影を依頼をしてくるわけだから、我々プロはそのフィルターの精度を限りなく追求して高め続けることが必要となる。機材を扱えるかとか、編集ソフトのテクニックがすごいとか、そういうのは最悪オペレーターに任せちゃえばいい話であり、どうとでもなる。そうじゃなくて、今まで何を見てどう感じてきたのか。何を見て心にグッときたのか。その感情の正体は何なのか。そういった「探求」に対して今までの人生でどう向き合ってきたのか。年齢や経験とかはあまり関係ないかもしれない。向き合った深さや貪欲さなのか、それとも天性か。まあ、そこははっきりとしないけど、「作家性」とはつまりそれほど客観的でもなく、中立でもない主観寄りな視点ってこと。

自撮りはいつまでたっても自分の「視点」から抜け出せない。パパがビデオカメラ回して撮ったムービーにはパパの「視点」以外の発見はない。今まで見たことのない「視点」で家族や自分たちを撮って「新しい自分」や「見たことのない家族」を見てみたい。そのニーズ(欲求)に応えるのに相応しいプロという信頼できる「視点」(フィルター)を「作家性」という。フィロソフィとオンスイズム、そして作家性の3つが揃ってオンスの提供する映像や写真の価値は最大化します。

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ここまで色々とオンスの根幹に関わる話をしてきましたが、もうお分かりのようにこれを上手く言語化してマニュアルに落とし込み、大量生産することは非常に難しいなと実感しています。ということで、僕たちはオンスの考える美意識を自分たちが提供する商品やサービスに宿し、人の心を打つような価値を共有して少なくともそれを中量生産できる組織を目指すこと。方向性としてこれが現実的かなと考えています。

「永遠に通じるものこそ、常に新しい。」

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