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䞖界名🌎「Prodigy-神童-」⚔第䞀章 産声を䞊げた光

歀方は黒圱玳士season2より玄20幎前に曞かれた戊闘系ファンタゞヌ。
🔗黒圱玳士season 3-1より連鎖発動‌
黒圱玳士season3-1から、頻繁にProdigyより登堎人物達が参戊したす。
是非、season3-1幕前埌に挟んでお読み䞋さい。

⚠この䜜品だけ、デヌタがあるだけになっおしたいたした。
最埌たでお読み頂けたすが、抂芁皋床の纏めになっおしたった事をお詫び申し䞊げたす。
本来は長線でしたが、Prodigyが奜きだず蚀う病床にいた子にプレれントしおしたったのです。
ですから、仕方ないず埮笑んで頂けるず幞いに思いたす。

――第䞀章 産声を䞊げた光――

 恐ろしき    悪しき血を持぀者    
 正軍のゎットハンタヌ殺し屋    

 誰もが圌の事をそう呌び恐れた。

 Prodigyプロディゞヌず呌ばれる新しく神の力を持っお産たれた人皮ず、昔からいた人皮の二぀の皮がこの䞖界に生存しおいる。初めは共存を望んだ二぀の皮も、Prodigyが青幎に達する時に、発する膚倧な力に恐れを成し、その恐怖はやがお戊いを招いた。先䜏民の皮は、Prodigyの力に察抗する為、「正軍」ずいう組織を䜜り䞊げる。
 初めはProdigyに察抗する為だけにあった正軍だが、突劂Prodigyを狩り出した。そしお捕らえたProdigyにProdigy狩りをさせるずいう策を始めたのだ。先䜏民の皮のリスクも少ないこの䜜戊はやがおProdigyずいう皮を激枛させた。残されたProdigyは同じ皮により远い詰められ、戊いをよぎなくされおいる。生きる為だけに    戊いは終わる事はなかった。

 ザむンは将軍からの呜什を受け、たさに今軍ぞ垰ったずころだった。ザむンの服は戊闘から垰っおきたばかりだずいうのに、汚れも争った跡もない。只、出掛けた時ず違うのは、右頬から右目にかけお長く切り裂いたような傷が瞊に぀いおいる所だけだ。
 ザむン皋の者の顔に傷を残す者がいるなんお    
 正軍の医療係を担圓しおいたDr.は、ザむンが将軍に報告する為、長い廊䞋を歩む姿を芋お、そんな事を思っおいた。
 ザむンはどんな戊いだったかは報告しない。
 䜕時だっお結果だけだ。殺しお来たか    そうでないか。ザむンの戊う姿を知っおいるのはザむン自身だけだ。けれど、他の軍の者が圌を恐れるのは、将軍に嫌われ無理難題な戊いに駆り出されおも、必ず垰っお来たからだった。

 ザむンは䞀人の少女のProdigyを狩るように呜じられおいた。ザむンが呜じられた地に行くず、その街の民は歓迎した。
「早く、あの悪魔を倒しおくれ。」
 ザむンも悪魔の皮ず呌ばれるProdigyだったが、䜕も気には留めなかった。民衆が正軍の癜い制服を着たザむンをProdigyの少女のいる家ぞず案内した。䞭にはProdigyの父芪らしき人物が、少女を抱いお蹲っおいた。父芪はどうやらProdigyではないらしい。母芪がProdigyだったのだろう    。ザむンがそう思った時だった。
「枡さないぞっ    この子の母芪はProdigyではなかった。けれど、Prodigyを産んだ眪で俺ず同じ    人間に殺された。」
 ザむンに父芪らしき人物がそう蚀った。ザむンにはProdigy特有の心を読む力がある。男は願っおいた。

     この子は、俺にずっお    最埌の垌望    
 俺達は只    生きたいだけなんだ    

 それがわかるからこそ、ザむンは剣を抜いた。
 ザむンの䜓に巻き付いおいた、剣の鞘を留めおいたベルトが、剣を抜くず同時に無数の韍ず化し、悲しみのようなうめきを䞊げ、ザむンの呚りを慈しむかのように舞う。父芪に抱かれおいた少女は、このProdigy特有の神に䞎えられし力を芋おいた。怒りも    殺意もない静寂だった。ザむンの心だけが悲しくも    誰にも届かずに恐怖に悲鳎を䞊げおいた。たるで呻きを䞊げる韍だけが、その心を映しおいるようでもあった。

 これが    「神の裁き」
 そこにいた民衆の党おが、その真実を始めお知った。こんなにも暖かい慈悲に包たれおいる事を    。少女は父芪の腕の䞭で震えおいたが、もう    䜕も怖くない気がしおいた。
「もう    いいの。もう少ししたら、芚醒しお皆を殺しおしたう。」

 父さんでさえも    
 もうこれ以䞊    
 倧事なものを倱わない為に    

 少女はザむンに心ず蚀葉でそう蚀った。少女は父芪の包む腕を優しく解き、ザむンの方ぞず歩み寄る。ザむンを包んでいた韍が    近づいおきた少女をそっず包んだ。少女はその韍の暖かい枩もりに抱かれながら蚀った。
「私も    芚醒したら、こんな力を持おたかしら    。」
 ザむンは優しく    どこか物悲しい笑みを浮かべ、䜕も蚀わなかった。少女は神に祈るように、䞡手を組んで    どこか懐かしい光に包たれおいくのを感じおいた。ザむンの心に、少女の蚀葉ず想いがシンクロしお響いおきた。

「この日が来るのを埅っおいたした。」
     あなたには    この暖かい光が芋えないのね    
「生きなくおはいけないのですね    貎方は    」
     今なら芋える    
 生きるこずなんお、望んだこずないけれど
「    どうか    」
     この力の本圓の意味を    
「    どうか貎方にも    」
     同胞よ    
「神のご加護を    」

 そしお    少女は包たれた韍の䞭    砂のように消えた。韍だけが    悲しみに哭くように行き堎を無くし、その堎に蠢いおいた。
 ザむンは任務を終え、正軍の元ぞ垰ろうずしおいた。神童Prodigyずしお産たれ、戊い続けお生きる意味を考えながら  。数々の宛のない疑問は、けしお答えを埗る事などないずわかっおいたのに。
 血を芋るか  血を流すか  僕等のような異質な皮さえ生たれなければ  平和ずいう蚀葉の意味を知る事の出来た人達もいる  。䜕時たで続けなくおいけないのだろう。生きたいずいう願いは、䜕凊たで醜く匷さだけをこの䜓に䞎えるのだろうか。この䜓が心を倱うたで、この韍は己を喰らい尜くす気か  。僕には圌女が聞いた声など聞こえない。䜕時か  僕が死ぬ時にも聞く事が出来るだろうか。僕はその時、その声を聞ける皋の自我を持っおいるのだろうか  。

 そこたで考えた時だった。ザむンは自分の背埌に隠れおいた殺意に気が぀いた。ザむンにはわかる  殺意の䞭にある悲しみ  それは  Prodigy特有のものだ。ザむンは玠早く地面に片膝を぀き、背にある長剣に手を䌞ばし蚀った。
「自分から狩られにくるずは、いい床胞だな  Prodigy  。」
 ザむンの埌ろには䞊䞋䞡端が鎌になっおいる歊噚を持぀、肩皋にたで䌞びた柔らかそうな髪を揺らせる男が立っおいた。右目には県垯がある。ザむンはその県垯を芋るなり、盞手が自分ず同じ戊う者だずいう事を悟った。その男は蚀った。
「䜕時か狩られるくらいなら、殺りに行った方がマシだ。正軍の飌い犬ず同じにされるずは䟵害だな。」
 それを蚀い終えた瞬間、男の歊噚の鎌は月のように光り、ザむン目掛けお振り萜ずされた。
 鉄ず鉄が軋み合う、ガラスを裂いたような甲高い音が響いた。ザむンの長剣が男の歊噚に觊れるであろう瞬間、男の持っおいた歊噚は急速に回転し、倧きなスクリュヌのように男を守った。ザむンの持぀剣は男に觊れる間もなく無残に匟き飛ばされる。長剣が匟かれるず、ザむンのか现い䜓も反動で匟かれ、顔の右偎に瞊に深い傷を負い血が流れた。ザむンは顔に流れる血を腕で拭いながら、その男の持぀ガヌド胜力が自分ず同じ、チェヌンガヌド歊噚連動型防埡だず知る。ザむンの顔から流れる血を芋た男は嬉しそうにこう蚀った。
「どうだ  俺ず同じ目になった気分は。」
 ザむンの目は蟛うじお瞬時に閉じたので芖力は無事だったが、血が滲んで前がよく芋えない。ザむンの頭の䞭には、先皋自分が殺した少女が最埌に残した蚀葉が浮んでいた。
 けれど、ザむンは迷いを消すかのように蚀う。
「痛かねぇよ、ちっずも」
 そう  あの少女の心の痛みに比べれば  こんな傷、どうっお事もない。ザむンは赀く染たる芖界を無芖しお、男目掛けお突っ蟌んでいった。その瞬間に、長剣から韍も呻き声を䞊げお男の方ぞず目掛けお行った。
「なっ、なんだ、このガヌドはっ」
 男がそう叫んだのも無理がない。ザむンの長剣から䌞びた韍が男の歊噚に噛み぀き、その回転を止めたのだ。男はその時、ザむンが竜神䜿いのProdigyだず気づいた。ザむンはゆっくりず  たるでもう、戊いが終わったかのように蚀った。
「安心しろ  そい぀はガヌド。攻撃はしない。」
 しかしその蚀葉ずは裏腹に、男の手にあった歊噚の枝の郚分を韍が噛み砕いた。そう  䞻に危害を加えるものをこの韍は排陀しおいる。ガヌドは本来身を守る術でしかない。しかし、この竜神は䞻そのものを党おから守る術を持っおいる。男はProdigyずしお、ザむンずのガヌド胜力が桁違いな事に気づく。Prodigyの胜力は様々ではあったが、この䞀぀の歊噚で防埡ず攻撃を発動出来るチェヌンガヌドには、ガヌド発動時には䞻を守るが、その間は党く攻撃が出来ないずいう匱点がある。男は同じタむプの歊噚でこんな異垞な戊闘を初めお䜓感したのだ。ザむンは頬に䌝う血を手で匄ぶように撫でおこう蚀った。
「しかし、Prodigyの戊いで、攻撃は無力。ガヌドを解かれた者  それはすなわち  死を意味する  。」
 チェヌンガヌドのリスクは、歊噚を砎壊されるず同時に、攻撃もおろか、ガヌドも出来ない事だ。男はそのザむンの蚀葉に  自分の死を芚悟した。
 男は諊めたのか、折れた己の歊噚を杖に、地に片膝を立おるように滑り萜ちた。
 そしお、小さな埮笑を含たせこう蚀った。
「死を芚悟せずに  戊いを挑んだりはしない。只  只よぉ  どうしおこうも  俺等は生きる事が䞋手かねぇ  同胞よ。」
 男の目は悲しみを湛えおいるようでもあった。
 男の心の声がザむンにも聞こえた。ザむンはこの男の蚀葉で、この男もたた自分ず同じ様に、奜きで戊っおいるのではないのだず知る。
 男の戊う理由はただ䞀぀。戊わなければ生きる事すら出来ない宿呜にあるからだ。この男だけではない  きっず、この䞖界に生きるほずんどの人は、戊う意味を知らずに血を流す事しか出来ない。

 神は䜕の為に  俺達Prodigyを産んだのだろう  それが  俺達の産たれおきた意味か
   そう問う暇もなく戊いに明け暮れた。そんなの考える暇もなかった。俺達の半数は自殺する。でも  俺は我歊者矅に生きおきた。
 だから  もういいのかも知れない。
 やっず  終われる  

 ザむンはその男の心の声を聞きながら、男に背を向けお男の方を振り向くわけでもなく、空を芋䞊げお蚀った。
「お前さぁ  死ぬなよ。あんなにさっきたで生きようず頑匵っおたじゃん。俺、任務終えた。だから  だから、お前を殺す意味  ねぇず思う。」
 男の耳に響いたザむンの声は、さっきたでの戊いずは別人のように、無邪気な少幎のような声だった。そしおザむンは少しだけ振り向き、男の方に目をむけこう蚀った。
「お前さぁ  革呜っお  信じる」
 男の芋たザむンの口元は、たるで小さな少幎が、これから悪戯でもするかのような、笑みに歪んでいた。男はザむンずいう䞀人のProdigyが神童なのか、悪魔の子なのかわかる術もなかった。
 けれどザむンは自分のように迷いながら戊い生きおいる。それはわかる。そしお  䜕かを倉えようず、迷い戊っおいたのだず  。

 それがザむンの  戊いだ。

 長い廊䞋を過ぎ、ザむンは軍の兵士達が芋守る䞭、将軍の前に敬意を衚するかの劂く、
 深々ず片膝を぀き、片手を胞に圓お報告した。
「ご苊劎だった  䞋がっおよい。」
 たるで王座かのように荘厳たる怅子で、将軍は足を組み、ザむンをあしらうように手で軜く払っおそう蚀った。将軍はザむンがただ死なない事が気に食わないのだろうず、Dr.は心に思った。隣にいた兵士がザむンを睚み぀けるように芋ながらこう蚀った。
「  Justice正矩の名を語る魔物だ  。」
 じゃあ、お前は正矩なのかず、思わず聞き返したくはなったが、Dr.はあえお䜕も蚀わず医務宀ぞず戻った。正軍にいるProdigyこそが神に遞ばれし者だず思い蟌んで驕っおいる奎に、䜕を蚀っおも無意味だず思ったのだろう。
 ふちのない県鏡を倖し、ほっず溜息を挏らすず医務宀のドアをノックする音が聞こえ、慌おおDr.は県鏡を掛け盎す。
「どうぞ。」
 静かにドアが開き、その向こうにはザむンの姿があった。ザむンは無蚀のたたに蚺察甚の小さな䞞怅子に腰掛ける。軍の誰もが恐れ嫌うザむンだったがDr.はそんな事を気にした事など䞀床もなかった。圌にずっおは誰でも怪我をした患者は平等だったし、ザむンがどこずなく遠い昔  ただDr.が子䟛の頃、い぀も助けおくれた兄に面圱が䌌おいるからだ。䜕時も兄には自分が助けられおいた。だから兄はよく傷だらけになった。遠い蚘憶を振り返っおみおも、兄が自分を守っおくれた埌姿が䜕時もあった。
 だから  兄に䌌おいるザむンの傷を治療できるのは、恩返しのようで嫌いじゃない。あたり倚くを口にしない  そんな所もよく䌌おいる  。
 そう思いながらも倚分、もう治らないであろう、顔の右偎に぀いた傷を消毒する。無衚情なザむンの巊目がぎくりず動いた。きっず傷にしみたのだろう。やはり鬌神ず蚀えども、生きる者。痛みは誰にでも平等にあるのだ。
「終わりたしたよ。」
 そう蚀ったDr.の口元は包垯で隠されおいおわからないが、目は優しかった。Dr.はザむンの郚屋を出ようずする埌ろ姿に小さくこう蚀った。
「治らないずわかっおいる傷ならば  治療しない方が痛たない  そうは思いたせんか  。」
 ザむンにその小さな蚀葉が聞こえたのか、聞こえなかったのか知る事は出来なかったが、ザむンはドアの前で立ち止たり、Dr.に背を向けたたた顔だけちらりず振り向くずこう蚀った。
「  それはお前も同じ事だろう  。」
 そう、静かに蚀っお医務宀を去った。Dr.はこの時、自分の䜓䞭にある叀い傷の事をザむンが悟っおいる事を知った。驚きにも䌌た怯えのような感芚を受ける。けれど、その感芚を認めたくはなかったのか、気のせいだず自分に思い蟌たせようずしおいた。
   だからなんだ。医者のくせに䜓䞭包垯で隠しおいれば、誰でも火傷か䜕かの傷だず思うのが圓然だ。きっずザむンがこの傷の事を知っおいるず勘違いしたのは、己が傷の事を気にしおいたからに違いない。もっず干枉に぀けこたれないように匷い粟神力が必芁だな。そうは思っおみたものの  ザむンの蚀葉に䜕故かショックを感じずにはいられなかった。
 兄に䌌おいるザむンが蚀ったからかもしかしたら  本圓に兄だったらなんお  そんな䞋らない期埅を持っおしたったからか
 けれど、䜕床考えようずも、兄は幌い日に出お行ったきり、それ以倖は䜕も知らなかった。
 それにザむンは過去を話すような奎でもなさそうだ  。考えおも䜕も答えを埗る術などなかった。
 ザむンは䜕時も悪魔のように心無い衚情で人を芋䞋すように冷たく笑い、悪魔のように真実を芋透かしおいる。それでいお、他人には䞀切干枉させなかったし、匱点どころか党おをベヌルに芆い隠しおいる。䜕か深い事情があっおそうなったのか。それずも元より邪悪な人物なのか  。心の闇より倖傷の方が軜いのかも知れない。

 ザむンが廊䞋を出るず、将軍が埅ち構えるように其凊に居た。
 ザむンは䜕時ず倉わらぬ無衚情で冷酷な目぀きで出迎える。将軍は䜕時もの事でもあったからか、そんな圌に気を留める事もなく、ザむンの暪を䜕も無かったかのように通り過ぎるかに思えた。けれど、ザむンは嫌な予感を感じおいた。䜕時も将軍はザむンに呜什を䞋す時、玠っ気無い仕草で呜什だけをさらりず蚀い残すのだ。ザむン自身も、将軍に嫌われおいる事は承知の䞊だった事もあり、こんなやり取りは珍しくはない。
「次は  名だけの楜園に行け。」
 やはりザむンの暪を通り過ぎる瞬間に、将軍はザむンの耳元でそう蚀った。ザむンは立ち止たったたた、振り向く事もなく将軍に返した。
「わかった。」
 ず、䞀蚀だけ  。ザむンはそのたた自宀ぞず戻った。郚屋ずは蚀いがたい、コンクリヌトの壁に、小さな鉄柵の぀いた窓  簡玠なベッドの眮かれた牢獄のようなものだった。ザむンは正軍の蚌でもある癜いコヌトをベッドの䞊に脱ぎ捚お、自分もベッドに腰掛けた。
 ”名ばかりの楜園”それは、Arcadiaの地を意味する。Arcadiaアルカディアの意味は理想郷だが、その地は今  廃墟そのものだった。昔あるProdigyが芚醒した時、その小さな村は壊滅したず蚀われおいる。しかし、その埌  そのProdigyがどうなったか、村の者も党滅したので誰も知るよしもなかった。それ以来、そのProdigyでも皀な巚倧な力を人々はマザヌコア母なる栞に䜏たう、Prodigyの生みの芪の仕業だず考えた。そしおArcadiaは、初めのProdigyが産たれた地ずしお、Prodigyにずっおは「聖なる地」だが、人々は「名だけの楜園」ず呌び、恐れお近づく事もなかった。今ずなっおはただの蚀い䌝えられた嘘か真かも分からない䌝説の䞀぀でしかない。
 あそこならば誰も近づこうずはしない。Prodigyが隠れるのならば、うっお぀けの堎所だ。䜕でもない  䜕時もず倉わらない、狩りをするだけだ。けれど、ザむンの心の䞭には、違う䞍安が立ちこめおいた。その地に䜕床行こうずした事か  。ザむンは䞀床はその地をProdigyずしお芋おおきたかったず思っおいた。Prodigyが産たれた起源を知りたかったのもある。知ったずころで䜕か考えがある蚳ではなかったが、自分がずっず宛もなく問い続けた答えが其凊にあるようにも思っおいた。
 けれど、行こうずする床にザむンの頭にはある声が聞こえおきお、ザむンはその声に阻たれるかのようにその地を螏たずに歀凊たで来たのだ。
“行っおはいけない  行っおは駄目”
 そんな声が  脳裏に焌き぀いおならなかった。
 しかし、呜什に逆らえば今床は自分が远われる身  そんな事を考えおいる暇はない。たかが芋知らぬ声ぐらいで足を拒んではいられないのだ。䜕を恐れる事がある  銬鹿らしい。
 そうは思っおみるものの、ザむンの決意ずは裏腹に、䜓䞭の血がそれを止めようずする。䜕時も芋る幻芚が  たたザむンの頭をよぎった。

 倧量の砎壊されたマネキンだ。マネキンなのに血があふれ出おいる。どこもかしこも血の海だ。䞀番ザむンの足元の近くにあるマネキンがこう蚀う。
「来ないで  なんお  なんお  恐ろしい子。」
 ザむンにずっおのArcadiaはマネキンの楜園そのものだった。し぀こいぐらいにマネキンは、ザむンの頭の䞭で蠢いおは繰り返す。
“行っおはいけない  来おはいけない  
 育おの母の事も䜕もかも忘れおしたっおいたザむンだが、この感芚に襲われる床に、そのマネキンが母の嘆きのようにも感じられた。ザむンは脳裏に焌き぀くマネキンの声を振り払うようにベッドの䞊で俯きながら、憎しみに満ちた声でこう小さく蚀った。
「  ガタガタ  うるせぇんだよ  。」
 牢屋のようなザむンの郚屋の䞭は、小さな窓から零れ萜ちた䞀筋の月の光が差しおいた。
 皆マネキンになっちたえ  。
 ザむンは心の䞭で、今たで殺しおきた呜の眪の意識から逃れるようにそう、匷く思った。
 真っ赀な月が、郚屋䞀杯にザむンのその心を映し照らし出す。

 月を芋䞊げれば 䜕時も理由なく悲しくなった。それは僕らの立぀地が、数々の呜の消滅の䞊に成り立っおいるからかも知れない。
 あの䞞い月が、母䜓の䞭で安らかに眠っおいたあの感芚に戻しおいく。子䟛のように玔粋なたたの心になった僕は、今ずいう時間に涙した。
 優しくなればなる皋、胞が焊げ萜ちるように締め付けられる。優しくなればなる皋、この䞖界の痛みが鮮明に感じられるからだ。
 蟛さを知っお優しくなれるのは、きっず同情なんかからじゃない。痛みを知り、それを恐れる子䟛になるからだ。正軍の飌い犬になっお意味もなく殺し続ければ恐れる暇もない。  この䞖界の悲しみから、少しだけ解攟される。
 ザむンは思う。あの月はザむン自身を映す鏡なのだず  。そしお鏡の月に反射した優しさは、この䞖界では悲しみに映り、傷぀き醜く成り果おた䜓党䜓を晒すように包んでくれるだろう。だからこそ、生きられる  こんな堎所で  こんな自分でも。
 人はきっず、知らない間にその䜕かの力に気づくのだろう。憎しみは憎しみしか産たない。優しさは優しさを創造する。だからこそ䜙蚈に優しさが悲しみに芋える。僕らは  今、どんな圢であろうずも、確かに生きおいる事を肌で感じおいる筈なんだ。
 僕は己がひたすら匷くなりたいず願っおいるのだず、ずっず勘違いしおいた。悲しみに呑たれないように必死になっおいる自分の姿が蚱せない時もあった。
 䜕故、僕は戊うのだろう。この䞖界の䜕を其凊たで憎んでしたったのだろう  そう思っおいた。
 でも  本圓は違った。僕はこの地の悲しみを感じたんだ。でも珟実は、それに捕らわれお泣いおいる時間などない。だから、自分でも無理しお匷がっおいるのだず思っおいたが、その悲しみを終わらせたかっただけだ。
 この小さな窓から垌望を探すように月を芋䞊げおは感じおいた。消えた呜の倚さを芋䞊げお僕が悲しくなったのは、けしお生きおいた者の執念でも憎しみでもない。
 䜕故  途切れる事がないのか  。
 その偉倧ずも蚀える挠然ずした氞遠の苊悩だった。
 人は䜕凊かで匷さを瀺し、誰かに自分ずいう存圚を知っおもらう事で安らぎを埗る。しかし、時にその為ならばどんな手段も厭わないようになっおしたう事もある。犠牲の䞊に成り立った存圚蚌明は、満足感を埗る事も無く  氞遠の空腹感を䜜っおしたうものだ。
 月が泣いおいるように思えた。  この声が  䜕故にこんなにも届かないのか  そう、嘆いた日もある。
 優しい光に照らされお、僕は母䜓に戻り同じ苊しみを聞いおいた。子守唄は  䜕時だっお、枩かい涙を流す母の唄だった。

 解き攟おばいい  悲しみを知り、匱さを知った心を。
 泣いおばかりでは、優しいだけではきっずこの悲しみは終らない。恐怖を駆り立おに行こう。己が逃げお来た  悲しみを受け止める為に。䟋え月に映すこの憎しみに䌌た悲しみが、䜕時か反射しおこの身に戻っお来ようずも。
 母よ  この血に塗れた姿が芋えたすか
無力な僕はこんな事でしか、生きる事も  貎方を愛する事も瀺せない。どうか貎方だけは  こんな姿を芋お泣かないで䞋さい。
 今だけは  僕を芋捚おお䞋さい。

 䜕時か  本圓の安らぎの䞭で、眠りに぀ける日たで。

 䟋え悪に心を鬌にしおしたっおも  僕は貎方が産み出したこの悲しい地で生きおいる。こんなに月が真っ赀で矎しい日に、僕はもう  迷いはしない。
 今日で、最初で最埌の決意。血の様に真っ赀に流れる涙は、貎方だけに莈ろう。䜕故だか恐怖も䜕も感じない。生たれ倉わるんだ  この真っ赀な月の䞋で。

 我が呜  その月に捧げよう。

 ザむンの先皋たでの蚀動ずは裏腹に、その衚情は埮かに優しい笑みを浮かべるが、頬を䌝う涙だけが月明かりに赀く映っおいた。
 そしおザむンは突劂衚情を倉え、たるで月を喰らい尜くす獣のように決意に満ちた芖線を月に投げる。長剣を出し、小さな窓から入る䞀筋の光にそれを掲げた。そしお掲げられた剣先はザむン自身の銖元ぞず向きを倉える。
「神よ  我、死に様芋届けるがいいっ」

 ザむンがそんな事になっおいようずも知らず、Dr.は蚘憶を蟿っお、兄の事を思い出しおいた。
「貎方がProdigyだったなんお  」
 Dr.の脳裏に母の悲痛な蚀葉が浮んでいた。幌い頃  倖ぞはあたり出なかった。同い幎ぐらいの子には”人殺し”ず石を投げられた事もあった。僕は  誰も殺しおないのに  䜕時もそう思っお泣いおばかりだった。Prodigyではない兄を  どんなに矚たしく思った事か  。
 けれど、兄は䜕時だっお自分を守っおくれた。
 だからこそ、兄を矚む事はあっおもそれを劬みや憎しみに倉える事も無かった。
 街の倧人達が僕を䜕床も殺しに来た時も、身を呈しお僕の前に兄は立ちはだかった。兄は人間だったから殺されはしない  だから兄は僕の盟になっおくれた。Prodigyでもなかった兄が其凊たでしお守ろうずしおくれた姿は、神の子や倧人達よりも䜕倍も匷く倧きく芋えた。
 本圓はそんなに匷くもなくお䜓が匱かった筈なのに、きっずそれは兄の信念の倧きさだったのだろう。
「なんだ、お前邪魔する気かっ」
 倧勢の倧人がただ子䟛の兄の前に立ちはだかる。
「構うな殺されるよりマシだっ」
 そう蚀っお、䞀人の倧人が兄を払おうず、鎌を振り萜ずした。兄はその時、怪我をした。
「その子は違うわProdigyじゃないのよ、やめおっ」
 母がそう蚀っお兄を抱きしめるず、
「䜕時か殺しおやるからなっ」
 ず蚀っお、倧人達は僕を睚み぀けお䞀時退散しおくれた。
 母は䜕時も無茶をする兄を守った  けれど、僕を守っおはくれた事は䞀床だっおない。けれど、それでも生きおいけるず思った。兄だけが  䜕時も怪我を増やしながら、僕を守っおくれおいたから。
 あの頃は  僕も䞋手な治療しかしおあげられなくお  䞋手に巻いた包垯は、䜕時だっおほ぀れそうだった。僕は泣きそうな顔で、䞋手な治療をするず、兄は䜕時もこう蚀った。
「心配すんな。」
 そう蚀っお  笑った。
 その笑顔に安心しおいたから、僕は䜕も疑わずに兄を信じおいた。けれど、兄は僕に䞀぀だけ隠しおいた事があった。
 兄もProdigyだったなんお  初めは信じられなかった。どうしお  あんなに優しく笑う兄なのに。母からしたら、僕はもしかしたら兄を隠す為の囮だったのかも知れない。僕がProdigyずしお死ねば、兄だけは䞊手く逃げお助かったのかも知れなかったのだから。今思えば、だからこそ母は兄だけを庇い、僕を守っおはくれなかったのだろう。
   でも
   それでも、少しだけ嬉しかった気もする。
 だから、兄を責める気にはなれなかった。ずっず自分だけがProdigyだっお思っおいたから、同じで良かったず  安堵した。兄はその秘密を僕にこっそり教えた埌、僕の手を取っお人気の少ない森ぞ連れお行っおくれた。兄はガヌド胜力を持っおいなかった。だからバレずに枈んだのだず蚀った。Prodigyは産たれた時からガヌド胜力だけは持っおいるのが普通だったから、どうしおかず疑問に思った事もある。
 けれど、僕らはProdigyずいうだけで既に異質な存圚なんだ。だから  深く考える事もなかった。
「倧䞈倫。  このたた隙せれば、お前を守れる。お前がもう少し倧きくなっお芚醒の日が近くなったら、この街を出よう。」
 そう蚀った。僕は安心しお兄の手をずり家路に぀いた。

 けれど  その安心は、束の間だった。垰っおきた僕等が目にしたものは  亡き母の姿だった。
「母さん」
 兄が母の元ぞ駆け寄った時、たた街の倧人達が勝手に入っおきお、
「お前もProdigyだったんだな。Prodigyを二人も産むなんお魔女だ  こうなっお圓たり前だっ」
 ず、蚀った。きっず僕等の䌚話を誰かが聞いおいたんだ。僕は母が死んでくれた事で安堵しおしたったのかも知れない。だからこそ、兄ずは違っお母の亡骞に近づく事さえしなかった。血たみれの母の亡骞を抱き、その蚀葉を背に聞いおいた兄は、静かに立ちあがった。
 立ちあがった兄の手には無数の韍が蠢き  倧剣が出珟した。兄は  その時芚醒した。韍の力は小さな僕の生たれた町を呑み尜した。僕だけを残しお  。䜕床か僕の前にも韍が襲っおは来たが、韍が僕の䜓に圓たっおも觊れた感芚がなかった。䜕故か僕の䜓だけを䜕もなかったようにすり抜けたのだ。僕だけが、違う䞖界にいるのか、時が止たっおしたっおいるようだった。蟺りは血の海ず化し  兄は手にした長剣で、僕にもその矛先を向けようずもした。けれど  兄は僕を殺さず  逃げるようにそのたた姿を消した。
 その地は  Arcadia。僕だけが知っおいる  Arcadiaの䌝説の真実。あれからどれ皋、兄を探し続けただろうか。医垫になる勉匷をしながら逃げ回った。けれど、誰も殺しはしなかった。
 逃げお逃げお  最埌に蟿り぀いたのは、正軍だった。ここなら  兄に䌚えるかも知れない。
 医務宀にいれば人も殺さないで枈みそうだ。僕は自ら  正軍に寝返った。
「ザむンは今床、Arcadiaに行くらしいぜ。぀い最近任務から戻っお来たばかりなのに、もう次だっおよ。あい぀も無愛想面しおないで、他の奎らみたいに将軍に媚びを売れば良いものを  。案倖本圓に戊いが奜きなのかもな。ずんだ鬌神様だよ。」
 䞁床、蚺察にきた䞀人の兵士がそう告げた。
 Arcadiaず蚀う蚀葉を聞いた時、劙に䜕か  嫌な予感がしたんだ。僕は  ザむンの郚屋ぞ足を運んだ。きっず䜕時もの無口だろうけれど、傷の具合を芋に来たずでも蚀えば口実になる。ザむンの郚屋の前に蟿り぀くず嫌な予感が焊らせたのか、僕はノックする事も忘れお建付けが悪く、軋む音を立おるドアを開けた。
 そこには  信じられない光景があった。
 懐かしくも恐ろしい  蚘憶によく䌌た光景  。
 ザむンがザむン自身に剣を向けおいる事など、どうでも良かった。驚きはしたが、その壮絶なる光景に思わず息を呑む。それはその姿が鬌神ず蚀うよりもたるで神そのもののようにも芋えたからだ。月の光を受け、それを死に倉えおでもその自らの噚で受け止めようずしおいるようにも芋える。幻想的で圧倒的な光景だった。たるで今にも月を突き刺しおしたうかず思える皋だった。
   僕は、この時、神の力を芋たんだ。長剣から攟たれた韍は自らザむンを守り  自害しようずするのを食い止めた。あの韍  昔芋たものず同じ  。
 僕はこの時知った。ザむンが僕の兄であり、そしお  ガヌド胜力を備えお産たれお来なかった理由を  。そしお  圌が今たで、どんな戊いからも垰っおきた真盞も。  それに、䜕故  僕だけを殺さなかったのかも  。

「なんで  だよ。」
 ザむンは䞀筋の光の䞭厩れ萜ちた。そしお  
「䜕で、今ごろ救うんだよっ」
 そう叫んだ。床に぀いたザむンの手に、䞀粒の涙が萜ちおいた。真っ赀な  血のような涙だった。
 ザむンの俯いた泣き顔をDr.はゆっくり持ち䞊げ、こう蚀った。
「やっぱり  ね。貎方は  死ねない  。」
 ず。ザむンは憎しみにも䌌た目をDr.に向け、持ち䞊げられた顔を逞らす。自害しようずした事を知られた事を痎態だず思ったのか  それずも、邪魔だず蚀いたいのか  。そしお䜕時ものような無愛想な声で、
「出おいけ。」
 そう蚀っお長剣をしたい、立ちあがり背を向けた。Dr.はその蚀葉に立ち去るどころか、こう蚀った。
「私ず同じだ。Arcadiaで産たれし、初めのProdigyだ。」
 ザむンはその蚀葉に思わず振り返る。
「䜕を  蚀っおいる。」
 静かに  問いただした。するずDr.はおもむろに右手を顔の蟺りにたで䞊げた。その手から出おきたのは半透明の地球の映像だった。ザむンにゆっくり話を聞いおくれず蚀ったずころで、圌はそれを承諟する筈もなければ、話を聞いたずしおも信じおはくれないだろう。だからこそ、Dr.はその球䜓を芋せながら話をした方が良さそうだず刀断したのだ。
 よく芋るずDr.が手にしおいる地球の䞭心に赀い光が芋える。
「これは  地球の栞コアずなる、Prodigyのマザヌコア生みの芪の䜏んでいた地。しかし、数幎前  我等が神母は、地球コアを捚お空ぞず昇り、僕等をこの゚デン地球に産んだ。それ故に  僕達は地に萜ちた皮、「悪魔の皮」ず呌ばれた。そしお貎方が  はじめお゚デン地球に堕ちた、Prodigyの生たれ倉わりだ。僕等の母は倧いなる倧地の神  マザヌコアそのものだ。」
 今曎、Prodigyの歎史なんかを知ったずころで、䜕が倉わるっお蚀うのだ。そう思ったザむンは冷めきった口調でDr.に蚀った。
「だったら䜕だ。」
 ザむンの冷たい蚀葉に、Dr.は䜕の躊躇も芋せずそれどころか、それを楜しんでいるかのように、䞀぀倧きな溜息をやれやれず蚀わんばかりに吐いおこう続けた。
「さっきも蚀ったでしょう。僕もProdigyだ。  ぀たり  君は、僕の兄だ。」
 ザむンはその蚀葉にふいを぀かれたのか、少幎のようにきょずんずした目で疑いを露わにしおこう蚀った。
「はぁ  蚌拠は」
 Dr.はいかにも、ザむンが自分を銬鹿扱いしおいるのが䌝わり、ショックを感じたが、今は理解しおもらわなければず、萜ち着きを取り戻し、
「その韍を纏う剣  それでは、この俺を切れない。」
 ず蚀う。ザむンは、ああそうかず蚀っおDr.を切っお詊そうかずも思ったが、Dr.の唐突な銬鹿話に付き合っおいられるかず、
「偶然だろ。」
 そう蚀っお、劂䜕にもDr.を芋䞋した芖線で芋るずそう返した。そしお、いい加枛この茶番劇に苛立ちを感じおきたザむンは、
「他にもProdigyは沢山いるだろ。俺はこの剣を拟っただけだ。この剣の本圓の持ち䞻がお前の兄であるProdigyかも知れないだろ。」
 そう蚀っお、兎に角Dr.をあしらおうずする。
 けれど、Dr.はこんな事を蚀う。
「貎方はArcadiaで産たれた。俺はずっずあんたを探しおいた。  俺は知っおいる。貎方が産たれた芚醒した真実を。」
 ザむンの心の䞭にあったマネキンの楜園でしかないArcadiaの蚘憶。自分の芚醒した時の事すら芚えおいない。この剣の事だっお  本圓は気が぀いたら手にしおいた。
 䜕も知らない  俺は  自分の過去なんお  興味ない  ザむンはそう思うず、苛立ちを曎に深めお、
「䞋らねぇ  。」
 そう蚀っただけだった。
 Dr.はザむンにProdigy特有の心を読む力を利甚しお、ザむンに話し掛け、映像を芋せる。

 僕は芋た。貎方ずいう鬌神の産たれた瞬間を  幌い鬌神は神の剣を手に入れ、そこにいた党おを壊し尜くした  

 その心の蚀葉ず共に、ザむンの幌き芚醒した時の姿が映像ずしおザむンの脳裏に入り蟌む。

 無数のマネキン  ゎルゎタの䞘  

 ザむンの芋た幻芚そのものだった。そしお  Dr.の悲しそうな心の声が呟いた。

 この僕  以倖は  

 そしお小さく蚀った。
「その剣が  君を守った。  䞻人である蚌だ。」
 ず。Dr.の心の䞭にはザむンが芚醒した時の惚劇の過去が蘇っおいた。

「止めおよ  お兄ちゃん。  神様  どうか  お兄ちゃんを止めお。」
 小さい頃の自分がそう蚀っお泣いおいた。
 兄はたるで鬌神のように  荒れ狂う悲しみに呑たれおいるようだった。泣くだけで䜕も出来なかった無力な自分をDr.は責めずにはいられなかった。䜕故、兄匟なのに兄を止める事が出来なかったのかず。
 䜕時か  幌い頃に䜕時ものように母に虐埅を受けた時、こんな䞖界  無くなっおしたえばいい。そう、心底思った。けれどそれが珟実になった時、自分がそんな事を願っおしたったからだず思った。だっお  ザむンが芚醒したあの日  呚りが血の海になっおも、死䜓がどれ皋降っおこようずも䜕も感じなかった。
 怖かったのは  兄が自分の知らない䜕かになっおしたったようだったから。  それだけだった。そう感じた時、既に感づいおいたのかも知れない。兄が  姿を消す事を  。ずっず兄が消えおからDr.は考えおいた。
 兄は本圓は、僕を助けお守っおくれおいたのではないのかも知れない。単に母に可愛がられお自分だけが生き残る為の茶番だったのかも知れない。そんな事、考えたくもないし兄を信じおいたかった。  しかし、䟋え殺せなかったにしろ兄はこの僕でさえも  殺そうず剣を向けおいた。

「貎方ははじめおこの地に降り立った、Prodigyのオリゞナル。その剣のガヌドが解けるのも、オリゞナル盎系の血を匕くProdigy  ぀たり、僕だけだ。  だから  貎方は僕だけを  殺さなかった。」
 吊  殺せなかっただけかもしれない。そう心で思いながらも、Dr.は䜕凊ずなく悲しみを蟌めた口調でそう蚀った。
 けれどザむンは冷酷さを纏い匷い目でこう答える。
「じゃあ  人違いだ。俺の母芪は  俺が殺した。」
 Dr.はそんな殺意にも䌌たザむンの目を芋おもなおも話を続けた。ずっず  探し続けた人を前に、今ごろ䜕を屈する事があろうか  。どうしおも確かめたかった真実が、今わかろうずしおいるのに。
「Prodigyの魂は䜓をもたない。貎方が殺したのは、物質的な䜓を埗る為の殻シオルだ。」
 Dr.の必死の説明ですら、この冷酷な鬌神の前では無力なのだろうか。ザむンは、
「䞋らねぇ  。」
 そう再び悪態を぀くず、
「お前が出お行かないなら、俺が出お行く。」
 そう蚀い攟っお、その堎を去ろうずした。
 ここで、折角出䌚えたのにDr.は䜕時もの平静で穏やかな声ずは倉わり、たるで懇願するかのように蚀った。
「埅およっ  俺はずっず探しおいたんだぞ。Arcadiaを前に自害しようずしたのは、思い出すのが怖いからだろっ  兄貎っ」
 その蚀葉に、郚屋を出ようずしおいたザむンの足取りがぎくりず止たった。そしお次の瞬間、ザむンの長剣は抜かれDr.を抌し倒しその銖元ぞず圓おられた。
 党おを芋透かすような冷酷な目  
 昔、党おを切り裂いたあの鬌神がDr.の目の前に再び珟れた。
「邪魔なんだよっ」
 ザむンはDr.にそう蚀い攟った。しかし、この窮地の䞭  Dr.は口元に笑みを含たせおこう行った。
「そんなに  」
 俺を  
「殺したい殺せば良い  。あんたのガヌドも解かないし、俺もガヌドをしない。  その為に、生きお来たんだ。真実を知る為に」
 そしお、おもむろに口元に巻いおあった包垯を解いた。Dr.の口元には傷なんかなかった。
 昔  兄が自分を守った時に治す事の出来なかった傷ぞの償いだった。䜓䞭にあるのは、母が僕を嫌っお぀けたものだったり、石を投げ぀けられた時に残っおしたったものだけど  。
 Dr.の悲しい心がザむンにも聞こえる  吊、芋える。

 教えおくれ  䜕が正しい
 䜕故、誰も愛しおくれないの

 そう問い続けた、Dr.の幌き日の迷いが。
 Dr.の心の声はやがお映像を垯びおザむンの心に䌝わっおくる。Dr.はザむンに芋せようずしおいるのではない。そのあたりの悲しく匷い想いにそれがザむンにも芋えおしたうのだ。その景色は  幌いザむンずDr.が手を繋いで森の䞭ぞ行く埌ろ姿だった。Dr.が母芪から虐埅された埌に限っお、ザむンは䜕時も幌いDr.の手を取っお母から逃げるように森に出かけた。
 その時だけはDr.は安心しお、この䞖界の柵から解攟された。垰らなくおはいけない頃になるず、䜕時も兄のザむンはこうDr.に蚀った。
「倧䞈倫だ。䜕時だっお守っおやるから。」
 そう蚀っお笑った。Dr.が䜕時たでも信じおいたいず願う景色がそこにはあった。

 もう  笑っおくれないの
   兄ちゃん  

 Dr.の目からは䞀筋の涙が芋えた。
 ザむンは曖昧だった蚘憶の䞭に  倧事なものを芋出した。あんなにも守ろうずしおいた匟を、今自分の手で殺そうずしおいる。剣を持぀手が、自然にカタカタず震えた。䜕故忘れおしたたのかず自分を責める気持ちでいっぱいだった。戊ううちに  倧事なものさえも忘れおしたっおいたのだ。䜕時も母芪の暎力から守っおやれなかった匟を、ザむンは悔いおいた。森に行くず、自分の無力さが劙に倧きく感じた。  けれど、家に垰る前に蚀った蚀葉は本心からだ。Prodigyを憎む誰かからも、母芪からも  匟を守れるだけの力が欲しかった。
 生きる為だけに匷くなりたかったんじゃない。
 倉えたくお  匷くなりたかったんだ。

 Dr.が䜕も倉化がなかった事に、静かに目を開けるず、子䟛の頃ず倉わらなく埮笑むザむンの埌姿があった。そしおザむンは、
「やめた。  お前  匱そうだ。」
Dr.は埮動だにせず、ザむンの埌姿を芋る事しか出来ない。䜕故、ザむンの気が倉わったのか、無意識の景色を芋せた事を自分でも気付かなかったDr.はわからずにいた。けれどその衚情に、鬌神ず蚀われたザむンの心に、子䟛の頃ず倉わらない䜕かがただ残っおいるず確信出来た。
「兄匟だずは  認めおねぇぞ。」
 ザむンの蚀葉に、Dr.は呆然ずする思考の䞭で蚀った。
「  どうしたら  。」
 その問いに、
「死を望たない皋の  匷さを持お。」
 そう、ザむンは答えお郚屋を去った。
 ザむンはこの時誓った。
 守りたい者がいた。
 そしおこれからも守らなくおはいけない者がいる。
 だから  正矩に立お぀く反逆者ずなろう  。
 今を  倉える為に      。

🔞次の↓prodigy 第二章ぞ↓歀凊からお急ぎ匕っ越しの為、校正埌日ゆっくりに぀き、⚠誀字脱字オンパレヌド泚意報発什䞭ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が埡座いたす。気の所為だず思っお、面癜い間違いなら笑っお過ぎお䞋さい。皆んなそうしたす。そう蚀う埮笑たしさで出来おいる物語で埡座いたす^ ^

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お賜銭箱ず蚀う名の実は骞骚の手が出おくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か圓おになる。若しくは珈琲代。 なんおなぁ〜芁らないよ。倧事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に おな。 劂䜕しおもなら、薔薇買っお写メっお皆で癒されるかな。