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僕らと命のプレリュード 本編

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僕プレの小説の本編はこちら。 現代異能ファンタジー。異形の怪物と戦う少年少女の物語です。 過去にエブリスタで連載していたものの修正版です。エブリスタでは限定公開だったエピソー…
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2024年6月の記事一覧

僕らと命のプレリュード 第46話

僕らと命のプレリュード 第46話

 翌日、中央支部隊員は全員が総隊長室に集められていた。

「集まってもらってすまない。今日は君達に伝えなければならないことがある」

 千秋のただごとではない様子に、隊員は全員固唾を呑む。

 部屋の中に緊張感が走る。千秋は、隊員全員の顔を見渡して、ゆっくりと口を開いた。

「……高次元生物は人為的に生み出されている」

「え……!?」

 聖夜は驚いて声を上げた。他の隊員達も、目を見開いて驚きを

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僕らと命のプレリュード 第45話

僕らと命のプレリュード 第45話

 北の大国フリーデンは、その名の通り平和を愛する国だった。

 夏には、国中の畑で向日葵が咲く。その光景は世界一美しいと言われ、「希望の花園」と謳われるほどだ。

 そんな国で、まだ12歳のノエルは1人、さまよい歩いていた。

 向日葵畑に囲まれた、整備されていない道を、前が見えているのか分からないほどふらつきながら、ノエルは歩き続けている。

 しかし、黄色いペンキが塗られた木製の看板を越えたあ

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僕らと命のプレリュード 第44話

僕らと命のプレリュード 第44話

 真夜中、とある廃病院に、つくはずのない明かりが灯っていた。

 その廃病院の屋上で、エリスは溜息をつく。

「あーあ、駄目だった」

 すると、後から屋上にやってきたのであろう赤髪の青年が、背後からその肩を叩いた。

「やけにセンチメンタルじゃねえか」

「げ、イグニ……」

 エリスはあからさまに嫌そうな顔をしたが、左目に眼帯をした青年──イグニは豪快に笑った。

「溜息つくと、幸せが逃げるぞ

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僕らと命のプレリュード 第43話

僕らと命のプレリュード 第43話

「白雪。ねぇ、白雪」

 明るく澄んだ声が聞こえて、白雪は目を開ける。すると、大好きな姉が、9年前の姿のまま、横たわる自分の顔を微笑みながら覗き込んでいた。

「春花姉さん……?」

「白雪、起きて」

 姉に促されて、白雪は体を起こす。するとそこは、昔、姉とよく遊びに行っていた西公園の原っぱの上だった。

 白雪が顔を上げると、町で1番大きな桜の大木が、穏やかに佇んでいるのが目に入った。風が吹い

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僕らと命のプレリュード 第42話

僕らと命のプレリュード 第42話

 エリスがそう囁くと、白雪は胸を押さえて蹲った。

「はぁっ……はぁ……」

 エリスは優しく微笑みながら、白雪の顔を覗き込む。

「もう押さえつけなくてもいいんだよ?ほら、全部吐き出しちゃいなよ」

「うっ……」

 エリスの声に呼応するように、辺りが急に猛吹雪になった。エリスはそれを見て、心の底から楽しそうに、ケラケラと笑う。

「あはは!すごいねお兄さん!『このまま全て出し切って仲間もろとも

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僕らと命のプレリュード 第41話

僕らと命のプレリュード 第41話

 天ヶ原町の海岸近くにある、高台の上の臨海公園。白いタイルの地面に、公園中心にある、髪の長い姫君の青いオブジェクトが映える。この公園は人々の憩いの場であり、いつも多くの人が集っていた。

 しかし、高次元生物が発生した今となっては、普段の平和な様子の面影はない。誰もいなくなり閑散としている公園に、花琳は1人駆けつけた。

「居た……!」

 花琳の目の前にいたのは、蜘蛛の形をした巨大高次元生物。そ

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僕らと命のプレリュード 第40話

僕らと命のプレリュード 第40話

 3人が廊下を歩いていると、向こう側から白雪が歩いて来るのを見つけた。

「あ、白雪さんだ!」

「え!?」

「姉さん頑張れ」

 柊と海奈は花琳の背中を押して、曲がり角の陰に隠れた。

「え!?ち、ちょっと2人共、待って……!」

 陰に隠れてしまった2人に助けを求める花琳だったが、2人は親指を立てて、にっこりと笑うのみだった。

「な、何が大丈夫なのよ~……!」

 花琳がアワアワしていると

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僕らと命のプレリュード 第39話

僕らと命のプレリュード 第39話

 15分後、花琳の部屋にはコンソメスープの良い香りが広がった。鍋の中には色とりどりの野菜と鶏肉が入っている。見た目も美味しそうだ。

「よし。完成!」

「おお~!」

 柊と花琳は目を輝かせる。

「聖夜君、料理得意なのね!」

「家で作ってたんです。おばさんがよく料理を教えてくれて」

 聖夜は照れ笑いを浮かべる。

「何か、美味そうな匂いがする……」

 海奈がムクリと起き上がり聖夜の元へ近

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僕らと命のプレリュード 第38話

僕らと命のプレリュード 第38話

 花見を終えてしばらくしたある日、聖夜は自室のキッチンで目玉焼きを作っていた。そして、その様子を柊が傍らで熱心に見つめている。

「……はい、これでできあがり。簡単だろ?」

 聖夜は予め野菜を盛り付けておいた皿に目玉焼きをのせて、柊に差し出した。

「すごい……」

 柊は綺麗に焼けた目玉焼きを見て目を輝かせる。

「柊にもできるよ」

 そう言うと聖夜は味噌汁を盛り付け、小さなテーブルに置いた

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僕らと命のプレリュード 第37話

僕らと命のプレリュード 第37話

「深也…………その……」

 陽は、視線をキョロキョロさせながら、深也に歩み寄り……。

「…………ごめん、色々、…………ほんと、ごめん…………!」

 思いっきり頭を下げた。

「俺が……俺のせいで、いじめられて…………でも、全部勘違いだったんだ。俺……それを認めるのが、怖くて…………そしたら、今度は俺がいじめられるって、思ったら…………何も、できなくて…………!」

 震える声で、深也に謝って

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僕らと命のプレリュード 第36話

僕らと命のプレリュード 第36話

 東京都心の大通り。その上空に、大きい鷲のような、鳥型の高次元生物が旋回していた。人々がその高次元生物に目を奪われている中、深也は銃を構える。

(……撃ち落とせれば、こっちのものだ。でも……下を歩いている人にも被害が出る可能性がある。せめて、避難させることができればいいんだけど…………)

 どうすれば良いか考えている僅かな隙に、高次元生物が地上に向かって急激に高度を下げてきた。猛スピードで迫っ

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僕らと命のプレリュード 第35話

僕らと命のプレリュード 第35話

 今から4年前。中学一年生の夏休み明けから、深也は不登校になっていた。ずっと張り詰めていた気持ちが、夏休みで緩んだのだろう。彼の父も心配してた。

父も気づいていたのだ。深也が、小学生の頃から体に傷を作って帰ってきていたことも、中学生に上がってから、黙り込むことが増えたことも。

「深也、ご飯できたよ。置いておくから。昼と夜は冷蔵庫に作り置きがあるから、食べててくれ。父さん、今日は仕事で遅いから…

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僕らと命のプレリュード 第34話

僕らと命のプレリュード 第34話

 ある朝、深也は自室の掃除をしていた。

本棚の整理に取り掛かっていると、ぎゅうぎゅう詰めになった教科書の間から、冊子を1冊発見した。
昔小学校で配られた、不要になったプリントを半分に折って、白い面だけが見えるようにホチキスでとめられている。表紙には、子どもらしい崩れた字で「スーパーヒーロー」と書いてある。手作りの漫画が書かれた冊子だ。

「これ……まだ捨ててなかったんだ」

 ひっくり返して背表

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僕らと命のプレリュード 第33話

僕らと命のプレリュード 第33話

 中央支部に帰還した後、海奈と深也は花琳を医務室に連れて行き、そして談話室に向かって歩き出した。

 2人で廊下を歩いていると、深也が不意に心配そうに、海奈に声をかけた。

「み、海奈、さ……泣いた?」

「え?」

「いや、さっき見た時、少し目が腫れてたから…………って、ご、ごめん。そんな所まで見てる僕、気持ち悪すぎ…………」

 1人で肩を落とす深也を見て、海奈は慌てて首を横に振った。

「何

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