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僕らと命のプレリュード 第37話

「深也…………その……」

 陽は、視線をキョロキョロさせながら、深也に歩み寄り……。

「…………ごめん、色々、…………ほんと、ごめん…………!」

 思いっきり頭を下げた。

「俺が……俺のせいで、いじめられて…………でも、全部勘違いだったんだ。俺……それを認めるのが、怖くて…………そしたら、今度は俺がいじめられるって、思ったら…………何も、できなくて…………!」

 震える声で、深也に謝ってくる陽。その様子に、深也は一瞬、「大丈夫だよ」と答えたくなった。……しかし、自分がされてきた事は、そんな一言で流せるものじゃない……そんな悲しみも、同時に湧き上がってきてしまった。

「…………ごめん、陽。許すって…………言えそうに、ない」

 自分の気持ちにに嘘はつけず、深也はそう言うのがやっとだった。

「っ…………そう、だよな」

 陽は鼻をすすりながら顔を上げて、深也を潤んだ瞳で見つめた。今にも泣きそうなのに……必死で、笑顔を作ろうとしてる。陽は昔からそうだった。辛い時ほど無理をして、笑顔になろうとする人だった。

「俺、羨ましかったんだ。勉強も運動もできて、いつも友達に囲まれてた、お前が……。だから、俺の給食費が消えた時…………犯人がお前ならって、思ってしまった。ずっと、ずっと仲良くしてくれてた、大事な親友の不幸を…………願ってしまったんだ。ほんと、最低だよ」

 陽の告白に、深也の胸がズキリと痛む。理由が嫉妬であれ、親友に不幸を願われてたという現実が苦しくて、深也は思わず胸を押さえた。

「…………ずっと、後悔してた。中学に上がって、お前、学校に来なくなっただろ?何度も、謝りに行こうとした。でも…………できなくて、そうしてるうちに、お前は学校から居なくなった。だから…………ずっと苦しいままだった」

 陽の、本当に辛そうな顔に、深也の胸も締め付けられる。しかし、まだ彼を許せるほど、大人にはなれなかった。

(僕はまだ、全部笑って許せない……けど、でもせめて、自分の気持ちは伝えないと。謝ってくれた陽に、向き合わないと。それが、今の僕が伝えられる、陽への誠意、だから……)

深也は陽に歩み寄り、深呼吸して口を開いた。

「陽も…………苦しかったんだね。僕も、ずっと…………苦しかったよ。今でも、昔のことを思い出すと……悲しくて、辛くて、堪らなくなる。どんなに謝られても……仮に、僕が許したとしても、それは一生変わらないと、思う。だから…………会うの、これで最後にして欲しい。でも……今日会えて、お互い正直に話せたことは、本当に、嬉しかった……。ごめん、ね」

 これが、陽の謝罪と、過去の自分の気持ちに出せる、今の深也の答えだった。

深也の気持ちが届いた陽は、辛そうに顔を歪め……しかし、涙を拭って笑顔を作り、深也を見た。

「……そっか。……そう、だよな。うん。分かった」

 陽は頷いて、深也に背を向ける。彼は立ち去る前に、少し深也を振り返って……涙で濡れた笑顔で、

「さっきの深也、昔、俺が憧れてたヒーローみたいだったよ。……かっこよかった!」

と、言った。

 立ち去っていく陽の後ろ姿を、黙って見つめていた深也の背中を、翔太と柊が、ポンと支える。

(…………昔の僕には、戻れない。今まで、沢山のものを捨ててきたし、これからも、色んなことを諦めていくんだと思う。でも、今の僕には、何があっても手離したくない大事な仲間がいる。だから……大丈夫。僕なら、きっと大丈夫だ)

「…………ありがと。2人とも」

 2人に向かって、深也は静かに感謝を伝えた。2人がそれに、穏やかに笑ってくれたのを感じて、深也は静かに微笑んだ。


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