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僕らと命のプレリュード 第33話

 中央支部に帰還した後、海奈と深也は花琳を医務室に連れて行き、そして談話室に向かって歩き出した。

 2人で廊下を歩いていると、深也が不意に心配そうに、海奈に声をかけた。

「み、海奈、さ……泣いた?」

「え?」

「いや、さっき見た時、少し目が腫れてたから…………って、ご、ごめん。そんな所まで見てる僕、気持ち悪すぎ…………」

 1人で肩を落とす深也を見て、海奈は慌てて首を横に振った。

「何言ってんだよ!大丈夫だって。深也は気持ち悪くないよ」

「っ……そ、そう、かな…………」

「そうだよ。深也は周りをよく見てる優しい奴だって!俺が保証するからさ」

 海奈がそう言ってニッと笑うと、深也は頬を染めながら視線を逸らしてしまった。

「ほんっとに、君には敵わないよ…………」

「ん?どういう意味だ?」

「え?い、いや…………大したことでは……」

「気になるだろ。教えてくれよ。何言われても否定しないから」

 海奈が頼むと、深也は少し息を吐いて……やがて、海奈を真っ直ぐ見つめてボソリと呟いた。

「海奈の明るさとか、人を思いやれるところが、僕じゃ敵わないなってこと…………」

「え?そんなことないよ。深也だって優しいし、表情豊かで明るいじゃん」

「それは君の前だからなんだよな…………」

 深也はそう言うとため息をついてしまう。海奈はそれを見ながら、照れくさそうに笑った。

嬉しかったのだ。深也が、自分の前だから色々な表情を見せてくれることが分かって。

「へへ……そっか」

「な、何笑ってるの?」

「何でもないよ!あ、ほら着いた!」

 海奈は談話室の扉を開けて、深也に明るく笑いかける。

「昨日、白雪さんがメイドさんから良い紅茶もらってたんだ。2人で飲もうぜ!」

「えぇ……勝手に飲んでいいやつなの?それ……」

「大丈夫だよ!飲んでいいよって言ってたから!……多分」

「多分って……」

 海奈の適当な言葉に戸惑っていた深也だったが、やがて諦めたように笑って頷いた。

「……任務頑張ったし、こっそり貰おうか」

「あはは!そうこなくっちゃ!」

 海奈は深也と笑いあい、美味しい紅茶を飲みながら、穏やかな幸せを噛み締めた。


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