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僕らと命のプレリュード 第34話

 ある朝、深也は自室の掃除をしていた。

本棚の整理に取り掛かっていると、ぎゅうぎゅう詰めになった教科書の間から、冊子を1冊発見した。
昔小学校で配られた、不要になったプリントを半分に折って、白い面だけが見えるようにホチキスでとめられている。表紙には、子どもらしい崩れた字で「スーパーヒーロー」と書いてある。手作りの漫画が書かれた冊子だ。

「これ……まだ捨ててなかったんだ」

 ひっくり返して背表紙を見ると、「やがわ よう」と平仮名で名前が記されている。

「陽……。こういうの、よく書いてたっけ」

 ……矢川陽。彼は深也の小、中学生の時の同級生だ。小学生の頃は、深也の一番の親友だった。しかし、小学5年生の初夏、陽の給食費が消えたその日、2人のの関係は崩れた。

「お前が俺の給食費盗ったんだろ!知ってるんだぞ、お前のアビリティが姿を消すことだってこと !」

 そう怒鳴られて、蹴り飛ばされ、

「頭が良くて運動ができるからって……偉そうなんだよお前!」

 鋭い言葉で、深也は胸を抉られた。

 その日から、深也に対するいじめが始まったのだ。深也の周りから、友人だった児童達が次々にいなくなり、大勢の児童が深也に聞こえるように、悪口を吐いた。

 深也自身、そこまで自覚していた訳ではなかったが、深也の成績はクラスで1番良く、それこそ優等生だと言われてた。

そんな彼が、給食費を盗んだという噂。それは何も知らない他の児童にとってみれば、面白い話題だったのかもしれない。

(僕は酷いヤツだから、責めるのは当然。ハブるのは当然。きっと、みんなそう思ってたんだろうな……でも)

深也の手にある冊子が、強い力で掴まれて、くしゃりと皺がついた。

(あの時、1番悲しかったのは、陽が僕を信じてくれなかったことだ。それから、あの言葉が、陽の本心だって、気づいてしまったことも……辛かった。友達だと思ってたのは僕だけだったんだって分かっちゃって……本当に、苦しかったな……)

視界が涙でぼやけ始めたことに気づき、深也はそっと目をこすった。

「…………嫌なこと、思い出しちゃったな」

 深也は苦笑いすると、冊子をゴミ箱に捨てた。

「もう、このことについて考えるのはやめよう。陽とも、中学校に通えなくなってからは会ってないし」

 深也はそう呟いて、部屋の片付けを再開した。机の上に出しっぱなしのノートを片付けて、床のホコリを掃除機で綺麗にする。起きた時のままの布団を整えて、棚の上にある、小さなサボテンに水をやって……。

「……よし、終わった」

 綺麗になった部屋の真ん中で、大きく伸びをした。

(毎回の掃除は大変だけど、特部に来てからずっと使ってる部屋だから、やっぱり大切に使いたいよね)

そんなことを考えながら、深也は壁にかかったカレンダーを見た。

2021年の、5月29日。その今日の日付には、青色のペンで星マークが書かれていた。

(あ、今日って……僕が特部に来た日か)

深也はカレンダーの29日の欄を撫でながら、困り眉で微笑む。

「……あれから、もう3年経つんだね」

そう呟き、深也は特部に入隊した頃のことをゆっくりと思い返し始めた。


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