安田佳音

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安田佳音

名前はかのんと読みます ・色んなお題に沿って15分で即興小説を書いています ・読んだ本の感想をメモしています ご連絡はX(旧Twitter)▶@otosata_kanon までお願いします

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    佳音が読んだ本のメモ的な読書感想文です

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あきれた夜-2022/1/6

たまに、石を集めるのが趣味だという人がいる。 それも宝石や鉱石の類ではなく、 本当にどこにでもあるようなただの石を集めている人。 私の同居人もまさにそれで、 散歩に行っては「良い石があった」と言って持ち帰ってくる。 石の色や形は石によって様々で、彼の言う「良い石」の基準が私には分からない。 でも、そう言うときの彼は何だか嬉しそうだ。 彼はその石たちを居間のTVボードに並べていて、 私は少々あきれつつもその石たちと一緒に暮らしている。 今日彼が持ち帰ってきた石は、綺麗な

    • 有名な血-2022/11/18

      俺達は血を吸う一族だ。 血を主食とし、人々を悲しみと怒りにいざなう者。 そう、蚊である。 俺達の間でまことしやかに囁かれる噂、 それは、血を吸うと必ず死んでしまう人間がいるという噂だ。 その人間はこの世に1人しかおらず。 その人間の血を吸った蚊は即座に死んでしまう。 しかし、めちゃくちゃ気持ち良いらしい。 いいな~~~!!どうせ俺なんてそのうちすぐ死ぬんだからさ! 気持ちい~~思いして死にてぇなあ!? しかし、その人間に出会うことができる確率はとてつもなく低い。 そ

      • 清い悪魔-2022/7/27

        熟れて熟れて、甘くほどけて腐った黄色い果実。 それを口に運んだ状態で彼は死んでいた。 齧りかけの口元から、唾液と果汁が混ざり合って濁った液体が流れている。 ああ、まただ。 彼も騙されたのだろう。 金も権力も全てを手に入れて、その先を求めて、求めた結果がこの間抜けな男だ。 死を媒介する生き物がいる。 街を荒らす嫌われ者を、欲に溺れた権力者を、狂った王様を、 そんな人々に向かって、奴らはこの果実を差し出すのだ。 一口食べれば永遠の命が、世界を手にするほどの金が、愛する人の声

        • 彼女と土-2022/7/26

          匂いがした。 湿った空気に混じる土の匂い。 雨が降る寸前の匂い。 シャベルが入った赤いバケツを持ち直す。 金属がぶつかってカランと音がした。 お母さんに黙って出てきてしまった。 もう僕がいないことに気付いただろうか。 バケツの底には小さな包みが入っている。 柔らかいティッシュで包まれたそれは、もう息をしていない。 ミィミィ小さく鳴いていた時はあんなに可愛かったのに、 呼吸が止まった途端、それは不気味な塊になってしまった。 だけど僕はこの子が好きだった。 お母さんは許

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        あきれた夜-2022/1/6

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          空前絶後の極刑-2022/7/23

          このお題で書くの私には無理だよ~。 「空前絶後の」って文字列を見たら、 自動的に脳内に「超絶怒涛のピン芸人!!」って聴こえてくるもん。 イェェェェェェェェェェェェ!!!!!ジァァァァァァァァスティス!!! この人のニコニコ大百科が面白かったので暇になったら皆見てください。 お笑い芸人の罪は重い。 特に創作をやっている者にとっては死活問題だ。 小説を書いているとき、脚本を書いているとき、漫画を描いているとき、 それは突然訪れる。 貧しい家で育ったヒロイン。 ヒロインは王

          空前絶後の極刑-2022/7/23

          凛としたガール-2022/7/20

          彼女のことが、私は嫌いだ。 顔が可愛くて、目が大きくて、脚の長いクラスメイトが 「夏休み中にクラスの皆で海に行こうよ」なんて言い出す。 「えー、山井さん達も来なよ。皆で行ったら楽しいよ」なんて言えるのは、 佐田さんスタイルが良くて、運動ができて、友達が多いから。 曖昧に口ごもる私の隣で、 彼女は「行きたくない」と佐田さんの目を見てはっきりと言った。 どうしてそんなことができるんだろう。 彼女は私と同じで、背が低くて、脚が太くて、友達が少ないのに、 なのにどうしてこんな

          凛としたガール-2022/7/20

          ねじれた表情-2022/7/19

          福笑い(ふくわらい)は、正月に遊ばれる日本の伝統的な遊びである。 また転じて「変な顔」のことを指す言葉としても使われる(例:顔面福笑い)。 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』:福笑い(2022/7/19時点) …顔面福笑い??? えっ、言わなくない…!?そういう罵倒ってこと!? ひどすぎるし、普通に伝わりにくすぎる。 罵倒したつもりが、「え?何、どういう意味?」って聞き返されるのが一番キツくない? 少なくともWikiで出す例じゃない。福笑いの

          ねじれた表情-2022/7/19

          素人の御曹司-2022/7/18

          御曹司独占禁止法の制定から20年。 いまや、生まれつきの子どもだけを御曹司と呼ぶ感覚は時代遅れだ。 「いやー部長すみません、僕実は御曹司初心者で…」 『なんだ山田、そうなのか。いつから始めたんだ?』 「1か月前からです。恥ずかしいですけど…。 部長はとても落ち着いていて、まさに生まれつきの御曹司って感じしますよね」 『おいおい、若い奴がそんなこと言ってどうするんだ。 人事部に聴かれたら御曹司差別だ、オンハラだって怒られるぞ。 それに、俺だって御曹司になってまだ2年だ。

          素人の御曹司-2022/7/18

          イギリス式のホテル-2022/7/15

          20XX年! 世界は紅茶の海に包まれた! 世は空前の紅茶ブーム! 身体に良いらしい、脳に良いらしい、痩せるらしい、 そんならしいらしいで紅茶の消費量は2000年頃の約20倍に。 目が覚めたらダージリン、 昼ののり弁にもセイロンティー、 アフタヌーンティーを挟んで、 駆けつけ一杯プリンスオブウェールズ、 寝る前にはカフェインレスでどうぞ。 そんなこんなで流行りに流行った紅茶は、 最早私達の生活の一部になった。 私を含む大抵の人は紅茶を水のように常飲していたし、 スーパーの

          イギリス式のホテル-2022/7/15

          ナウい勇者-2022/7/14

          今、一番アツい勇者とは、 "転生"する勇者である。 異世界転生モノはここ、リタラの町でも大人気だ。 子どもたちはパンを売ったお金で本を買う。 彼らにとってなりたい勇者の姿とは、"転生"した勇者のことなのだ。 リタラには騎士や魔法使いを集めるギルドがある。 訓練場では、毎日転生するための訓練が行われている。 全速力で走ってみたり、 頭を思いっきり壁にぶつけたり、 その2人で正面からぶつかってみたり。 確実に転生するための条件はまだ分かっていない。 騎士たちは皆、早く転

          ナウい勇者-2022/7/14

          商業的な人間-2022/7/13

          夢を見た。 夢の中の俺は10歳の小学生に戻っている。 夢の中の俺はイオンの通路にいる。 右手側にはケータイショップ、左手側にはカルディ。 後ろを振り返れば銀だこから始まるフードコート。 「…お母さん、どこ?」 周りを見渡しても、客はおろか店員の1人もいない。 軽快なBGMが流れ、照明は不自然なくらいに明るいのに 人の気配はどこにもなかった。 誰も居ないイオンを歩く。 1階には誰も居なかった。 2階にも誰も居なかった。 俺は心細い気持ちでエスカレーターを上っていく。

          商業的な人間-2022/7/13

          絵描きの墓

          神絵師の腕が喰いたい。 自分に意思と呼べるものがまだ残っていたことに驚き、 驚くという感覚があることにも驚いた。 憎悪は命をも越えるらしい。 唐突に起こったパンデミックから早3日。 人類のほとんどはゾンビと化し、低くうなりながら町内を徘徊する化け物となった。 私もその一員だ。 動くものと言えば他のゾンビか肉をついばむカラスくらいで、 ライフラインが通らなくなった町は荒れ果てている。 ゾンビ化しなかった人間がどこかに残っているのかもしれないが分からない。 生前の私はいわゆ

          絵描きの墓

          女同士の出会い-2022/7/11

          人類は進化を繰り返して繰り返して、 何世代も、何世代も喜びや悲しみを反復して、 そのうちに、とっても疲れてしまった。 もう分かったのだ。 この宇宙は無限大なんかじゃないし、 自分が持ちゆる感情は過去の誰かが既に感じたことのあるもので、 ただそれが延々と繰り返されるだけだと。 だから人類は進化することを辞め、だんだんと溶けていった。 始めは顔が、そして腕、胴、脚、 全てが溶けて、いつしか大きなナメクジのような形になった。 何も見えない、聴こえない。 ただ、僕がここにある

          女同士の出会い-2022/7/11

          美しい銀行-2022/2/13

          銀行はいつもピカピカだから緊張する。 涼しい冷房の風が頬を撫でる。 待合室には塵ひとつ落ちていないし、 あくせくと動き回る銀行員のネクタイはピンと伸ばされている。 俺はそろそろと自分の鞄の底を漁る。 良かった、ちゃんとある。 今日はまあまあ混んでいるようだ。 俺の番号札は101番、まだまだ呼ばれる気配はない。 隣の席では子どもを連れた若い女がスマホをいじっている。 しかしやけに寒い気がする。 用意してきた帽子をもう被ってしまおうか。 どうにも落ち着かず、キョロキョロと辺

          美しい銀行-2022/2/13

          闇のピアニスト-2022/2/8

          いつまでも眠れずにいる俺が悪いのか。 おそらく斜め向かいの緑の屋根の家。 半年前に越してきた夫婦と女の子の3人家族。 全員が見るからに幸せですって顔をしていて気に障る。 家はもちろん新築だ。 おそらくその女の子。 学校が終わる時間になるとぽろんぽろんとピアノの練習を始める。 家にピアノがあるということはそれなりに裕福なんだろう。 屋根と色を合わせた緑色のポストは、いつでもピカピカに磨かれている。 最近、その音が目を閉じていても聴こえるようになった。 へたくそな音程が繰り

          闇のピアニスト-2022/2/8

          あいつの転職-2022/1/25

          天使から悪魔への転職は簡単だが、その逆は難しい。 だから最上級悪魔から平の天使に転職してきたあいつはエリートだ。 わざわざ悪魔での地位を捨ててまで何故転職したのか、 俺にはさっぱり分からなかったが、 聴けば悪魔にも悩みはあるらしい。 「僕には悪魔は向いてなかったなあ。 人間が僕のこと見て恐れおののく度にしょんぼりしちゃうよね。」 なるほど。 確かにいつものほほんとして、 社食のからあげを分けてくれるこいつは悪魔向きではないのかもしれない。 「だけど最上級まで上り詰めた

          あいつの転職-2022/1/25