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絵描きの墓

神絵師の腕が喰いたい。

自分に意思と呼べるものがまだ残っていたことに驚き、
驚くという感覚があることにも驚いた。
憎悪は命をも越えるらしい。

唐突に起こったパンデミックから早3日。
人類のほとんどはゾンビと化し、低くうなりながら町内を徘徊する化け物となった。
私もその一員だ。
動くものと言えば他のゾンビか肉をついばむカラスくらいで、
ライフラインが通らなくなった町は荒れ果てている。
ゾンビ化しなかった人間がどこかに残っているのかもしれないが分からない。

生前の私はいわゆる底辺絵師だった。
いくら創作イラストを描いても見向きもされず、
プライドを捨てて好きでもない流行りのジャンルの美少女を描いてみても、満足する反応はもらえなかった。

神絵師の腕が喰いたい。
魂がそう叫ぶ。

どこかに生き残った神絵師がいるかもしれない。
こんな世界になっても神絵師は生き残るなんて許せない。
恵まれた人間が恵まれたままだなんて許せない。

神絵師は1人たりとも生かさない。
喰らいつくしてやるんだ。
私は半分溶けてしまった足をもう一歩前に進めた。