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お客さまと品物とわたしの間に記憶が作れたのなら
わたしは今、暮らしまわりの道具を扱う雑貨屋さんで販売員として働いています。
今日はそんな自分の仕事について書きたいと思います。
販売の仕事を離れようか悩んでいる今、わたしが忘れたくないこの仕事のお話です。
◎
一般的にモノを販売する仕事をしているのであれば、より多くの人にたくさん買ってもらうことが何より大事です。
わたしの職場でも勿論、予算を目指して接客をしています。
それは当たり前のこと。
自分がオススメした品物をお客さまが買ってくれたらやっぱり嬉しいです。
でももっとその先があります。
その先にあること、わたしがこの仕事をしていて尊いと思う瞬間、それはお客さまと品物とわたしとの間に記憶ができたと思えた時です。
◎
みなさんはどこかお店に行った時、どうしてそれを買うのでしょう?
そのモノが必要だから。
そのモノが欲しいから。
友達にプレゼントを贈りたいから。
ほとんどの買い物はこんな感じでしょうか?
もう一つ、わたしにはとっておきの理由があります。
この時間を、この人との記憶を、この日を、そのモノに詰め込んで持ち帰りたいから。
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例えばこのがま口は卒業旅行で行ったブリュッセルの蚤の市で買ったものです。
このがま口はわたしにとってはただのがま口ではありません。
同じ日に生まれた仲良しの大学の友人と旅行をしたこと、このがま口を買ったお店を開いていたおっちゃん3人組のこと、おっちゃんたちがつまんでいた種のようなものを手のひら一杯にくれて恐る恐る食べてみたこと...
このがま口にはこういう思い出が詰まっているのです。
ううん、この日のこの瞬間のことを忘れたくなくて、日本に持って帰ってきたくて、わたしはこのがま口を買ったのです。
可愛いから、という理由も勿論あります。
でもそれ以上に、これを買ったらこの日のことをたまに思い出せるんだろうなぁという風に感じたら、一気に「買うぞ!」という気持ちになりお会計まで突っ走るのです。
(皮を剥くとひまわりの種のようなものでした)
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さて、今日の出来事です。
お店にて、波佐見焼の急須を両手で持ってジッと見られている初対面のお客さまがいました。
わたしは大のうつわ好き。
「素敵ですよね。」
気がつくとお客さまへ話しかけていました。
「ここの釉薬の溜まり具合が濃くて光ってるんです。」
「このガラスコップはよく見ると気泡が入っていて、綺麗ですよね。」
「一つひとつよく見ると違いがあって、人間みたいですよね。友達を選ぶみたいに、お気に入りを見つけてみてくださいね。」
静かに聞いてくださり、時々相槌を打ちながらお話ししてくれました。
そのお客さまも最近うつわ集めをされているらしく、わたしは思わず熱が入ってしまいました。
「本当にうつわが好きなんですね。」
お会計を済ませた後、少しお話ししました。
「今日はお会いできてよかったです。実は目が腫れていて落ち込んでいたのですが、元気が出ました。ありがとうございます。」
「こちらこそです。わたしも今イボ治療で目の下がひどいんです。わたしも楽しかったです。長く使ってくださいね。」
お客さまが今日買っていかれた急須とガラスコップを開封するときに、きっと今日のお買いものの時間のことを、お客さまと道具とわたしの間にあった時間のことを思い出してくれる気がしました。
実際はどうかわかりません。
これは自分自身が満足しているだけの話かもしれません。
でも心で感じたのは確かです。
少なくともわたしはまた新しく同じ急須とガラスコップが入荷した時、いちばんに今日のお客さまのことを思い出します。
もう使っただろうか?何を飲んだかな?
◎
わたしにとって「モノ」は思い出を積み重ねていくものだと思うのです。
使うたびに同じ空間にいる人やその時間の記憶が積み重なっていくもの。
ある「モノ」が、お店の「モノ」からはじめて誰かの「モノ」になるとき、その「モノ」だけじゃなくお買いものの記憶を一緒にお渡しできたなら、、、
お店で販売という仕事をしていてこんなに嬉しいことはないとわたしは思います。
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