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魔法少女の系譜、その72~『タイム・トラベラー』~


 前回に続き、実写テレビドラマの『タイム・トラベラー』を取り上げます。
 八つの視点で、『タイム・トラベラー』を分析します。

[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?

の、八つの視点ですね。


[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?

 ヒロインの芳山和子は、最初は、普通の人間です。それが、未来人によって、後天的に、タイム・トラベルの能力を授けられます。
 これは、人造型の一種と言えます。とはいえ、『キューティーハニー』のように、最初から、そのような能力を持って生まれたわけではありません。

 和子のように、「後天的に、誰かから―あるいは、何かから―、超常的な力を得る」タイプを、授与型としましょう。生まれつき型とも、修業型とも、魔法道具型とも、人造型とも、転生型とも違う、新しいタイプの魔法少女です。
 二〇一七年現在ですと、代表的な魔法少女アニメの『プリキュア』シリーズが、このタイプですね。『タイム・トラベラー』は、『プリキュア』シリーズに、三十年以上、先駆けています。


[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?

 原作小説の『時をかける少女』では、タイム・トラベルの薬の能力は、時間が過ぎれば、消えてしまうことになっています。ですから、小説の和子は、普通の人間として成長したでしょう。

 テレビドラマの『タイム・トラベラー』では、ここが、ぼやかされています。和子の能力は、消えたと明言されません。たぶん、これは、続編を作ることを意識されたからでしょう。
 実際、同じ昭和四十七年(一九七二年)のうちに、続編の『続 タイム・トラベラー』が放映されます。続編のために、『タイム・トラベラー』の時点では、ヒロインの未来について、保留にされています。「いったん落ち着いたけれど、今後どうなるか、わからない」と、視聴者に期待を持たせているわけです。


[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?

 和子は、変身はしません。


[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?

 和子は、魔法の道具は持っていません。
 あえていえば、ケン・ソゴルの薬が、魔法の道具ですね。でも、薬は、使えばなくなってしまいます。

 薬自体よりも、薬の匂いのほうが、本作では、鍵になっています。薬は、ラベンダーの香りがします。これは、原作小説でも、テレビドラマでも、同じです。
 昭和四十七年(一九七二年)当時には、ラベンダーの香りを知っている日本人は、非常に少なかったはずです。当時としては、たいへんハイカラな香りでした。


[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?

 和子には、マスコットに当たるものはいません。


[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?

 和子は、呪文は使いません。


[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?

 和子の超能力は、秘密にされています。和子自身が、この能力をすぐには理解できず、混乱していますから、他人に説明することなど、思いもよりません。
 和子の超能力を知るのは、ケン・ソゴルだけです。このために、物語は、和子の視点、もしくは、ケン・ソゴルの視点で進みます。


[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?

 タイム・トラベルの能力を持つのは、和子とケン・ソゴルの二人だけです。ケン・ソゴルは男性ですから、「魔法少女」なのは、和子だけですね。つまり、一人だけです。


 こうして見ると、『タイム・トラベラー』には、呪文やマスコットといった、いかにも「魔法」らしいものは、登場しません。「魔法」ではなくて、「超能力」であることを示すためでしょう。科学が発達した時代にふさわしい、新たな「魔法」ですね。

 『タイム・トラベラー』で特筆すべきなのは、「授与型」という、新しい魔法少女の型を生んだことです。上記のとおり、この授与型の魔法少女は、平成の世になって、『プリキュア』シリーズなどで、大きく花開くことになります。
 しかし、『タイム・トラベラー』のあと、すぐには、授与型の魔法少女は、流行りませんでした。

 このドラマと同時期に放映されていた魔法少女アニメは、『魔法使いチャッピー』です。古典的な、生まれつき型の魔法少女ですね。『チャッピー』のような生まれつき型か、『ひみつのアッコちゃん』のような魔法道具型の魔法少女が、長らく主流でした。

 『タイム・トラベラー』についての考察は、今回で終わりとします。
 次回は、『続 タイム・トラベラー』を取り上げる予定です。



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