魔法少女の系譜、その15~『さるとびエッちゃん』と『好き!すき!!魔女先生』~
前回は、『さるとびエッちゃん』を取り上げました。『エッちゃん』の話は、前回までで終わりにする予定でした。少し予定を変更して、今回、落ち穂拾いをしておこうと思います。
魔法少女とは、直接関係のないことですが。
『さるとびエッちゃん』には、同時代に放映されたアニメのパロディが見られます。『アタックNo.1』や『巨人の星』のパロディです。どちらも、大ヒットしたスポ根アニメですね。
『さるとびエッちゃん』が放映された昭和四十六年(一九七一年)の段階で、すでに、アニメというジャンル内のパロディが存在しました。
最近のことじゃないんですね、アニメでジャンル内パロディが始まったのは。
パロディが始まるのは、一つのジャンルが成熟してゆく過程で、必ず通る道でしょう。
『さるとびエッちゃん』は、ギャグなので、パロディがやりやすかったという事情はあると思います。それにしても、のちの日本アニメの成熟ぶりを予感させる作品でした。
また、「ものすごい能力を持った、謎の転校生」という設定が現われた作品としても、初期のものですね。「転校生が、その能力を利用して、在校生たちをなぎ倒してゆく」のも、のちに、少年漫画などで多用された設定です。
この設定は、長く引き継がれて、現在の『キルラキル』―二〇一三年から二〇一四年にかけて放映されたテレビアニメ―にまで、使われています。まあ、『キルラキル』は、わざと昭和テイストに作られた作品ですが。
落ち穂拾いは、このくらいにして、次の作品へ行きましょう。
次に取り上げるのは、『好き!すき!!魔女先生』です。昭和四十六年(一九七一年)の秋から、昭和四十七年(一九七二年)の春まで放映されました。『さるとびエッちゃん』と、まったく同時期です。原作が石ノ森章太郎(当時は、石森章太郎)さんなのも、『エッちゃん』と同じです。
この作品は、アニメではなくて、実写(特撮)ドラマです。とはいえ、魔法少女アニメを語る上で、決して外せない作品です。
何と言っても、「魔(法少)女としての姿に変身するヒロイン」を、初めて登場させた作品として、知られます。
この作品、前半と後半とで、作風が変わるんですね。前半は学園ものだったのに、後半は変身ヒーロー(ヒロイン)ものになります。
この作品のヒロインは、「月【つき】ひかる」という名の、小学校の教師です。大人の女性です。
彼女は、人間を装っていますが、じつは、アルファー星という星から来た宇宙人です。宇宙人ゆえに、超能力を持っています。
その超能力を使って、学園に起こる、さまざまな事件を解決します。時々、解決するんじゃなくて、騒動を大きくしてしまったりもします(笑)
大人の女性で、超能力(魔法)を使える宇宙人、というと、『コメットさん』を思い出しますね。
実際、「『コメットさん』のような実写(特撮)ドラマを作りたい」ということから、始まった企画のようです。
一応、石ノ森さんの漫画『千の目先生』が原作ということになっています。
が、『千の目先生』から受け継いでいるのは、「不思議な能力を持った新任の女性教師」という部分くらいです。大部分が、テレビドラマのオリジナルです。
月先生は、その名字と、私生活を明かさない神秘性から、「かぐや姫先生」などと呼ばれています。作品中で「魔女先生」と呼ばれることは、ほとんど、ありませんでした。
私生活を明かさないのは、もちろん、宇宙人であることがばれないようにしているんですね。『魔法使いサリー』以来の「魔法の秘密性」が、受け継がれています。
『魔女先生』には、ヒロインに部屋を貸している大家の、詮索好きな奥さんが登場します。この人がヒロインをいろいろと詮索するので、「宇宙人であることが、ばれちゃうかも」というスリルを生んでいます。
ヒロインは、魔法の道具を持っています。これが、前半と後半とで、変わります。
前半は、「ムーンライトリング」という指輪です。この指輪が、ヒロインの超能力の源です。
ただし、この指輪はエネルギーの入れ物であって、エネルギーそのものは、別の所からチャージしなければなりません。満月の夜に、月に向かって指輪をかざすと、エネルギーがチャージされます。
これは、月からエネルギーをもらっている……のではなくて、月の軌道上にある宇宙船からエネルギーをもらっている、という理屈が付いています。宇宙人ですから、地球に来るのに、乗ってきた宇宙船があるわけですね。
魔法道具に、「エネルギーをチャージする」という発想は、『魔女先生』の前までは、ありませんでした。とても現代的な発想ですね。この作品の斬新さが、わかります(^^)
後半になると、ムーンライトリングに加えて、「変身コンパクト」が使われます。コンパクトを使って、月ひかるは、「アンドロ仮面」という仮面のヒロインに変身します。
コンパクトで変身といえば、これはもう、『ひみつのアッコちゃん』そのものですね。
きっと、この当時は、「ヒロインが変身」といえば、「コンパクト」以外の道具が思い浮かばない状況だったのでしょう。
魔法少女もので、「ヒロインが変身して、戦う」のは、『魔女先生』が初めてです。
それまでのヒロインは、特定の魔法少女としての姿に変身することは、ありませんでした。
そのうえ、戦ってもいませんでした。
この頃の魔法少女には、戦うべき特定の敵は、いなかったんですね。
初代『仮面ライダー』におけるショッカーのような敵は、いませんでした。
アニメ・特撮を合わせて見渡しても、昭和四十年代後半(一九七〇年代前半)に、「戦うヒロイン」は、極めて少ないです。
わずかに、スポ根もので、スポーツを通して、戦うヒロインがいるくらいです。
いわゆる戦隊シリーズで、戦う女性隊員(主にピンク)が登場するのさえ、昭和五十年(一九七五年)になってからです。この年に、記念すべき戦隊もの第一作『秘密戦隊ゴレンジャー』が放映されました。
これを考えれば、『魔女先生』の斬新さが、ますます際立ちます。
アンドロ仮面は、怪人クモンデスなどの「怪人」を相手に戦いました。「怪人」たちは、ショッカーのように、組織化はされていなかったようです。
なぜ、『魔女先生』は、このように突出した斬新性をもつことになったのでしょうか?
その理由は、明らかにされています。『仮面ライダー』などの変身ヒーローものに、直接、影響を受けたからです。
当時は、初代『仮面ライダー』の放映中で、変身ブームの真っただ中でした。社会現象になるくらい、人気があったんですよ。
ためしに、昭和四十六年(一九七一年)に放映されていた、変身ヒーローものを挙げてみましょうか。
『帰ってきたウルトラマン』、『スペクトルマン』(『宇宙猿人ゴリ』)、『シルバー仮面』、『ミラーマン』、これら以外に、初代『仮面ライダー』です。まさに、変身ヒーローの黄金時代ですね。
これだけブームになっていれば、「女の子向け」の番組にも、変身ヒーロー要素を入れてみようという気持ちは、わかります。
結果、『魔女先生』は、時代に先駆けた、「戦うヒロイン」を生み出しました。
残念ながら、時代に先駆け過ぎたと見えて、この後に続く「戦うヒロイン」は、しばらく、現われませんでした。
今回は、ここまでとします。次回も、『好き!すき!!魔女先生』を取り上げます。
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