魔法少女の系譜、その57~『エコエコアザラク』、補足~
前回のこのシリーズで、「次回は、新しい作品を取り上げる」と書きました。
けれども、予定を変えて、今回も、『エコエコアザラク』を取り上げます。書いておきたいことがありました。
『エコエコアザラク』は、少年漫画誌『週刊 少年チャンピオン』に連載されました。いろいろな点で、昭和五十年代(一九七〇年代後半)の少年漫画としては、画期的な作品でした。
その一。主人公が、女子中学生であることです。
以前にも書きましたとおり、当時の少年漫画は、「主人公が男性であること」が、絶対的なお約束でした。これを破っています。
その二。エロチックな描写があることです。
昭和五十年代(一九七〇年代後半)の少年漫画には、恋愛要素は、ほぼ、皆無です。ラブコメというジャンルも、誕生する前です。ヒロインが出てくる作品は多いですが、それらのヒロインは、たいてい、画面の賑やかし以上のものではありません。
まして、恋愛を通り越して、エロチックな要素となると……少年漫画では、タブーともいえる領域でした。
主人公が女性で、エロチック描写ありの少年漫画といえば、『エコエコアザラク』の先駆者として、『キューティーハニー』があります。
『キューティーハニー』の漫画版は、『エコエコアザラク』と同じ、『週刊 少年チャンピオン』に連載されました。昭和四十八年(一九七三年)十月から、昭和四十九年(一九七四年)四月にかけてです。『エコエコアザラク』のわずか一年前に、似た要素を持つ作品が、同じ雑誌に連載されていたわけです。
当時の『週刊 少年チャンピオン』には、このような異端的な作品を受け入れる余地があった、ということでしょう。
どちらの作品も、二〇〇〇年代に至るまで、実写で映像化されたりして、話題になっています。一九七〇年代では、斬新な要素を持った名作だったのですね。
両方の作品を読んだ方なら、おわかりでしょうが、『キューティーハニー』と、『エコエコアザラク』とは、同じ「女性主人公」・「エロチック要素」でも、まったく雰囲気が違います。
『キューティーハニー』のほうは、明るく、健康的なエロチックさです。「お色気」と呼ぶのが、ぴったりです。
『エコエコアザラク』のほうは、暗く、淫靡なエロチックさです。「お色気」などという、かわいい呼び方では、呼べません。もっとアングラな雰囲気です。
それは、『エコエコアザラク』が、ホラー漫画だったからでしょう。そもそも、絵柄からして、怖いです。
また、黒魔術という道具立ても、怪しさをかもし出していました。
ホラー作品であるのが、『エコエコアザラク』の画期的な点、その三です。
少年漫画にホラー作品というのは、タブーに近いんですね。女の子に比べて、男の子は、怖いものが嫌いらしいです。
その証拠に、少女漫画誌には、これまで、いくつものホラー専門誌がありました。でも、少年漫画誌には、ホラー専門誌が存在したことは、ありません。
『エコエコアザラク』が連載されていた昭和五十年代(一九七〇年代後半)は、特異な時代でした。少年漫画誌に、ホラー作品が、いくつも載っていました。
『エコエコアザラク』と同時期の『少年チャンピオン』には、『魔太郎がくる!!』や『恐怖新聞』などのホラー漫画が連載されていました。
これは、当時が、オカルトブームだったからでしょう。
『エコエコアザラク』の画期的な点、その四は、ヨーロッパの黒魔術を本格的に描いたことです。
これができたのも、当時がオカルトブームだったゆえだろうと思います。
魔女のローブ、魔法円、タロットカード、儀式魔術に使う剣、そして何よりも、多彩で複雑な呪文。どれも、怪奇さと恐怖を駆り立てる、素晴らしい道具立てでした。
これまた以前に書きましたが、『エコエコアザラク』より前の日本の漫画で、西洋魔術を本格的に描いたのは、『悪魔くん』くらいでしょう。
『悪魔くん』は、少年漫画らしく、少年が主人公でした。それを、『エコエコアザラク』は、少女でやったわけです。しかも、この少女は、正義の味方ではなくて、邪悪な存在です。
エコエコアザラクの画期的な点、その五は、ダークヒロインであることです。
ヒロインが、善役じゃないんですね。悪役です。二〇一六年の今に至るも、何十人も人を殺すような悪役が、堂々たる主人公、ヒロインの少年漫画は、ほとんどありませんよね。
『キューティーハニー』も、ずいぶんとタブー破りな作品でしたが、『エコエコアザラク』のタブー破りぶりも、相当なものです。よく、こんな作品を、少年漫画誌に連載できたなと思います。
二〇一六年現在では、逆に難しいでしょうか? 一九七〇年代は、漫画の地位が低かったことが、幸いしたと思います。「所詮、漫画だから」で、済まされたからです。
こんな作品が連載されて、人気作品になったことから見ても、当時のオカルトブームのすごさがわかるでしょう。
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