魔法少女の系譜、その120~『ぐるぐるメダマン』のヒロインとは?~
前回に続き、『ぐるぐるメダマン』を取り上げます。
『ぐるぐるメダマン』は、高坂マミと、アズキアライとの、ダブルヒロイン制ですね。この二人とも、二〇二〇年現在の基準で見れば、魔法少女です。
何度も言いますが、『メダマン』放映当時の昭和五十年代―一九七〇年代後半―には、まだ、魔法少女という言葉は、普及していませんでした。「魔女っ子」という言葉は、ありました。
とはいえ、『ぐるぐるメダマン』を、魔法少女もの(魔女っ子もの)として紹介した記事を、私は読んだことがありません。広大なネットのどこかには存在するかも知れませんが、探し出せないほど、少ないです。
その理由は、何よりも、『メダマン』がマイナーな作品だからでしょう。放映から四十年以上も経った現在では、よほど有名な作品でない限り、わざわざ言及する人は、少なくて当然です。
もう一つの理由としては、メダマンをはじめとする「おばけ」(=妖怪)が前面に出ていたために、「高坂マミや、アズキアライが、魔女っ子の一種である」面が、見逃されてしまったのだと思います。
『ぐるぐるメダマン』が「妖怪コメディ」であったことを、否定するのではありません。それが主な面ではありますが、「魔女っ子もの」としても、見ることができます。
私は、『ぐるぐるメダマン』の主役は、メダマンだと考えています。
けれども、人によっては、高坂マミを主役としています。それはそれで、間違いとは言えません。「視点キャラ」としての主役ですね。おばけではない、普通の人間のキャラを置いたほうが、視聴者が入れ込みやすいでしょう。
高坂マミを主役だと考えれば、『ぐるぐるメダマン』は、魔女っ子もの以外の何ものでもありませんよね。マミが、「おばけのネックレス」という魔法道具と、呪文を使って、おばけたちを操るのですから。
まるで、式神を操る陰陽師【おんみょうじ】のようです。「おんみょうのんけんそわか」という呪文は、おそらく、陰陽師をイメージして作られたのでしょう。
『ぐるぐるメダマン』の放映当時―昭和五十一年(一九七六年)~昭和五十二年(一九七七年)―は、陰陽師ブームが起こる、はるか前です。安倍晴明【あべのせいめい】の名前も、陰陽師という言葉も、ほとんど知られていません。オカルト雑誌の『ムー』も、創刊される前です。
直接、陰陽師が登場するわけではありませんが、陰陽道【おんみょうどう】的要素を取り入れた、初期の子供向けテレビ番組としても、『ぐるぐるメダマン』は、注目するべきでしょう。
高坂マミは、普通の人間の女の子です。「おばけのネックレス」という魔法道具がなければ、超常的な力は使えません。魔法道具型の魔法少女ですね。
それに対して、アズキアライは、生まれつきの魔法少女です。「おばけ」ですからね。
ダブルヒロインが、二人とも魔法少女なのは、この時代としては、珍しいです。
ダブルヒロインの「魔女っ子もの」といえば、すぐに思い出されるのが、『魔女っ子メグちゃん』ですね。この作品は、『メダマン』より先に放映されていました。昭和四十九年(一九七四年)から、昭和五十年(一九七五年)です。ですから、『メダマン』に影響を与えていても、不思議ではありません。
『魔女っ子メグちゃん』では、メグとノンとが、ダブルヒロインで、魔女っ子でした。二人とも、魔女の国から来た、魔女の国の女王候補です。二人が魔法を使える理由は、まったく同じです。魔女の国の人間だからですね。
この設定は、『メグちゃん』放映当時には、とても画期的なものでした。それまでのテレビアニメには、レギュラーで、複数の魔法少女が登場する作品なんて、存在しませんでした。
ダブルヒロイン制でも、片方だけが魔法少女で、片方が普通の少女、という作品は、『メダマン』の前に、いくつか存在します。
例えば、NHK少年ドラマシリーズの『まぼろしのペンフレンド』は、ダブルどころか、トリプルヒロイン制ですね(原作小説ではなく、ドラマ版の場合)。でも、魔法―ムキセイメイの超科学ですが―の力を使えるのは、三人のうちの一人だけです。『まぼろしのペンフレンド』も、『メダマン』より前、昭和四十九年(一九七四年)に放映されました。
同じNHK少年ドラマシリーズでは、『明日への追跡』も、ダブルヒロインの作品でしたね。この作品でも、二人のヒロインのうち、超能力を使えるのは、一人だけです。
『明日への追跡』は、『メダマン』と同時期、昭和五十一年(一九七六年)に放映されました。
皆さんの中には、ダブルヒロインの魔法少女作品として、漫画の『紅い牙』を思い浮かべる方がいるでしょうね。
ところが、『紅い牙』に、小松崎蘭と並んで、ソネット・バージが登場するのは、昭和五十六年(一九八一年)になってからです。『メダマン』放映当時の『紅い牙』は、まだ、単独の魔法少女ヒロイン作品でした。
『紅い牙』と同じく、昭和五十年(一九七五年)に連載が始まった少女漫画では、『悪魔【デイモス】の花嫁』も、ダブルヒロイン制と言えます。美奈子がメインヒロインで、ヴィーナスがサブヒロインですね。
『悪魔【デイモス】の花嫁』でも、超常的な力を使えるのは、ヴィーナスだけです。女神だからですね。美奈子のほうは、普通の人間で、魔法少女ではありません。
『魔女っ子メグちゃん』が放映された後、昭和五十一年(一九七六年)になっても、「複数の魔法少女」が登場する作品は、珍しかったことが、わかっていただけるでしょう。
『ぐるぐるメダマン』は、前年に放映が終了した『魔女っ子メグちゃん』の後を継ぐように、二人の「魔女っ子」を登場させた作品でした。
ただし、放映当時の『メダマン』は、前記のとおり、全然「魔女っ子もの」だとは、思われていませんでした(^^;
『メダマン』のダブルヒロイン魔女っ子は、『魔女っ子メグちゃん』のダブルヒロイン魔女っ子とは、顕著に違う部分があります。
『メグちゃん』のメグとノンとは、まったく同じ、生まれつき型の魔法少女ですね。同じ魔女の国の出身です。対して、『メダマン』の高坂マミとアズキアライとは、まるで違うタイプの魔法少女です。魔法道具型と、生まれつき型とですね。
複数のヒロインを揃えて、それらのヒロインが、由来の違う魔法少女というのは、面白いですよね。この点では、『メグちゃん』より、『メダマン』のほうが、進歩しています。
進歩しているからといって、視聴率が伸びるとは限らないところが、難しいです(^^;
『メグちゃん』は、いまだに人々の記憶に残る作品ですが、『メダマン』は、ほとんど忘れられた作品です。先進性を取り入れた『メダマン』がコケたためか、複数の魔法少女が登場する作品は、その後も、しばらく、主流にはなりませんでした。
『メダマン』が、直接的に『メグちゃん』を参考にして作られたかどうか、正確なところは、わかりません。資料がないからです。
ただ、ヒロインの一人の名前が、「高坂マミ」であることに、『メグちゃん』の影響が垣間見えます。『メグちゃん』の重要な登場人物の一人に、「神崎マミ」がいるからです。「マミ」という名前が、共通していますね。
『魔女っ子メグちゃん』の神崎マミは、人間の世界で、メグちゃんの家族(母親)になるキャラです。元は、彼女も魔女の国の人間なので、魔法が使えます。
魔法少女のキャラの名前として、「マミ」という名前には、人気があります。
有名なところでは、『エスパー魔美』がありますよね。藤子・F・不二雄さんの超能力少女漫画です。一九八〇年代に、アニメ化もされました。
『エスパー魔美』は、ちょうど、『ぐるぐるメダマン』放映中の昭和五十二年(一九七七年)に、漫画の連載が始まりました。
比較的近年では、『魔法少女まどか☆マギカ』の巴マミがいますね。近年と言っても、平成二十三年(二〇一一年)ですが。
数ある魔法少女の「マミ」の中で、最初に登場したのは、『魔女っ子メグちゃん』の神崎マミでしょう。その後に、『ぐるぐるメダマン』の高坂マミ→『エスパー魔美』の佐倉魔美【さくら まみ】→『まどマギ』の巴マミと続きます。
『メグちゃん』と『メダマン』と『エスパー魔美』(原作漫画)とは、年代が近いので、直接的に、影響を与え合った可能性があります。
放映当時、視聴率が伸びなかったにしても、『メダマン』の先進性は、評価されるべきだと思います。
タイプの違う魔法少女が揃ったので、二人の魔法少女は、表現のされ方が違います。アズキアライは、「おばけ」らしく、髪が緑色だったり、甲羅を背負っていたり、頭にお皿があったりします。
それ以上に印象的なのが、高坂マミが「戦わない魔法少女」なのに、アズキアライが「戦いもする魔法少女」であることでしょう。
話がややこしくなるので、これまで触れませんでしたが、じつは、『ぐるぐるメダマン』には、わずかながら、戦闘の要素もあります。人間に害をなす「おばけ」が現われると、メダマンたちが、その「おばけ」と戦うことがあります。
そのような戦闘には、アズキアライも参加します。しかも、けっこう強いです。海ぼうずやミーラ男より、よほど活躍します。
『ぐるぐるメダマン』という作品の中では、戦闘は、主な要素ではありません。戦闘しない回のほうが、多いです。主要な要素は、あくまで、コメディです。
それでも、必要に応じて「戦う魔法少女」が登場したのは、当時としては、斬新なことでした。
メダマンとアズキアライとは、人間に対して同情的です。とりわけ、メダマンは、人間であろうとおばけであろうと、困っている相手を見捨てられないという、とても優しいおばけとして描かれています。これは、おばけとしては異例なことであると、作品中で言及されています。
ミーラ男とマッサラとは、人間に対して割に冷めています。でも、メダマンやアズキアライに付き合って、戦闘に参加することが多いです。
海ぼうずは、怖がりなので、いやいや戦闘に参加します。そして、たいがい、役に立ちません(笑)
アマノジャクは、人間が嫌いなので、人間に味方して戦うことはありません。しかし、仲間のおばけの危機は見過ごせないたちで、メダマンたちに加勢して、戦闘に参加します。
高坂マミは、戦闘には参加しません。「おんみょうのんけんそわか」の呪文を使って、人間に害をなすおばけを懲らしめることはあります。それ以上の戦闘力はないので、戦闘はメダマンたちに任せて、後ろに引っ込んでいます。当時の「魔女っ子」としては、普通の姿でした。
定量的なデータを集めたわけではないので、これは、私の感覚ですが。
『メダマン』のおばけの中では、アズキアライに、とても人気があったと思います。美少女で、戦っても強くて、格好いいんですからね。
ここ二十年くらいの漫画やアニメやゲームの世界では、歴史上実在した人物や、一般的に男性だと思われているキャラを「女体化する」ことが、よくありますよね。『Fate』シリーズのアーサー王などが、そうですよね。
『メダマン』のアズキアライは、その点でも、先駆けています。水木しげるさんのおかげで、「禿げたおっさん」だと思われている「小豆洗い」を、美少女化しています(^^) 一九七〇年代に、ですよ。この先進性は、評価すべきですね。
なお、以前に書きましたように、伝承の中の「小豆洗い」には、姿がありません。このため、男性なのか女性なのか、問うのは、ナンセンスです。
そのはずなのですが、伝承の中の「小豆洗い」には、女性だというものもあります。「小豆とぎ婆さん」などと呼ばれ、老女の姿をしているという伝承や、若い嫁が姑にいじめられて川に身を投げ、小豆洗いになったという伝承などが、伝えられます。
必ずしも、人間の女性だという伝承ばかりではなく、狐【きつね】や川獺【かわうそ】や貉【むじな】が、小豆洗いの正体だとする伝承もあります。つまりは、一定していません。
高坂マミも、かわいい女の子でした。子役とはいえ、さすが女優さんですね。なかなか芸達者でもありました。
アズキアライや高坂マミがかわいくて、人気があっても、『ぐるぐるメダマン』自体が、視聴率が伸びませんでしたからね……。残念ながら、ダブルヒロイン魔女っ子の面白さや、美少女化されたおばけの魅力などは、多くの人には、伝わりませんでした。 当時は。
せめて、私が、ここに書いておこうと思います。
今回は、ここまでとします。
次回も、『ぐるぐるメダマン』を取り上げる予定です。