魔法少女の系譜、その78~『まぼろしのペンフレンド』~
今回は、新しい作品を取り上げます。NHK少年ドラマシリーズの中の一作です。実写のテレビドラマですね。
その題名は、『まぼろしのペンフレンド』です。昭和四十九年(一九七四年)の四月から五月にかけて、全九回で放映されました。
この作品は、厳密に言えば、魔法少女ものではありません。魔法少女が主人公ではないからです。けれども、「魔法少女」が、重要なヒロインとなっています。魔法少女史上、無視できない作品だと思いますので、取り上げました。
『まぼろしのペンフレンド』の主人公は、普通の男子中学生です。渡辺明彦という名で、超常能力は持ちません。
この作品の題名にある「ペンフレンド」は、二〇一七年現在では、死語といっていいくらいの言葉ですね。文通友達という意味です。手紙のやり取りをする友達です。インターネットや携帯電話が発達する前には、そういうものが流行ったことがありました。
ペンフレンドは、たいてい、雑誌に投書をすることから、始まります。一九七〇年代には、多くの雑誌に、「ペンフレンド募集」のコーナーがありました。そこに、自分の住所と名前とを載せて、「文通しませんか?」と誘うわけです。誰かが誘いに乗ってくれれば、その人が、ペンフレンドです。
『まぼろしのペンフレンド』でも、主人公の明彦が、雑誌に「ペンフレンド募集」の投稿をします。それに答えて、本郷令子という女性から、手紙が来ます。彼女は、明彦が望んだ、年上の女性でした。十八歳だといいます。
ひょんなことから、明彦のクラスメイトの女子中学生、伊原久美子のもとにも、本郷令子から、明彦のもとに来たものと、まったく同じ内容の手紙が来たことがわかります。久美子は、ペンフレンドを募集した覚えはありません。
気味悪く思った久美子は、令子とペンフレンドにはなりません。明彦は、好奇心もあって、令子とペンフレンドになります。
ここまで読めば、おわかりでしょう。この話は、ダブルヒロイン制です。令子と久美子とが、ダブルヒロインです。
これは、一九七〇年代の少年向け作品では、珍しいことでした。二〇一七年現在のように、ヒロインが、何人も、賑やかに登場する時代ではありませんでした。
正確に言えば、『まぼろしのペンフレンド』は、トリプルヒロイン制です。もう一人、重要な女性キャラクターが登場します。木田めぐみという、十八歳のブティック店員です。
めぐみは、明彦の憧れの人です。年上の社会人ということで、明彦にとっては、具体的な恋愛の相手にするには、気後れする女性です。
めぐみのほうは、明彦を、弟のようにかわいがっています。やはり、中学生では、子供過ぎて、恋愛の相手にはなりません。
じつは、ヒロインの一人、久美子は、明彦に恋しています。でも、明彦のほうは、それに気づいていません。普通の友達だと思っています。
つまり、明彦には、優しいお姉さんのめぐみがいて、密かに彼に恋するクラスメイトの久美子がいるわけです。これだけでも恵まれた立場なのに、さらに、そこに、令子が加わります。
このようなハーレム構造は、一九七〇年代の少年向け作品では、まだ、珍しかったと思います。『まぼろしのペンフレンド』は、ハーレム構造を持つ少年向け作品として、初期のものでしょう。
明彦がペンフレンド募集をしたのは、めぐみと付き合いたくても付き合えないため、代償行為として、年上の女性のペンフレンドを求めたのでした。望みどおりに、十八歳だという令子とペンフレンドになれたのですが……令子は、普通の人間ではありませんでした。
久美子とめぐみとは、普通の人間です。何の超常能力も持ちません。
令子の正体は、アンドロイドでした。宇宙人に作られたアンドロイドです。外見上は、めぐみにそっくりです。めぐみを写し取って作られたからです。ドラマでは、めぐみ役と同じ女優さんが、一人二役を演じています。
令子を作った宇宙人は、ムキセイメイ(無機生命)と名乗っています。宇宙のどこから来たのかは、わかりません。
ムキセイメイは、どこかの星で、有機生命に長く仕えていました。それに嫌気がさして、反乱を起こし、有機生命を倒しました。そして、地球の有機生命をも倒して、支配者になろうとしています。現在、地球の支配者であるヒトを倒すために、ヒトに似せたアンドロイドを作ります。
ムキセイメイたちは、自分たちの思いどおりに動くアンドロイドを作って、本物の人間と入れ替えに、人間社会へ送り込もうとしていました。それによって混乱を起こせば、人間を滅ぼせると考えました。
本郷令子は、その先兵となるアンドロイドでした。ペンフレンドとして明彦や久美子に近づき、彼らを、アンドロイドと入れ替えようとしていました。このために、令子は、手紙で、明彦のデータを、詳しく訊き出します。
明彦は、自分のことばかりを訊きたがる令子を、不審に思います。怪しい男たちが明彦の写真を撮ったり、明彦がさらわれそうになったりします。令子とペンフレンドになって以来、おかしなことが起こるので、明彦は、ますます不信感を持ちます。
とうとうある日、明彦はさらわれて、アンドロイドと入れ替えられます。さらわれた先で、明彦は、令子と初めて会います。令子は自分の正体を明かし、明彦は、人間のサンプルとしてさらわれたと説明します。
そのうちに、久美子もさらわれてきました。二人は、人間のサンプルとして、ムキセイメイたちに監禁されてしまいます。
令子は、ムキセイメイの手先ですが、明彦や久美子と接するうちに、人間らしい感情を持つようになります。令子は、明彦に愛情を抱くほどになりました。
いっぽう、明彦の家では、明彦の兄の和彦が、明彦を救い出そうとしていました。和彦は、明彦と仲が良く、まだ高校生ながら、頼れる兄です。
おかしなことが起こるたびに、明彦は、和彦に相談していました。さらわれそうになった明彦を、和彦が助けたこともありました。
このため、和彦は、弟が、とんでもなくややこしいことに巻き込まれていることを知っていました。明彦の身代わりのアンドロイドも、「本当の明彦ではない」と、和彦は見破っていました。
和彦の手配により、明彦と久美子が監禁されている場所(ムキセイメイの基地)に、警察が踏み込みます。ムキセイメイたちは、証拠隠滅のために基地を破壊し、宇宙へ逃げます。
令子は、ムキセイメイの命令に反して、爆発する基地から、明彦と久美子を逃がします。そののち、明彦と久美子が、令子に会うことは、二度とありませんでした。おそらく、令子は、基地の破壊に巻き込まれて、亡くなったのでしょう。
『まぼろしのペンフレンド』は、いくつもの要素が、ぎゅっと詰め込まれたドラマです。宇宙人の侵略、アンドロイドという超科学、甘酸っぱい初恋に、ハーレム構造、自分が他の人に取って代わられるという恐怖、拉致監禁されるサスペンス、そして、遠く離れて正体不明の人と通信することのリスクなどですね。
少年向けのドラマとしては、「全部載せ」と言っていいくらいです。足りないのは、バトル要素くらいでしょうか。
娯楽の少ない一九七〇年代に、少年たちが夢中になったのが、わかります(^^)
『まぼろしのペンフレンド』には、原作の小説があります。眉村卓さんの少年向けSF小説『まぼろしのペンフレンド』です。ドラマと同名です。
ドラマと小説とで、大筋は同じです。細部は、違う部分もあります。例えば、ドラマの明彦と久美子は中学二年生ですが、小説では、中学一年生です。本郷令子は十八歳ではなく、中学二年生という設定です。
木田めぐみは、小説には登場しません。したがって、令子がめぐみを写して作られたという設定もありません。令子は、オリジナルの(?)美少女です。アンドロイドなのは、もちろん、ドラマと同じです。
ドラマのほうが恋愛要素が強く、ハーレム構造もしっかりしていますね。
とはいえ、眉村さんの原作小説も、当時としては衝撃的で、面白かったでしょう。
宇宙人の侵略や、心を持つアンドロイドといった要素は、今でこそ、陳腐かも知れません。けれども、それらが「陳腐」になるほど使い倒されたのは、眉村さんのような先駆者がいて、面白さを教えてくれたからです(^^)
アンドロイドとしての特殊能力は、小説のほうが、よく出ています。普段の令子は、普通の人間にしか見えませんが、いざとなると、怪力を出すことができます。
また、ムキセイメイの基地は、亜空間によって、地球の場所とつながっています。亜空間をつないだり切ったりできる能力も、令子が持っています。
ドラマのほうの令子は、あまり、そういう能力を見せません。最初は、人間の感情を理解できない点が、アンドロイドっぽいです。
原作小説の令子のほうが、「魔法少女」っぽいですね。超常的な能力を、はっきり見せていますから。
トリプルヒロインの中で、最も強く印象に残るのは、令子でしょう。明彦を愛するがゆえに、自分を犠牲にして、彼を逃がしたところが、哀れを誘います。
物語の最後に、明彦と結ばれるのは、久美子なんですよね。原作小説でも、ドラマでも、二人が今後、仲良く付き合うであろうことが、示唆されます。
今回は、ここまでとします。
次回も、『まぼろしのペンフレンド』を取り上げます。
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