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ゾンビ伝説―ハイチのゾンビの謎に挑む


ゾンビ伝説―ハイチのゾンビの謎に挑む

 きわもの系の題名ですが、内容は真面目な本です。
 カリブ海の島国ハイチに伝わる、ゾンビの伝承について調べた結果が、公開されています。

 ゾンビといえば、ハリウッド映画で、有名になりましたね。「生ける死体」です。
 ハリウッド映画のゾンビは、動きがにぶく、考える力もあまりないようです。けれども、人を襲って食います。ゾンビに咬まれた人は、ゾンビになります。恐ろしい怪物ですね。

 ところが、本来の、ハイチのヴードゥー教に伝わるゾンビは、ハリウッドのゾンビとは、まったく違います。
 本書を読めば、その違いが、よくわかることでしょう(^^)

 ただし、本書の内容は、全面的に信じることはできません。
 本書の著者は、ゾンビを作るのに用いられる「ゾンビ・パウダー」について、大きな思い違いをしているからです。

 本書にある成分では、効力のある―つまり、人をいったん殺して、それからゾンビにできる―ゾンビ・パウダーを作ることは、できません。
 簡単に言えば、「人を殺す能力に欠ける」ゾンビ・パウダーが、紹介されています。

 本書では、ゾンビが実在するもののように書かれています。
 しかし、ゾンビの実在― 一度死んだ人が、墓場から蘇ってくること―が、はっきりと証明されたことは、ありません。

 「生きているのに、ゾンビのように生気がない人」なら、存在します。
 今のところ、そのような人が、ゾンビと誤解されている例が、確認されているだけです。

 ある程度、批判的に読める人でないと、本書の内容を理解するのは、難しいですね。

 本書は、生物学的には、信頼性に欠ける記述があります。
 とはいえ、文化人類学的には、非常に興味深い記述が多いです。文化人類学、宗教学、社会学などに興味がある方には、お勧めできる本です。
 もちろん、ゾンビに興味がある方にも(^^)

 以下に、本書の目次を書いておきますね。

序章

第一章 歴史的及び文化的背景
 植民地時代とハイチ農民階級の誕生
 農民社会

第二章 ハイチのゾンビ
 大衆文化におけるゾンビとハイチの民間伝承
 その他の伝承、その他の可能性――毒の噂
 最近の事例

第三章 死の問題
 毒の正体――先人たちの報告と最初の仮設

第四章 毒
 毒の調製
  プティット・リヴィエール・ド・ニップの場合
  サン・マルクの場合
  レオガーヌ渓谷の場合
  ゴナイーブの場合
 毒の材料
  植物
  動物
  海魚

第五章 解毒剤
 材料――要約と検討

第六章 すべては毒にして、毒にあらず――イーミック的考察
 ゾンビ化のイーミック的な解釈
 毒の果たす役割
 心理的素地――心因性死亡の一例としてのゾンビ

第七章 ゾンビ化の社会的側面
 ハイチの秘密結社――植民地時代に起源を持つ脱走奴隷
 ハイチの秘密結社――民族誌学的文献から

第八章 ビザンゴ秘密結社
 秘密結社とは何か
 ハイチ秘密結社の構造
 ビザンゴの儀式
  加入式
  夜間集会(セアンス・オルディネール)
  特別集会(セアンス・エクストラオルディネール)と年に一度の祝祭
 ビザンゴの政治的外観
 農民社会の調停者としてのビザンゴ

結び 民族生物学とハイチのゾンビ

用語解説
訳者あとがき



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