魔法少女の系譜、その17~『好き!すき!!魔女先生』、口承文芸~
今回も、前回(魔法少女の系譜、その16)の続きで、『好き!すき!!魔女先生』を取り上げます。
六つの視点、改め、七つの視点で、『魔女先生』を分析してみましょう。といっても、これまでに書いてきたことを、まとめるだけです。
[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
の、七つの視点によります。
[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
ヒロインの月ひかるは、「宇宙人だから、超能力(魔法)を使える」ことになっています。典型的な生まれつき型の魔(法少)女ですね。
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
この問題は、存在しません。月ひかるは、最初から大人の女性です。
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
まさに、月ひかるこそが、最初に「変身」した魔(法少)女です。それは、当時、流行していた変身ヒーローから、直接、影響を受けたものでした。
魔法少女ものに、変身ヒーローものの要素を加えた作品として、『魔女先生』は、特筆されるべきです。
しかし、魔法少女もので「変身」が一般的になるには、もう少し、時代が下らなければなりませんでした。
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
月ひかるは、魔法の道具を二つ持っています。
最初は、ムーンライトリングという指輪だけでした。これは、月軌道上の宇宙船から、パワーをチャージして使います。パワーチャージ型の魔法道具として、最初期の物ですね。
後半になると、変身コンパクトが加わります。これを使って、月ひかるは、アンドロ仮面に変身します。
魔法の道具が、複数、登場する点も、『魔女先生』の新しい点ですね。
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
バルという名のマスコット的存在が登場します。ウサギ型(の着ぐるみ)で、等身大です。
バルは、マスコットというより、お目付け役です。ヒロインより、立場が上です。このような「偉い」マスコットが登場する作品は、それまで、ありませんでした。
そもそも、『魔女先生』の放映当時は、魔法少女ものにおけるマスコットという存在が、まだ、定着していませんでした。
そんな時代にあって、「ヒロインを教え導く立場」のマスコットは、時代に先駆けていますね。同様のマスコットが登場するのは、もう少し、時代が下ってからとなります。
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
月ひかるは、呪文に相当するものを使います。ただし、それは、呪文というより、掛け声です。これまた、技名を叫ぶ変身ヒーローから、直接、影響を受けています。
のちには、魔法少女たちも、技名を叫ぶようになりますよね。その先駆けです。
物語の前半と後半とで、呪文ならぬ掛け声は、変わります。
前半は、ムーンライトリングをかざして、「ムーンライトパワー」と叫びます。これは、さまざまな魔法(超能力)を使う時の掛け声です。
後半は、変身コンパクトをかかげて、「アンドロ仮面、ローッ」と叫びます。これにより、月ひかるは、アンドロ仮面に変身します。変身する時専門の掛け声といえます。
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
月ひかるが(超能力を使える)宇宙人であることは、秘密です。
したがって、視点は、内在的です。
こうして見ると、『魔女先生』が、非常に斬新な作品だったことが、わかりますね。
時代に先駆け過ぎたために、追随する作品は、すぐには現われませんでした。けれども、のちのちの魔法少女ものに与えた影響は、多大だと思います。現代の魔法少女ものの「型」を決めた作品ではないでしょうか。
さて、ここで、『魔女先生』を、伝統的な口承文芸と、比べてみます。
ヒロインは宇宙人ですから、異類ですね。異世界(宇宙)からやってきた異類が、その超能力を使って、人々に福をもたらします。異類来訪譚の形です。
ヒロインが、最後に宇宙へ去れば、口承文芸の異類来訪譚と、まったく同じ形になりますが……『魔女先生』では、ヒロインは、宇宙へ帰りません。大きな事件を解決して、普通の教師として、子供たちとの日常へ戻ってゆきます。
この点、『魔法のマコちゃん』や、『さるとびエッちゃん』と、同じですね。「これからも、こんな日常が続くよ」という形で、終わっています。
魔法少女ものにおいては、「異類は、異世界へ帰らない」ことが、お約束になってきたようです。この頃―昭和四十年代後半(一九七〇年代前半)―になると、伝統的な口承文芸から、ほぼ完全に脱却したということでしょう。
『魔女先生』の考察は、今回で終わりにします。
次回は、少し時間を巻き戻して、『魔女先生』より前の作品を取り上げます。これも、アニメではなく、実写ドラマです。
『コメットさん』(実写版)から、『魔女先生』の間には、アニメの魔法少女ばかりで、実写の魔法少女は、いなかったのでしょうか?
そんなことは、ありません。いたんですね。二〇一四年現在では、ほとんど忘れられている作品がありました。
この作品を、『魔女先生』より先に取り上げなかったのは、そのほうが、わかりやすいと考えたからです。『魔女先生』の斬新さを知ってからのほうが、進化してゆく魔法少女の形を、理解してもらいやすいと考えました。
次回も、お楽しみに。
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