魔法少女の系譜、その76~『暁はただ銀色』~
今回は、前回の続きで、『暁はただ銀色』を取り上げます。NHK少年ドラマシリーズの中の一作ですね。実写ドラマです。原作の小説もあります。
『暁はただ銀色』と、他の魔法少女作品とを、比べてみます。
『暁はただ銀色』のヒロイン、リカは、宇宙人です。宇宙人ゆえに、超常的な能力を持ちます。
ヒロインが宇宙人の魔法少女ものといえば、『コメットさん』がありますね。日本の魔法少女草創期の傑作です。『暁はただ銀色』より、六年ほど前に、テレビ放映されました。『コメットさん』でも、ヒロインが、宇宙人ゆえに、超常的な能力を持ちます。
けれども、『コメットさん』と『暁はただ銀色』とでは、作品の雰囲気が、まるで違います。
『コメットさん』は、ひたすらに明るい話でした。基本的に、コメディです。
『暁はただ銀色』は、終始、神秘的な雰囲気が漂います。ヒロインは秘密を抱えていて、最後のほうまで、それを明かそうとしません。決してコメディではなく、ミステリーか、サスペンスですね。
そもそも、ヒロインが地球に来た理由からして、『コメットさん』と『暁はただ銀色』とでは、違いすぎるほど、違います。
『コメットさん』は、ただ、遊びに来たという設定でした。これなら、ヒロインは、気楽ですよね。失敗することがあっても、致命的ではなく、笑って済ませられます。
『暁はただ銀色』では、「故郷の星が滅んでしまうかも知れない。それを防がなくては」という使命を背負って、ヒロインがやってきます。星の運命がまるごとかかるのですから、重い使命ですよね。普通に考えれば、コメディにはなりません。サスペンス色が濃くなるのが、当然です。
『暁はただ銀色』では、ヒロインの正体と目的が、なかなか、明らかになりません。最初からすべてがわかってしまっては、つまらないからですね。したがって、ミステリー色も、濃くなります。
「ヒロインが宇宙人」という点だけ見れば、『コメットさん』と、『暁はただ銀色』とは、似ています。似ているのは、そこだけとも言えます。
前回の日記に書いたとおり、『暁はただ銀色』は、典型的な「異類訪問譚」です。ただ、伝統的な異類訪問譚と決定的に違うのは、「来た所に帰る」のではないことです。別の星からやってきたヒロインが、四次元空間へ消えてゆきます。
この話の構造は、アンデルセンの『人魚姫』と同じです。
『人魚姫』のヒロインは、もともとは、人魚ですね。それが、人間の王子に恋をして、海の中の世界を捨て、人間界へやってきます。しかし、ヒロインの思いは王子に伝わらず、ヒロインは、最後に、海の泡になって消えてしまいます。
『暁はただ銀色』と、よく似ていますよね?
『人魚姫』は、口承文芸ではありません。アンデルセンの創作した物語です。とはいえ、二〇一七年現在では、口承文芸と並び称されるくらいの古典です。
伝統的な口承文芸の中にも、「来た所ではなく、別の所に消える」作品はあるでしょう。が、珍しいです。
おそらく、口承文芸から、創作物語が生まれて間もない頃に、確立された話形だと思います。
『暁はただ銀色』は、口承文芸から創作物語へ一歩踏み出した、その段階にある物語なのでしょう。二〇一七年現在から見れば、古典的な物語です。
本作がテレビ放映されたのは、昭和四十八年(一九七三年)です。「魔法少女もの」が誕生して間もなく、その型が作られてゆく、まさに途中を示しています。
『暁はただ銀色』には、一つ、特筆すべき特徴があります。
それは、ヒロインが、「戦闘少女」であることです。本作には、明確な敵役が存在します。NN88マイナス星人です。ヒロインは、彼らと戦います。直接の戦闘シーンは、あまり登場しませんが。
昭和四十年代(一九七〇年代前半)には、極めて珍しかった、戦うヒロインです。
本作より前に、「戦うヒロイン」の魔法少女ものといえば、『好き!すき!!魔女先生』くらいですね。『~魔女先生』は、『暁はただ銀色』の前々年、昭和四十六年(一九七一年)から、昭和四十七年(一九七二年)にかけて、テレビ放映されました。
『~魔女先生』とは、ヒロインが宇宙人である点も、共通しています。『コメットさん』より、『~魔女先生』のほうが、『暁はただ銀色』と共通点が多いです。
ひょっとしたら、『暁はただ銀色』は、『~魔女先生』から、直接、影響を受けているのかも知れません。この点については、資料が手に入らないため、わかりません。時系列的に近いので、直接、影響があっても、まったく不自然ではありませんね。
興味深いことに、『暁はただ銀色』の放映が終わったすぐ後、同じ昭和四十八年(一九七三年)に、『キューティーハニー』の放映が始まっています。二〇一七年現在まで名を残す、著名な「戦闘少女」の作品ですね。
『キューティーハニー』は、斬新過ぎるために、直接の後継作品といえるものが、しばらく現われませんでした。『キューティーハニー』自体が現われたのも、突然のように見えました。
でも、このような斬新な作品も、何の前触れもなく、現われたのではありませんでした。『~魔女先生』、『暁はただ銀色』という流れがあって、その流れに沿って、現われました。
『暁はただ銀色』は、二〇一七年現在では、ほとんど、忘れられた作品です。
けれども、実際には、『~魔女先生』と『キューティーハニー』との間をつないだ、重要な作品でした。
もう一つ、『暁はただ銀色』には、特筆すべき特徴があります。
「謎の転校生」モチーフの作品であることです。魔法少女ものに限らず、漫画作品などの中で、「謎の転校生」というモチーフは、よく現われますね。その初期の作品です。
「謎の転校生」は、超常的な能力を備えているのが、普通です。古典的な作品では、宮沢賢治の『風の又三郎』があります。
魔法少女ものでは、『暁はただ銀色』の直前、昭和四十六年(一九七一年)から昭和四十七年(一九七二年)に放映された、『さるとびエッちゃん』があります。
『さるとびエッちゃん』は、忍者の里からやってきた、忍術少女ですね。彼女は、どうやら、転校を繰り返しているようです。「来た所ではない所」へ、転校して、消えてゆきます。『暁はただ銀色』のリカと、共通しますね。
昭和四十年代後半(一九七〇年代前半)に、『さるとびエッちゃん』、『暁はただ銀色』と、モチーフが共通する作品が、立て続けに現われました。この頃に、少年少女向けの娯楽作品の中で、「謎の転校生」というモチーフが、確立したのではないでしょうか。
今回は、ここまでとします。
次回も、『暁はただ銀色』を取り上げる予定です。