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〈詩〉ありとあらゆる過去に包囲され、のべつまくなし撃たれてる。

 空を、見やる––––

 ––––網膜という面が、
 8分17秒前の太陽に灼かれながら、
 1・3秒前の月をうっすら受け取る。

 ––––鼓膜という面は、
 340メートル先にある通りで鳴った
 1秒前のクラクションだに揺さぶられ、
 誤差のない内なる声には耳を貸さない。

 やがて、日が落ち、濃くなる青––––

「夜空」或いは「宇宙」という面が、
 8分17秒と少し前の太陽を跳ね返した
 1・3秒前の月をくっきり浮かべている。

「街並」或いは「空気」という面が、
 1キロメートルと少し先で賑うバーの
 扉が開き漏れた3秒前の波に震えつつ、
 誤差のない内なる声には耳を貸さない。

 すぐ 横で 友が鳴く。
 だって それは 猫だ。
 桁魂––––数の星が降る。

 ありとあらゆる昔日が、
 永い旅路の果て、網膜で休んでる。
 いや、俺が、旅を終わらせたのか。

 在り難いのか?
 烏滸がましいのか?

 鼓膜では、すぐ横のコンマだらけ数秒前の
「にゃーにゃーにゃー」と、バーで生まれた
 3秒前の過去の響きらが、共演を果たして、
 内なる声が、間髪入れずに「音楽」と叫ぶ。

 1400年前の白鳥の一角と
 25年前の琴の一角が
 16・7年前の鷲の一角と
「大三角」とか、呼ばれてる。

 夏が来る。

 私の「今」は、
 多くの過去の集合で
 出来ている。

 この「空」は、
 夥しい過去の瞬きで
 埋め尽くされている。

 また、星が死んだらしい。

 太陽の何百倍にも膨れ上がり、
 真っ赤に熾って死んだらしい。
 何万年も前に起こった悲報を、
 今、見上げる鷲が放たれた頃、
 まだ、幼かった僕が聞き、
 今、その光が網膜で休み、
 猫が、真横で、鳴くから、泣いた。

 彼の旅は終わったのだ。
 こんな小さな目の中で。

 寝そべり、足を上げ、銀河を踏んだ。
 普段から累々と死を踏み躙る靴底で、
 今際のスーパーノヴァが嗤っている。

「短く、素早く、動く物らよ。
 虫ケラも、人ゴミも、星クズも、
 すべて、塵や芥の類いやから、
 お前の馳せる深遠––––つまり、
 歴史と宇宙と云うたろか––––まぁあ、
 そんな空間の深みや時間の遠さなど、
 すべて、塵と芥の狭間のカスやから、
 エモいう言葉でも使っときっピッ!」

 こいつ、現代語も知らんのか。
 全知全能が、聞いて呆れるど。

 何へ祈ればいいのか、知らぬまま、
 浅い教えの云う通り、
 鈴を鳴らして呼び覚まし、
 腰を折り、首を垂れ、
 柏手、再びまた拍手。

 人を神にするための鏡に向かって、
 掲諦掲諦、畏み、斯く在れかしと
 嘯いた。

 神よ、薄っぺらな紙よ。
 記憶、或いは、記録よ。

 今現在、
 ありとあらゆる過去に包囲され、
 のべつまくなし撃たれてる。


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