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田園

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随想的掌編小説///田圃のある心象風景
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記事一覧

息継ぎをすると最後に苗子は 〈田園 #1〉

なにも言わなくてもいいということに、苗子はずっと甘えていた。そうして答えぬままに棚あげさ…

荒川 以東
4年前

時間の川を遡上しているの 〈田園 #2〉

物思いの最中、ふとした瞬間に食器の鳴る音に意識が引き戻される、というようなことがある。お…

荒川 以東
4年前

機関車の火室に石炭をくべる 〈田園 #3〉

とうの稲穂はといえば、浮薄で盤石な大人の会話を盲導犬のように大人しく、いかにも殊勝なおも…

荒川 以東
4年前
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流れる端から疚しさに濁るン 〈田園 #4〉

「個性は大事にされても、個別性は見逃がされやすい。前者を容認することはできても、後者には…

荒川 以東
4年前
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軌跡は限りなく円環に 〈田園 #5〉

稲穂もまた、この円環をつたって斜めにバラッドを紡ぎつづけている。同じところをぐるぐると廻…

荒川 以東
4年前
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存在感の輪郭は 〈田園 #6〉

現状の責任を自身に認めないまま矢鱈提示するだけの自省や前向きさは、単なる羽飾りでしかない…

荒川 以東
4年前

顔色はいつも550nm 〈田園 #7〉

つまり稲穂と苗子とは、長い時間をかけて静かに淡々と喧嘩をしていたのかもしれない。歩みよるための喧嘩を。そこから思えば、ふたりはずいぶんと遠く離れたところへと漂着していた。そして今はただ無言で互いに伴走している。 * じじつ【事実】一( 名 )①現実に起こり、または存在する事柄。本当のこと。②〘哲〙時間空間内に現に存在するものとして我々に経験される出来事や存在。現実的・実在的なものとして想像・幻覚・可能性などに対し、また経験的に与えられている現象として理想・当為・価値に対す

隅から隅まで心得て 〈田園 #8〉

「なぜ?」「なにがあったの?」という問いかけを前にして、前頭葉を駆け巡る回答の複雑さに戸…

荒川 以東
4年前

仕方がないから苺をのせる 〈田園 #9〉

自己完結しながら並走する。言葉の雑踏のなかで無言を交わす。目が合う、息が合う、歩調が合う…

荒川 以東
4年前

如何にもなフォルムと質感 〈田園 #10〉

田圃の言を請けると、占い師は茹で玉子の殻を恭しく右手に摘まみ、卓の30センチ上空からホロス…

荒川 以東
4年前

即ち宇宙でございます 〈田園 #11〉

占い師の背後で三度、ライトが明滅すると斯様な有り難い御神託が降りるシステムだ。ちなみにラ…

荒川 以東
4年前

声に出して108回 〈田園 #12〉

memo 今週、太陽が星座を移動し、火星と土星がつながります。そんな中、人生は社会的・道徳的…

荒川 以東
4年前

それは確かに語られた 〈田園 #last part〉

田圃のソレは滅私のようでありながら、非意識のうちに感情的な対価を求めている。おそらくそう…

荒川 以東
4年前