29歳無職は原付に跨り北海道へ向かった
2024年9月2日。朝8時に鎌倉を出発して向かうは茨城の大洗港。50ccのリトルカブに乗って、北海道にゆく。1か月かけて道内を周り尽くす一人旅だ。
平日の東京を駆け抜ける無職。
出発してすぐに道端でおじいちゃんが倒れていたが、駆け寄ろうとした瞬間人がたくさん集まってきたので、無事を祈って旅路を急ぐ。
今日の目的地は茨城の大洗港。出発地の鎌倉からは下道で181kmある。原付の法定速度は時速30km。信号無視しても6時間以上かかるのは確実だ。横浜、川崎を通り過ぎて東京に突入。今日は平日、私は無職。信号待ちのサラリーマンを横目に、劣等感と優越感が入り混じった感情で交差点を駆け抜ける。
東京の都会を抜けてから大洗港までの道が、しっかしまあ~~つまらない。信号は多いし車通りも多いし景色の変化がないし。「このベッドタウンが」とか街にまで悪態をつきながら、眠気と戦いつつひたすら進む。
怖い顔の女、フェリーに乗る。
夕方、大洗港に到着。バイク置き場にはたくさんのバイクと人が集まっている。みんな北海道に行くんだ。知人に「北海道は熊と鹿とオジサンに気をつけろ」と釘を刺された私は、誰にも絡まれないようにできるだけ怖い顔をして駐車した。
そうこうしているうちに乗船の時間がきた。大洗発苫小牧行のフェリー「さんふらわあ」。係員の指示に従って、カブで船内に入場する。乗り物に乗ったまま乗り物に乗るのは新鮮だ。
明るくて綺麗な船内を歩く。大きな窓から夕陽が見える。さんふらわあの中にはレストランもおみやげ屋も大浴場もあって、豪華客船にでも乗っている気分だ。まあ一番安い雑魚寝席(ツーリスト)なんですけど。
雑魚寝席について荷物を下ろす。部屋には私のほかに女性2人組のみ。さて、ひとっぷろ浴びにいきますか。
余談ですが、私は入浴施設に行くと女体を観察してしまう癖がある。もちろん本人にはバレないように、あくまでもさりげなくチラ見。女の体に興味があるのは男だけではない。
湯舟に浸かっている途中に出航したようで、暗闇のなか遠ざかる大洗港を半分のぼせながら眺めていた。
賑わう船内で窓に映るひとりぼっち。
お腹が空いたのでレストランへ。さんふらわあのレストランはビュッフェスタイルだ。大人になってから行く回数は減ったけど、やっぱり食べ放題は心が躍る。「これウマ!」を気が済むまで食べられるって最高。
海が見えるテーブル席が空いていたので座る。 向かいの席には40代くらいの女性がふたり。ケタケタと楽しそうに話しながら、食後のビールを味わっている。 ふと横を見ると、ひとりぼっちで座る私の姿が窓に映っていた。 その時思った。
「ひとりで来てよかった~〜〜!!!ヾ(*´∀`*)ノ」
心の底からそう思った。ひとりの私は、どの席に座っても、何を食べても、どれだけ長くここにいてもいい。誰にも気を遣わず、純粋に旅を堪能できる。ひとりだからこそ、音や匂いや景色や味がダイレクトに入ってくる。さんふらわあのご飯、うンめぇ。なんて贅沢な時間なんだろう。
幸せを噛み締めながらレストランを後にする。夜風にあたりたくて甲板へ出る。真っ黒な海を眺める。夜の海は吸い込まれてしまいそうだ。
7時間近く運転していたからクタクタだ。まだ22時にもなっていなかったけど床につく。相部屋の人が観ているテレビの音を聞きながら、泥のように眠った。
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