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デザイン組織のデザイン|前編|知識創造の組織

デザイン組織が日々誕生している。
さまざまな業界の企業や公共機関でデザイン組織がつくられ、その活動は進化を続けている。

一方で、そういった組織を構築するための「組織デザインは、一般には、設計の考え方やプロセスなど目に触れる機会が少ない
デザイン組織は、社会に注目されて日が浅い。営業組織やマーケティング組織などと比較しても、「デザイン組織のデザイン」はノウハウの蓄積が乏しい。

私が所属するデザイン会社のコンセントは、200名超のデザイン人材が活躍する企業組織だ。歴史も古く、自社デザイン組織の運営を50年以上続けている。

本記事では、多くのデザイン組織の成果をわずかにでも向上させられればとの思いから、コンセントのような企業組織を例に「デザイン組織のデザインの要点を記していく。

とくに、デザイン価値を持続的に構築するための協働・分業のあり方や、デザイン人材が喫緊の業務を超えて「社会に目を向けられるような組織の仕組みづくりについて言及する。この記事は前編・後編の2回に分けてお届けする。本記事は前編である。


組織デザインの基本的な考え方

組織デザインには、あらゆる集団に適用可能な絶対的な正解は存在しない

企業組織の業態や現状課題・戦略構想、企業で活動するメンバーの属人性を含めた複雑な状況の中から常にベストエフォートを考え続けるのが組織デザインだ。事業ごとに区分すべきか、バリューチェーンごとの組成が良いのか、職種ごとに集団を切り分けるべきか、はたまた、それらを組み合わせたマトリクス型組織を構想すべきなのか。同じ企業でも、正解は状況によって変わっていく

企業内での大まかな組織構造ができたとしても、成果設定・意思決定・情報流通・技術蓄積・組織文化など調整すべきポイントは多い。組織設計者は、問題分析や構想といった「頭を使う部分と、関係者との交渉や調整をはかる「体を使う部分を両立し、最適解をひねり出す必要がある。

イメージ画像:組織の組み立てを象徴するような画像。男女が協力して図形を組み立てている。

『「デザイン経営」宣言』以後の潮流

ここで、組織一般ではなく「デザイン組織のデザイン」にフォーカスしよう。

『「デザイン経営」宣言』(経済産業省・特許庁 2018年)では、デザイン経営の効果として、「ブランド構築に資するデザイン」と「イノベーションに資するデザイン」の2つを上げている。

企業組織においても、とくに事業会社(ここではデザインを専業としない企業の意味)では、その区分を反映するように、ブランディングを実行する組織とデジタルプロダクトをデザインする組織とに分けられることが一般化されつつあるようだ。

画像:ブランド構築に資するデサインとイノベーションに資するデザインが並んでいる図。
※『「デザイン経営」宣言』(経済産業省・特許庁 2018年)の内容を元に筆者が追記。

前者は、コミュニケーションデザイナー、ビジュアルデザイナー、コンテンツストラテジストなどが活動する「コミュニケーションデザイン部門」「ブランドデザイン部門」のように称される組織だ。
後者は、UX/UIデザイナーやサービスデザイナー、リサーチャーなどが活動する「プロダクトデザイン部門」「UXデザイン部門」と称される組織である。

また、そういった複数のデザイン組織を統括し、デザインの業務管理や人材育成・評価・採用、広報活動などを一元管理する「デザイン統括組織」と称される組織を配置する企業もある。

このような組織区分は、企業活動と求められる成果、デザイナーの技術や職種、デザインの実行と管理業務など、諸々の観点を総合して現代性のある組織構造だと考えられる。

3つの部門で構成されるコンセントの組織

私が所属するコンセントは、サービスデザインを事業の軸に据えたデザイン専業の会社である。デザイン経営コンサルティング・ブランディング・事業開発・組織開発・デジタルマーケティング・デジタルプロダクト開発・UXコンサルティング・メディアやコンテンツの開発、クリエイティブ開発など、事業の幅は広い。


そのコンセントの組織区分(2023年1月現在)は下記の通りだ。

画像:コンセントの組織区分を示した図。DL部門(デザインリーダーシップ)とVD部門(ビジョンデザイン部門)、SD(サービスデザイン部門)の3つがある。VD部門は、CSグループ(カスタマーサクセスグループ)、MKGグループ(マーケティンググループ)、HC(ヒューマンカルチャーグループ)、CD(カルチャーデザイングループ)の4グループで構成されている。SD部門は、RD(リレーションシップデザイングループ)、STRD(ストラテジックデザイングループ)、UXDグループ(ユーザーエクスペリエンスデザイングループ)、M&Eグループ(マーケティング&エンジニアリンググループ)、CTDグループ(コンテンツデザイングループ)、CRTグループ(クリエイティブグループ)の6グループで構成されている。
コンセントの組織区分(2023年1月現在)。図内の「XXチーム」にはチームリーダーの名前が入る。

コンセントには大きく3つの組織が存在している。大雑把な説明であるが、以下の3つだ。

  • 研究開発部門のDL部門デザインリーダーシップ

  • 管理と営業機能を合わせたVD部門ビジョンデザイン

  • 事業部門であるSD部門サービスデザイン

DL部門(デザインリーダーシップ)は、「コンセントがもたらすべき新しい社会の関係性をプロトタイピングしながら実践していく部門」。社長自らが管掌する特殊部隊的な位置づけである。役員・社員がフラットに在籍している点も特徴だ。


VD部門(ビジョンデザイン)は、顧客管理・自社マーケティング・インサイドセールス・人事・労務・経理・法務・庶務・情報システム管理などを行う、4つのグループで構成されている。詳細はこの記事では割愛する。

SD部門(サービスデザイン)は以下の6つのグループで構成されている。

  • RD(リレーションシップデザイングループ)

  • STRD(ストラテジックデザイングループ)

  • UXD(ユーザーエクスペリエンスデザイングループ)

  • M&E(マーケティング&エンジニアリンググループ)

  • CTD(コンテンツデザイングループ)

  • CRT(クリエイティブグループ)

画像:コンセントのSD部門の6グループが並んでいる。
コンセントのSD(サービスデザイン)部門の詳細。

サービスデザイン部門の組織構造

コンセント事業部門であるSD(サービスデザイン)部門では、6つのグループに分ける際に事業区分に応じた考え方はしていない。これは重要な点だ。

ウェブサイト構築事業はどのグループが担当であるとか、デジタルプロダクト開発事業はどのグループが担当という決まりはない。ひとつひとつのプロジェクトに対して、グループを横断してメンバーをアサインし、プロジェクトに取り組むのを基本姿勢としている。

例えば、クライアントから事業開発支援に相当しそうな相談を受けた場合には、STRDグループからサービスデザイナーが、UXDグループからUX/UIデザイナーが、CRTグループからコミュケーションデザイナーがそれぞれアサインされ、プロジェクトを協働するということになる。

組織を事業で分ける利点と欠点

数年前には、事業を「事業開発支援」「ウェブメディア開発」「紙メディア開発」の3つに区分し、組織もそれに合わせて3つに分けていた時代があった。3つの組織(部署)ごとに売上目標を立て業績管理をしていた。「部署=事業」の構造である。

事業ごとに部署が組成されるので、メンバーにとっては業務が分かりやすくなるというメリットがある。紙メディア開発に従事するメンバーは、紙メディアのデザインに専念すれば良い。業務がシンプルになるため効率も上がる技術の伝承もスムーズだ

画像:2018年頃のコンセント組織を示した図。管理・営業部門と、事業開発支援を担当するSD(サービスデザイン)部門、ウェブメディア開発を担当するCD1(コミュニケーションデザイン1)部門、紙メディア開発を担当するCD2(コミュニケーションデザイン2)部門が並んでいる。
2017年頃のコンセント組織の概要。説明のために単純化している。


ただし、これには障害が4つあった。

1つめは、組織行動が個別最適に進んだことだ。
部署ごとに業績目標があり、各マネージャーが部署の成果責任を負っていたことが原因である。プロジェクトの性質や難易度、稼働状況によっては他部署と協働すべき場面においても、「なるべく自分たちの部署の仕事をしよう」「自分たちの事業を拡大しよう」というバイアスがかかる。
人事採用においても部署最適な考えが強くなる。
組織ごとの業績発表があるため、競争心が高まり組織を超えた協働をさらに阻害する。

2つめは、全社視点で利益最適しないことだ。
3つの組織=事業はそれぞれ利益率が異なる。事業開発支援事業は相対的に利益率が高く、紙メディア開発は相対的に利益が低い状況にあった。これは営業努力や業務能力というよりも、事業ライフサイクルの力学から発生する市場価格の問題であった。事業開発支援事業は需要過多であり、紙メディア開発は供給過多にあったにすぎない。

このような状況であっても、3つの部署はそれぞれに営業努力し、個別の売上最大化を狙う。当然、全社で見るといびつな組織行動となってしまうわけだ。

ここまでの2つの弊害は、デザイン組織に関わらず組織一般に生じる問題だ。以降3つめ4つめの弊害は、デザイン組織にとって重要な論点となる。

3つめは、技術が更新されにくいことだ。
事業区分での組織では、その事業の業務に最適化される形で技術向上が起こるため、どうしても喫緊の業務を超えた技術は身につけづらくなる
デザイナー個人の努力で「越境」する者もいたが、組織的ケアが先行していたとは言えない。
デザイン技術は数年単位で陳腐化を繰り返す
デザイン人材が売り手市場にある今、個別業務を超えた発展的な技術育成ができない環境は好ましくない。

4つめは、顧客提案価値が最大化しないことだ。
クライアント企業の問題・課題は複雑だ。デザインは問題解決の手段とも言えるが、その手段が「事業開発」「ウェブメディア開発」「紙メディア開発」のみに限定されるはずがない。

事業区分で個別最適されるデザイン組織では、問題解決の手段をどうしても自分たちのできることに寄せようとする力が働いてしまう。クライアントから企業コミュニケーションに関する問題を相談されても、ウェブ事業ならばウェブ、紙事業ならば紙の解決策を無意識に構想してしまう。
これはデザイン会社としては最も憂慮すべき弊害であった。

複雑かつ抽象的な問題に対して、安易に「できること」の範囲で解決しようとするのではなく、「個別ではできないが協力したらできることへの思考回路を太くし協業を促すこと。デザイン組織のポテンシャルを引き出す意味でも重要な考えだろう。

コンセプトは知識創造の組織

以上のような事業区分の弊害を改善すべく採用しているのが現在の組織だ。
コンセプトは知識創造の組織である。

例えば、STRD(ストラテジックデザイングループ)では、デザインの戦略的活用をテーマに活動している。サービスデザイン・インクルーシブデザインなどのデザインアプローチを研究し、さまざまな企業・公共機関の支援をする中で、再現性のあるメソッドやツールを開発している。それによりビジネス成果は当然のことながら、人間中心やインクルージョン、倫理的な視点から日本社会や産業に価値貢献するよう務めている。

このような知識創造の活動をベースに、STRD(ストラテジックデザイングループ)は、コンセントの全ての事業に対応している。

SD部門に属する他の5つのグループも同じだ。それぞれに知識創造するテーマは異なるが、1つのデザインプロジェクトの中で、複数のグループの知識創造のテーマが重なり、刺激をしあって活動をしている。それぞれのテーマはこの記事の後編「コンセントの営業成果と社会成果」で紹介する。

イメージ画像:OOUXデザインプロセスの全体像を示した図。
知識創造の活動としてコンセントのUXDグループを中心に開発したOOUXデザインプロセス。


なお、現在でもグループごとの売上目標は存在しているが、マネージャーの成果責任としては全社売上にコミットするようになっており、グループ組織の活動にコンフリクトを起こさないようにしている。

また、事業と組織を完全に切り離すために、業績管理のしくみを新しく採用した。10個の事業カテゴリーとそれを39個の商品カテゴリーに分解した事業ポートフォリオマネジメントの考え方だ。組織構造と事業・商品カテゴリーはまったく紐付いておらず、相互に独立したものになっている。

マネジメント層は、事業・商品ごとの売上や利益効率を評価しながら、リソース傾斜や積極投資・撤退等の判断に活用している。

「事業=組織」の構造では、事業の撤退は組織の消滅を意味する。事業と組織が切り離された状態では、「組織の痛みに、経営の意思決定が歪むこともない

職種ごとの組織化はメンテナンスが鍵

ここで、組織デザインでよく言及される「職種ごとの組織化」と「業務工程による組織化」にも触れておきたい。

デザイン組織では「職種ごとの組織化」もたびたび採用される。UX/UIデザイナーのチーム、サービスデザイナーのチーム、といった組織区分である。同じ職種が集まるため、技術育成の促進組織文化の活性などメリットは大きい。

コンセントでも、職種ごとの組織化を採用した時期があった。しかしながら、数年前からクライアントニーズの多様化、対応事業の拡大にともなって、職種が多様化・曖昧化した影響から、職種ごとの組織化は意味をなさなくなった

同職種が組織化するメリットとして、評価ラインが同職種で揃うことで、人事評価の納得性が増すということがある。が、コンセントでは「技術マトリクス」という育成ツールを採用したことで、その課題は払拭された。その点からも職種区分を解消したことになる。


事業や業務範囲が限定的で、職種の種類が少ない企業であれば、「職種ごとの組織化」は有効な方法だと言える。

だが、昨今のデザイン職種の多様化や、ビジネス戦略に範囲が及ぶ「高度化」の傾向から、職種区分の組織化は定期的なメンテナンスが必須となるだろう。

業務工程での組織化は、、、

いわゆる「上流工程」「下流工程」での組織化である。調査分析や戦略策定にかかる工程と、制作・運用に関わる工程での区分だ。(「上流」「下流」は心情的に気持ちの良い単語ではない。が、そのようなニュアンスも含めてここではあえて採用する)

デザイン人材の志向性や技術の種類からして、一見、妥当な組織区分だと言える。現に「上流」に強い企業と「下流」に強い企業が存在していることは明白だ。

ところが、同じ企業内でこのような区分を実行すると、心理的な摩擦が発生し、とくに「下流工程に配されるデザイン人材のモチベーションの低下を招いてしまう。

イメージ画像:男女が協力してパズルを組み立てている。

「上流」と「下流」に価値の高低は無いと説き、評価や待遇の平等性を維持しても、それは避けられない。「上流」から「下流」に業務指示が流れ、「上流」の業務影響を「下流」が受け、作業が圧迫される構造にあることは事実として存在する。利害衝突が発生しやすい環境が生まれ、「下流」が劣位に立つことになるのだ。

組織内に、フラットな対話や技術交流を生み出したいのであれば、「上流」「下流での組織化はおすすめしない

業務工程での組織化は、分業による効率化が進むので、短期利益の点からもっともらしい組織のあり方のように見える。だが、それは「デザイン製造的な意味で捉えた際でのそれであり、デザイナーの共創がもたらす創造性を排除したものではないかと私自身は考えている。

「下流」工程におかれたデザイナーからは、価値構想に対するポテンシャルが引き出しづらくなる。構想と試作を反復するアジャイル型プロセスが一般化した現代では、競争優位に立ちづらい構造だと言えるだろう。

工程の分業による製造合理的な短期利益の最大化よりも、非分業化による創造性の追求・長期的利益の獲得を目指す方がデザイン経営の本分に即したものであると考えている。


〈 この記事は、後編に続きます 
後編は組織の成果設定について紹介しています。



※コンセントの各グループの活動はWantedlyでも紹介されています。


コンセントの
ひらくデザイン」(オウンドメディア)


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