デザイン組織のデザイン|後編|営業成果と社会成果
デザイン組織をどうデザインするか。
マネジメントする立場にある者は、日々この問いに立ち向かっていることだろう。
前回の記事では、デザイン組織の潮流を押さえながら、デザイン会社コンセントの事例をもとに、「デザイン組織のデザイン」の要点を紹介した。
前回は、組織を「事業」「職種」「業務工程」で分けることのそれぞれの特徴と、コンセントが採用する「知識創造」の組織について言及した。
知識創造の種類によって組織を分け、事業運営に柔軟性を持たせる。デザイン人材の協働を促しデザイン価値を最大化させる。これが組織のコンセプトであると述べた。
本記事は、それに続く後編として組織の成果設定について紹介したい。
デザイン人材がポテンシャルを発揮する「社会への視点」を組織に実装する方法から、デザインの成果に経営陣がどのようなスタンスで臨むのかという点にまで触れている。
組織は成果のためにある
組織は、何のためにあるのか。
組織は、経営の成果を達成するためにある。
組織の存続自体を目的とするコミュニティ型の組織形態もあるが、営利企業ではその形はふさわしくない。
組織の存続維持を目的化すると、目線が市場にではなく組織の内側に向いていく。社会への価値提供のプライオリティが下がり、競争力を失っていくのだ。
当然、デザイン組織もなんらかの成果達成の手段として存在している。
経営の戦略や目的があり、それをブレイクダウンした形で企業内組織の成果設定をするはずだ。
企業内デザイン組織も、事業開発なのか、事業のグロースなのか、ブランド価値の向上なのか、なんらかの成果責任を負うかたちで組織を作ることが一般的だろう。
営業成果と社会成果
コンセントの組織には営業成果と社会成果という2種類の成果の考え方がある。
営業成果は、文字とおり「業を営む=事業を運営する」ための成果である。ビジネスのための成果であり、経営の方針にしたがって単年の成果として設定される。
売上目標の達成、業務品質の向上と安定、業務生産性の向上、デザイン技術の向上と更新、キャリア採用、知識創造などだ。
グループごとにそれぞれ営業成果を設定し、その項目ごとにアクションを実行している。それらの個別施策が集約され、全体の経営目標が達成されるという構造だ。
一方で、社会成果は、コンセントという企業体やその事業に対してのものではなく、社会に向けられて設定するものだ。
自社の利益というより、社会の利益のためのものである。
これも、グループごとに設定している。
例えば、ストラテジックデザイングループ(STRD)では、
日本におけるデザインアプローチの成果・意義に関する社会的認知向上に寄与する。
ビジネス成果だけでなく、人間中心、インクルージョン、デザイン倫理の視点で企業・行政活動の価値向上を支援する。
という社会成果を設定している。
このような成果設定をしているため、グループのメンバーは各自の目標設定に社会の視点を取り入れ、この目標に向けた活動を人事評価に組み込むことも可能になる。
例えば、クライアントワーク以外で、高校でデザインの授業を行ったり、インクルーシブデザインに関する公開講座を実施したりといった活動が生まれている。
日々のクライアントワークでも社会に目を向けてデザインは行われる。
そこに、社会成果を設定することで、クライアントワークの範囲をさらに超えて、社会のためのデザイン、未来のためのデザインに思考が及ぶようになるのだ。
企業ミッションから導き出す成果
コンセントの社会成果は、企業ミッションから導かれている。
コンセントのミッションは「デザインでひらく、デザインをひらく」である。
デザインを用いて社会の問題を解決したり、新しいものの見方や姿勢を示したりすること。デザインそのものを社会に分かりやすく示したり、時代にあったデザインの手法を開発したりすること。このような意味をもつものだ。
デザイン会社の存在意義は、クライアント企業や行政組織の依頼に応え続けることが基本ではあるが、それだけではない。
デザイン会社は、あらゆる産業のあらゆる問題を取り扱う。民間企業と行政機関の双方から観たデザイン課題を取り扱う。デザイン会社は、それらの膨大なケーススタディを、世の中に役立つ知恵として結晶化し、社会に還元することにも責任があると考えている。
先人のノウハウにフリーライドするのではなく、現代のデザイン課題に答えを出し、後世のデザインの知恵につないでいくことを責務と思っている。
デザイナーの目は社会に向けられる
デザイン会社であるコンセントを例に挙げて話してきたが、事業会社内のデザイン組織でも社会視点を持ち込むことは重要だ。
ひとつは「デザイン」が社会に立ち現れた過程にある。
デザインの歴史を紐解くと、教科書の1ページ目にあるのはウィリアム・モリスの業績であることが多い。近代の工業化や効率化に異議を持ち込む形で、社会文化や芸術や「仕事のよろこび」を産業に込めるべきであると彼は訴えた。
デザインは、産業や経済を促進し企業を成長させるために生まれたものではなく、社会を健やかに美しくすることに、その概念の萌芽がある。
デザインを身に着けた者が、産業の実利ではなく、社会の視点で活動することはごく自然なことであり、強くモチベートされることを企業は認識すると良いだろう。
社会成果はイノベーションに資する
さらに重要なのは、社会を見つめることで企業全体に変化や変革を作り出せることにある。
『「デザイン経営」宣言』(経済産業省・特許庁 2018年)は、デザインは企業のイノベーションに資するものであると語っている。
デザインは、企業の外側にいるユーザーに視点を置き、それを軸にものごとを構想し実現する。事業を軸に、商品を軸に、流通チャネルを軸に、技術を軸に、というところから別の思考モードがあることにデザインの意義がある。
コンセントの「営業成果」のような企業運営の現実的な思考モードだけではなく、社会に視点を置いた別の思考モードも実装することで、デザインはイノベーションに資するものになる。
例えば、流通の企業であれば、喫緊の経営課題に対応する「営業成果」だけでなく、「新しい流通のあり方は何か」「日本の社会課題に対応する流通は何か」といったことを探索し実現することを成果として設定する。それにより「社会成果」的思考モードを促進する。
「社会成果」の設定は、デザイナーの純真さから生まれるものではない。
コンセントにおいても企業ミッションを体現しながら、次なるビジネスへの種を生み発展するものとの期待を込めて実行しているものである。
デザイン経営と経営陣の多様性
デザインの効果効能、ビジネス成果については議論されることが多い。
「マーケティングファネルで定義されるKPIにデザインが貢献し、総体として事業のLTVを向上させる」というストーリーがあったり、「ブランドの好意度を上げエンゲージメントを高め、営業と採用の双方に貢献する」という考え方があったりする。
企業は、業態や事業の成長段階によって適切と思われる成果設定をすれば良いが、重要なのは「営業成果」だけでなく「社会成果」にも目を向けることだ。
逆にいうと、デザインの成果をすべて「営業成果」に押し込めるのでは、そのポテンシャルを引き出せない。
『「デザイン経営」宣言』では、経営チームにデザイン責任者を配置することの重要性を説いている。
デザインとビジネスを翻訳し企業戦略にデザインを活用するという趣旨での記述ではあるが、私は本質的には、経営に「別の思考モード」を加え、経営陣の価値観に多様性を持たせることに意義があると考えている。
デザインの「社会成果」的思考モードを、経営の意思決定に含める。
社会からみた企業のありようを構想し、組織を動かす。
企業のデザイン責任者が、経営陣に対して「営業成果」的な成果の言語化のみに終始してしまうのでは、デザインの価値を活かしきれていないということになるだろう。
〈記事はここで終わりです〉
筆者を含めた4人のマネージャーの「デザイン組織のつくり方」。
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