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美声種の沼|リュウキュウサワマツムシ

亜熱帯の森にこだまする冴え渡った音色は、鳴く虫好きなら誰もが憧れます。その正体はリュウキュウサワマツムシ。南西諸島の渓流沿いに生息しています。奄美大島を始めとする分布域にはいずれも毒蛇のハブの仲間がいるため、おいそれとは採集しに行けません。虎穴に入らずんば虎子を得ずとは、よく言ったものです。

鳴いているオス
鳴かないメスは探すのが難しい

図鑑などの書籍には、リュウキュウサワマツムシは「周年発生」、つまり1年中成虫が見られるとあります。2019年6月に初遠征で西表島を訪れた際には、夜道を車で走ると、あちらこちらで美しい鳴き声が響いていました。その頃はサキシマハブを過剰に恐れていて、車から降りることも躊躇するくらい(「足を下ろしたところに死角からハブが来て咬みついてきたらどうしよう…」と本気で考えていたほど)だったので、採集できないどころか姿も見られませんでした。その後、人の助けもあり、何とか採集することができたわけですが、最初に訪れたときに比べ、道路沿いでは鳴き声が格段に少ないことが気になりました。

森の奥の渓流域まで行けばある程度の数が鳴いていたので、たまたま少ない時期に当たったのだろうと思いました。ところが、翌年の2020年7月に再び西表島を訪れた際には、この認識を改めざるを得なくなります。どこへ行っても、鳴き声が聞こえてきません。採集したポイントまで赴いても静かなものでした。周年発生と記されているリュウキュウサワマツムシが、実はそうではない可能性が出てきました。

そして何度も訪れるうちに、この疑念は確信に変わります。厄介なことに、毎年同じ時期に発生するわけではないことも分かりました。ただでさえ採集に苦慮するのに、行ってみたらどこにもいないなんて事態が起こり得るわけです。憧れの存在であるだけに、落胆も大きくなるでしょう。

普通なら、成虫がいないなら幼虫を探せば良いと考えます。ところがこのリュウキュウサワマツムシという虫は、幼虫に関する情報がほとんどありません。実際、林床やシダの葉上を探しても全く見つかりませんでした。大きな声で鳴く成虫が目立ち、まだ鳴かない幼虫はただ影が薄いだけ、というわけではないようです。どこか別の場所で暮らしている可能性が高いと考えられます。

その後、各地のポイントを見て回る中で、おおよその幼虫の居場所を突き止めることができました。本稿では、リュウキュウサワマツムシや、その幼虫の生息環境、並びにポイントの探し方について説明します。なお、繰り返しになりますが、リュウキュウサワマツムシが生息する島には、いずれもハブの仲間が生息し、採集には常に危険が伴います。興味本位の軽い気持ちで行うものではありません。十分に注意し、安全に気を配った上で、それでも探したい方にのみお伝えしたいので、ここで一線を引かせていただきます。ご了承ください。


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