未明ライナーノーツ⑥「空想活劇 ベイサイド・ラヴァー」
制作時期は2023年の5月末。この時は個人的にどうしようもなくメンタルが落ちていた。「音楽制作のこと以外考えない」「没頭することで悲しみから目を背けよう」そんな日を設け、その日に出来た曲。
精神的な不調とは裏腹に、この日は創作においては絶好調で、もう3曲demo音源を作っている。1曲はシューゲイザー、もう1曲は会社で組んだ社会人バンドをイメージしたサーフインスト、もう1曲は冷たい質感のテクノワルツ。タイトルは「真冬のスクリーンセイバー」(これがまたイイ出来!)。
その中で出来た一曲がこの「空想活劇 ベイサイド・ラヴァー」。どん詰まりの精神状態のためか、頭のネジを全部緩めて、脳を剥き出したかのような開き直りっぷり。この曲は脅威の集中力で2時間でギター以外のベーシック部分が完成。とにかく、持ちうる限りの「香港映画愛」を注ぎ込んで、香港映画の日本版主題歌をオマージュ。オマージュとはいえ、曲自体はもちろんオリジナル。でも知ってる人が聴いて、「あの映画かな?」と想起できそうなラインのアレンジを試みた。「空想活劇」とタイトルにあるように、「いかにもありそうな架空の香港映画の日本語版主題歌」というコンセプトの曲と歌詞。ジャッキー、サモハン、ユンピョウらのようなドジなヒーローたちによる、アクション、下世話なギャグ、不器用な恋などなど…、頭の中で想像してくれたら嬉しい。
創作には何かしらの刺激やらショックが必要だ。精神的にどん詰まりでも、これだけ底抜けに明るくポップな曲が生まれた安堵感から、少しずつ心の傾斜がなだらかになっていくのがわかった。
心の闇はできるだけそのまま描くことはしない。それは今回のアルバムの中でかなりこだわったところだ。必ず何かに喩えたり、違うモチーフと結びつけたり、時にはその感情に対しできるだけ心理的・時間的距離を保つよう心がけたり。自虐になりすぎない程度に笑ってみたり。
書いていて気づいたことだが、このアルバム制作を通じて、心の闇と付き合う術を一つ得たのかもしれない。闘うでもなく、飲み込まれるでもなく…。
「叶わない願いも 流す涙も 星に変えるから」
「やるせない想いも あり得ない嘘も 星に変わるから」
一見、気障に見えるこの歌詞は、作者である自分の願いでもあった。この願いを架空の映画の主人公に名ゼリフとして託していたってわけだ。
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