甲斐 敏幸

良書精読📖ジャズギターを弾きたい🎸ジャズピアノを弾きたい🎹旨い料理を食べたい🍴ときどき…

甲斐 敏幸

良書精読📖ジャズギターを弾きたい🎸ジャズピアノを弾きたい🎹旨い料理を食べたい🍴ときどきランニング🏃 ゴキブリと蜘蛛がいたらブルブルと震えて逃げます😱

最近の記事

「草の根のファシズム」吉見義明

 祭祀中心の天皇の生活を変更させた明治政府は、五箇条の御誓文を掲げ、王政復古を宣言した。キリスト教の代わりに天皇を中心とした社会を目指したのだ。 「明治政府がやろうとしたのは、キリスト教の代替物としての宗教を作ることにありました。神の前の平等ならぬ、天皇の前の平等です。この観念を普及させることによって、日本人に近代精神を植え付けようと考えた。伊藤博文はこう述べている。"我が国にありて機軸となすべきは、ひとり皇室あるのみ"」。(日本人のための憲法原論・小室直樹)そして、キリスト

    • 「九年前の祈り」小野正嗣

      芥川賞受賞後に読んだときは、海辺の町のありふれた家庭の日常風景という印象だった。ただ、そのときも今回の再読も「引きちぎられたミミズ」という独特な言葉の形容と登場人物の感情が交錯した。 このような純文学は芥川賞らしさを感じるし、退屈な日常描写はあっていい。なぜなら我々の現実は多くの平凡な選択の連続だし、決してドラマチックではないからである。 蒲江町の白砂青松の美しい海岸線が続く入り江。海辺の町の荒々しい方言と静かな日常。母と子が織りなす寡黙な希望

      • 「若きサムライのために」

         先日、マッサージを受けながら、パソコン通信という言葉が口をついて出た。懐かしさを覚えた。振り返ってみると、NECの8801を駆使しながらBASICを学習し、パソコン通信、HTML、アップルのパソコンへと形を変えていった。パソコン通信のフォーラムで、さまざまな会話をしながら調べたり、思考したり、ときにはお会いすることができた。やがてインターネットが始まり、これで何ができるのだろうと仲間と話していた。 ⁡  音作りに興味があったので、画面の楽譜に音符を打ち込み、交響曲に仕立て、

        • 「昭和の天才 仲小路彰」 野島芳明

           当たり前のことをなぜ言えないのだろう。現在のメディアに対して、そう思う。「我等斯ク信ズ」で戦争の原因は本当のことを包み隠さず書いているに過ぎないが、それがとても新鮮に感じるのはWGIPによって歪曲され、真実を糊塗した連合国の政策の効果ゆえだろうか。山名湖畔に疎開していた仲小路を昭和20年7月に富岡定俊海軍少尉が訪ねて書かれた文書「我等斯ク信ズ」は一読の価値がある。  平凡は非凡を見抜くことはできない。天才であるが故に精神的孤高の世界に独居し、山中湖の貧しい山荘に居続けてい

        「草の根のファシズム」吉見義明

          「ロンドンデリー・エアーとダニーボーイ」

           北アイルランドの北西部の港町ロンドンデリーは、長い冬と北風の町。 1600年初頭まではデリーという地名で、アイリッシュと呼ばれるケルト人たちが暮らしていた。ところが、この地を植民地化したイングランド王のジェームズ1世はロンドンの名を冠にして、ロンドンデリーと呼ぶようになった。 歌の由来は作者不明で、19世紀にジミー・マッカリーという盲目のバイオリニストが弾いているのを、ジェイン・ロスという民謡収集家が採譜した。タイトルのエアーは、詠唱曲を意味する音楽用語で、詞と曲を自由に変

          「ロンドンデリー・エアーとダニーボーイ」

          「幻化」梅崎春生

           坊津を訪れる予定なので、「幻化」を再読した。読み返してみると精緻な心理小説で、筆致は小林秀雄の「人形」に似ているように思えた。大分空港の富士航空の事故から始まり、知覧、坊津、吹上浜、熊本、最後は阿蘇山の火口が舞台となる。三島由紀夫が死に際に美学を見いだしていたとするなら、梅崎はもがき苦しみながら生き存えているような印象である。 ⁡  僕が惹かれたのは、作中の人物たちの正直で率直な会話だった。現代では通用しない会話かもしれないという訝しさと同時に、それらの会話群に、温かさとい

          「幻化」梅崎春生

          「ヤクザときどきピアノ」鈴木智彦

           作者は52歳からのピアノ初挑戦。 ダンシング・クイーンだけを弾ければよい。 ピアノの先生との出会い。 学習時の疑問、理解、感覚、メソッド。 発表会の狼狽。 ⁡  意識しないよう意識するとうまくいかない。 無心とは次のような言葉。 「すなわち術は術のない術となり、射ることは射ないこと、言い換えれば弓矢なしで射ることとなる。」(弓と禅) 中島敦の「名人伝」に通じるのか。 ⁡  この本はピアノの教則本だ。啓発本だ。 壁にぶち当たったら再読必死。 ⁡ 「ピアノを学んだ多くの子どもた

          「ヤクザときどきピアノ」鈴木智彦

          「陸行水行」 松本清張

           安心院(あじむ)町の妻垣神社に参詣したとき、古事記や日本書紀に出てくる地名であること、伝説の神武天皇が立ち寄り、足一騰宮(あしひとつあがりのみや)を建てて宇佐津彦命と宇佐津姫命の兄妹が歓待したことを知った。記者時代の清張が宇佐神宮の調査で何度も訪ねてきたこと、妻垣に宿泊をしたり手紙で地元住民と交流していたことも知った。 ⁡  8年前に近くの鹿嵐山(かならせやま)に登った。奇岩がたくさんあり、スリルもあった。この辺りの岩の表出は西に位置する耶馬溪同様に海底の隆起と浸食によるも

          「陸行水行」 松本清張

          「坦々麺」

           娘たちが目黒に住んでいた頃、ときどき九州から会いに出かけた。 目黒駅近くでも、午前の遅い時間に開店していない店が多かった。 やっと見つけたところは、汁なし坦々麺しかできないけど、と言われた。 狭い店だったが、とても気持ちよく対応していただいた。 ⁡  東京のお店は新しさと伝統が混在し、安くて美味しい店が多い印象がある。 僕は屋台のような、生活臭があって誰とでも話せるような空間が好きだ。 店内を見回すと、有名人の色紙がたくさん飾られ、期待を抱かせた。 運ばれてきたどんぶりには

          「坦々麺」

          「追想 渡辺京二」

           渡辺京二さんや松下竜一さんの姿勢には、とても惹かれるものがある。 奇しくも二人にとっての共通課題は環境問題であった。  人間は間違いを起こす。 歴史を繙けば、それはすぐに分かることだ。 今を生きている私たちが、そこから学ぶべきことは何か。  私はこの学問を学んだ、専門の学者だ、そう喧伝する輩は多い。 しかし、それに対して僕は微笑を返すしかない。  人間は時に間違いを起こすのだ。 必要なことは、自信を持ち、冷静に、謙虚さも持ち、傲慢な心を抑えることではないか。

          「追想 渡辺京二」

          「世界インフレと戦争」 中野剛志

          チャットGPTに要約させてみた。下記の通りだが、概括という印象で、細部にはほど遠い。 「中野剛志氏は、経済学者であり、『世界インフレと戦争』という著書で、インフレーション(物価上昇)が国際紛争を引き起こす可能性があるという仮説を提唱しています。 中野氏によると、インフレーションは、国内の経済に悪影響を与えるだけでなく、国際間の貿易や資本移動にも影響を与えます。 物価の上昇によって、輸出品の価格が上昇し、輸出競争力が低下する可能性があります。また、インフレーションが高い国で

          「世界インフレと戦争」 中野剛志

          「すごい感冷健康法」青木厚

          ⁡  前著の「空腹こそ最強のクスリ」を読み、一日二食となって久しい。 思いっきり食べるし、それぞれの食事が美味しく、感性も磨かれてきた(と思う笑)。 大隅良典先生のオートファジーの仕組み解明も手伝って、二食の方も周りに多くなった。 養老孟司先生も青木先生の本を読み、空腹時間を作ろうと思い、二食の実践者となった。 ⁡  今度の本を読んだのは2ヶ月ほど前だが、事前自己検証と考え、ほぼ毎日実践し、効果を体感できたので紹介することにした。 西式温冷浴の経験もあったが、青木式は簡単なの

          「すごい感冷健康法」青木厚

          日本人のための憲法原論

           再々読くらいか。つねに新しい気づきを得る。 ⁡  ”亡国の淵に立っていることを見つめることから、すべては始まるのです。” ⁡  ”何が正しく、何が悪いことかを決めてくれる権威がなくなった戦後の日本人たちにとって、ただ1つの尺度はカネだけになってしまった。” ”人間が生きていくためには、何らかのガイドラインがなければならない。そのガイドラインとなるのが規範であり、モラルなのですが、そうしたものを作るのが他ならぬ権威なのです。”  権威が否定された状況を、デュルケイムはアノミー

          日本人のための憲法原論

          「三流シェフ」三國清三

          ⁡  何のこだわりもなく、ただ無心に鍋を洗い、磨く。 辛い作業、面倒な作業をまったく厭わない。 頼まれもしないのに、自分の休む時間を削ってまで、率先垂範して鍋を磨く。 それは、純粋に笑顔がほしいから。 そんな、彼の人生の奥義が詰まっている。 彼の料理作りをYouTubeで見ていると、その思いがよく分かる。 ⁡  効率とか利益の増加とか、それを求めることはいい。 でもそれは、普遍的である気がしない。 非効率は、ときに人を動かしていく。 ⁡  寒い朝、一行一行を大切に読み続けた。

          「三流シェフ」三國清三

          「新戦争論」小室直樹

           日本人の多くは「遅れてきた青年」かもしれない。 「空想的平和主義者の勢力が強くなったために、彼らの主張を本心で賛成であると否とにかかわらず、これに公に反対することは政治家にとって自殺行為にひとしいという世潮ができあがってしまったのである。」 「戦争を憎んで否定するのは、個人の行為である。しかも、それは個人の内なる信念の問題である。しかし、戦争そのものは、人間個人の問題ではない。ましてや人間の心の内なる問題ではないのだ。(中略)社会は個人の算術的合計ではない、ということは

          「新戦争論」小室直樹

          「愛なんて 大っ嫌い」冨永愛

          ⁡ 冨永愛さんをほぼ知らなかったが、気になる人だった。 彼女の育った環境、劣等感、屈折した心。 ⁡  愛を獲得するには幾つかの過程が必要なのだろう。 まして、愛に恵まれなかった人には。 しかし、これは感動的な愛の物語である。 ⁡  愛の琴線にふれるとき涙を誘う。 その波は寄せてはまた何度も返ってくる。 ⁡ ”凍り付いたように固まったわたしの頭の中に、息子の声だけが響いた。 「ぼくは生まれてこなければよかった・・・」刺すように響いた。 こんな哀しい言葉を聞くとは思ってなかった。

          「愛なんて 大っ嫌い」冨永愛