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「幻化」梅崎春生

 坊津を訪れる予定なので、「幻化」を再読した。読み返してみると精緻な心理小説で、筆致は小林秀雄の「人形」に似ているように思えた。大分空港の富士航空の事故から始まり、知覧、坊津、吹上浜、熊本、最後は阿蘇山の火口が舞台となる。三島由紀夫が死に際に美学を見いだしていたとするなら、梅崎はもがき苦しみながら生き存えているような印象である。

 僕が惹かれたのは、作中の人物たちの正直で率直な会話だった。現代では通用しない会話かもしれないという訝しさと同時に、それらの会話群に、温かさという魅力を感じたのだ。江戸末期から明治に来日した外国人の記述には、率直で、笑顔で、幸せそうな日本人の姿が浮かび上がる。正直で率直なやり取りというのは、相互信頼社会の証かもしれない。率直であるが故の明快な真実の響きが感じられ、温かい重さとなってのしかかってくる。僕はなんと偽善者なのかと。

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