刺しゅう作家が毛糸で作る腕時計「毛-SHOCK」を販売してたら世界のCASIOから突然電話が掛かってきてふるえた話
こんにちはクロスステッチデザイナーの大図まことです。前回更新した「ハンドメイド作家が13年食べてきた方法」では手芸に興味が無い人に興味をもってもらうことのハードルの高さを書きました。結果として私は創作活動を続けるために手芸業界とは違う業界に目を向ける行動を取ったのですが今回は試行錯誤しているときに生まれた毛糸で作る腕時計「毛-SHOCK」のお話をしたいと思います。
手芸沼
みなさん手芸と聞いてどのようなものを想像するでしょうか?細かい、面倒くさそう、難しそう、女性がやるもの、家庭科の授業で少しやったことがある、針に糸を通すことが出来ないなどなど手芸が身近じゃない人はマイナスのイメージが強いような気がします。
いっぽう手芸沼にハマってしまった人は材料を見るだけでニヤニヤしてしまい何を作るか想像するだけで楽しかったり、新しい技術を習得することに喜びを感じたり、自分の手で何かを生み出したことへの達成感や感動を得ることで更に夢中になってしまう人が多いような気がします。
この写真は毎年東京ドームで1週間行われているキルトフェスティバルの模様です。キルト界のレジェンド達の作品が一同に揃うのとそれに関連するミシンメーカーや材料メーカーのブースが所狭しと並びキャシー中島さんのトークショーが会場を更に盛り上げます。
この1週間は日本全国から手芸沼にハマりし戦士達がトーキョードームという名のコロッセウムに集結します。その数なんと20万人!キルトは作品を完成させるのに時間もお金にも余裕が無いと出来ない手芸なので来場者は年配の方が多いような気がしました。
手芸に対するイメージをPOPなものへ変えようとしていた
刺しゅう作家として活動していくにあたって既存の手芸ファンに向けて仕事をしていくことだけでは無く興味が無い人に興味を持ってもらわないと業界の先が無い=自分の未来も無いと誰にも頼まれていないのに若さゆえのねじれた使命感を持って活動をしていた時期があります。
額に飾るようなかしこまった作品では無くもっと身近にあるもの、POPでオシャレで身に付けられるもの、誰でも間単に作れるものとして考えだしたのが毛糸の腕時計「毛-SHOCK」です。極太の毛糸と先が尖っていない毛糸用のとじ針を手芸用のネットの穴に入れていくだけなので初めての方でも1時間くらいで作ることが出来ます。
上の画像は初代「毛-SHOCK」キットの説明書です。手芸屋さんでは無くハンズやロフト、ヴィレヴァンのようなバラエティ雑貨店に並べてもらいたいなと思いデザインし、発売当時実際に置いてもらっていました。
このファニーな腕時計はメディアにも多数取り上げられワークショップで日本全国呼んでもらえるほどのヒット商品となりました。自分がこうなったらいいなと想像していたこれまで手芸に馴染みが無い若い人達へ届けることが出来たのでとても嬉しかったしやりがいをとても感じることが出来ました。若者に人気のBEAMSやI am Iと言ったブランドともコラボすることが出来ましたよ。
これまで3000人以上の方にワークショップへ参加してもらいましたが誰一人として出来上がらなかった人がいないくらい簡単に作ることが出来ます。出来上がった腕時計を腕にはめて満足そうに笑顔になって帰って行く参加者を見るのがいつもとても嬉しいです。映えるよね~。
人気は海外にも伝わりアメリカ、フランス、香港、シンガポール、オーストリアなどにもこれまで材料セットを輸出していました。ただ輸送費や為替の問題で価格が高くなってしまったので残念ながらそれほどヒットはしなかったです。
特注で作っていた時計のムーブメントの在庫が無くなったのでここ数年販売を休止していましたが去年リニューアルして販売を再開しました!誰でも簡単に作れるようにオンラインショップに動画もアップしています。材料も増量しましたので是非ご自宅でレッツエンジョイステッチ!
ケンザさんも簡単に出来るって言ってたYO!
一本の電話で社内が凍りついた
そんな順風満帆に販売をしていた「毛-SHOCK」ですが2017年の年末に一本の電話が会社にあり一瞬にして社内が凍りつく出来事があった。
ちょうどそのとき私は打ち合わせで外に出ていて電話はスタッフが応対してくれた。会社へ戻るとスタッフが浮かない顔でカシオさんから電話があってまたあとで電話するとの内容を伝えてくれた。
電話がきたことに対して思い当たる節はもちろんあった。毛糸で作る腕時計「毛ーSHOCK」キャッチコピーは水にも衝撃にも弱い超ショック。まんまG-SHOCKのパロディーだ。
憂鬱な気持ちで電話が掛かってくるまでの時間を過ごした事を覚えている。怒られそうになったら相手が何か話す前に自分の方から家の時計は全部カシオで家族全員カシオの腕時計をしていて、はじめて買ったデジカメもカシオでとにかくカシオが大好きアピールをしようと考えたりもした。
何時間経っていたのだろうか電話がついにきた。記憶が定かではないが17時ちょうどだった気がする。さすがカシオ時間に正確だ。心臓バクバクで電話に出ると2019年に出るG-SHOCKラバーズコレクションのデザインを大図さんにお願いしたいと言われた。
怒られると思ってたのでびっくりすると同時にすぐに返事は出来ず、冷静なふりをしてとりあえず企画書をメールで送ってもらえないかと電話を切った。
それから2年後、2019年11月30日土曜日の夜、渋谷のスクランブル交差点にある一番大きなスクリーンで自分がデザインしたG-SHOCKのCMが流れた。(PV @m7kenji MUSIC @sexysynthesizer)
一瞬だった。
あの時の電話から今日まであっという間だった。刺しゅう作家になろうと独立してからもほんとあっという間だった。就職活動に失敗し続けずっと自分が何をすればいいのか悩んで泣いた夜からもほんとにほんとにあっという間だった。
そうだ、今をしっかり生きようと思った。
という話はどうでもよくて自分のお店用に仕入れた腕時計まだ残ってるので買いに来てください!
今がつらくても続けよう。行動し続けよう。
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