論理的思考は「英語」でこそ身につけられる 【朱牟田夏雄著『英文をいかに読むか』】
朱牟田夏雄さんは、東大の英文学教授です。
翻訳家としても有名で、読売文学賞や日本翻訳文化賞など数々の賞を受けています。
そんな彼が、1959年に、
サマセット・モーム、
ジョージ・オーウェル、
グラハム・グリーン、
アーノルド・J ・トインビー
・・・など、錚々たる作家による珠玉の英国文芸作品を題材として、至高の英語参考書を著しました。
元外交官で作家でもある佐藤優さんも、2019年に研究社から新装復刻版として出版された際に、以下のような推薦文を寄せています。
この本の第一編『総論』では、「英文解釈の心ぐみ(心構え)」として、
Ⅰ.問題点は?
Ⅱ.基礎的勉強はしっかりと
Ⅲ.内容の理解・・・論理の筋
Ⅳ.内容の理解・・・柔らかな頭を
Ⅴ.簡潔な表現〝Hamorous〟な言い廻し
をあげています。
この中で特に大事なのは「Ⅲ.論理の筋」でしょう。
近年ビジネス書などで「ロジカルシンキング」が盛んにとりあげられていますが、そのような本に頼らなくても、英語をしっかりと「論理の筋」までふまえて学習していれば、論理的思考は自然と身についていくものです。
英語を使って、論理性を学ぶことは、まさに一石二鳥のやり方なのです。
冒頭の引用でもご紹介したように、思想的哲学的内容に踏み込んでいかない限り、言語によって論理性を獲得することは難しいでしょう。
「logical」の語源は、古代ギリシャ語の「logos」です。
同じ「ロゴス」という言葉から派生していることもあり、「論理性」と「言語」は、本来、非常に密接な関係があります。
ところが、日本語を学ぶ国語教育は、残念ながら「論理性」を養うものとはなっていません。そこでは、小説や詩、短歌などを題材として、登場人物や作者の主観的心情に焦点をあてた指導がされる傾向があります。
このように、感情を正確に把握する能力ばかりを養ったとしても、合理性や論理性が要求される国際政治や世界経済の舞台では余り役に立ちません。
これは狭い国土に、1億を超える大勢の人々がひしめき合うようにしながら生活をしている日本ならではの特徴と言えるかもしれません。
自分の周囲の人たちともめ事を起こさず平穏無事に暮らしていくためにも、相手の心情を正しく汲み取る能力は重要なものだからです。
そのような国語教育の実情もあり、外国語学習として行われている英語の中で、論理性を学ぶようにしていかなければ、日本人が論理性を修得する機会はほとんどありません。
しかしながら、その英語学習も、最近では論理性を学ぶというより、会話中心の対人的な要素を重視する傾向が強くなってきています。
国際社会では、思想や哲学、理念が重要となります。
どんなに美しい発音で英語が話せたとしても、思想や論理性が感じられない話をしていたのでは見向きもされないでしょう。
それほど、思想性や哲学性、論理性や合理性は重要なものなのですが、一朝一夕で身につくほど生易しいものではありません。
だからこそ、若い時から、思想性や論理性を意識しながら、英語を読むようにしていくことが大切になってくるのです。
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