科学者とはどのような存在なのか 【池内 了『科学者と戦争』】
これが、一人の科学者である池内氏が分析した「科学者」の実態です。
科学の現場にいる第一人者による観察なので、それほど実際の状況との齟齬は無いと考えてよいでしょう。
池内氏は、科学者がこのような人となってしまうことには、理由があると言います。
これを見ると、科学者が冒頭に紹介されているような人物となってしまうのも仕方ないでしょう。
ノーベル平和賞を受賞した元アメリカ副大統領のアル・ゴアさんは、環境問題の実情を明かしたドキュメンタリー映画「不都合な真実」や自身の講演の中で、「地球温暖化はない」とする共和党政権の政治的プロパガンダのために、多くの科学者が動員されたことを暴露しています。
共和党政権の支持団体は、南部の石油関連会社が多いので、二酸化炭素削減政策が推し進められたら、莫大な利益が失われることになるので、「科学者による客観的なデータ」に基づき「地球温暖化は幻である」という結論をでっちあげようとしたのです。
地球温暖化を虚言とする結論ありきで始まっているため、石油関連企業に都合のよいデータばかりが集めらたとしても、それは「科学者の意見」として、立派に世間で通用してしまいます。
池内氏は、科学者がこのような行動をとってしまう理由についても、次のように述べています。
私たちは、何かあるとすぐに科学者の意見を聞こうとしてしまいますが、実際のところは、自分たちのかわりに、地道な研究をしてくれる人材として保護すべき対象に過ぎず、頼るべき対象ではないことを肝に銘ずるべきでしょう。
最近は、技術立国ニッポンの復活を目指して、理科系大学への支援策を耳にすることが多くなりました。
しかし、安易に政府や役人たちの意見だけに耳を傾けるのではなく、しっかりとその内容を吟味していかなければいけません。
そのためには、高貴な精神性や人間性に基づいた正義や倫理観からの視点を欠かすことは出来ないでしょう。
文化系の大学や学部への研究費などは削減される傾向にあると言われて久しいですが、科学の振興を目指すのであれば、同じくらい人文学分野の研究や人材への支援も増やしていく必要があります。
池内氏が指摘しているように、「科学者は一般に社会的リテラシーに欠けることが多く、反応は単純で、形式論者が多い」のであれば、尚更、人文学者を始め、多くの他分野からの「監視の目」が重要となってくるからです。
戦時下にあったとは言え、偉大なる物理学の成果が、核兵器という結果に結びついたという悲しむべき事実を、我々は決して忘れてはいけないのです。