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3分探偵あやめちゃん「優等生ゆりちゃん遅刻の謎をパンケーキの前に」(後編)

前編はこちらからご覧ください。

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「ゆりちゃん、もう一度さっきの話を整理させてね」
「うん、何でも聞いて」
「まず、私たちは11時にこのお店の前で待ち合わせしたよね」
「うん、11時だね」
「だからゆりちゃんは、それに間に合うように10時45分に家を出たんだよね」
「うん、そうだよ。腕時計でちゃんと時間を確かめたもん」
「その後、通ったことのある道を通って迷いもせず寄り道もせずここまで来たんだよね」
「うん」
「前に同じ道を通った時は、家からこのお店まで10分かかったんだよね」
「うん、私のSNSの投稿見てくれたでしょ?その時に来たの」
「なるほど、それなのにこのお店に着いたら30分も経過していた、と」
「そういうことになるね、ふふふ」
「どうしたの?ゆりちゃん」
「なんだか、あやめちゃん、探偵さんみたいだなあって思って」
「えっ、そっ、そんなことないよ。ちょっと気になるだけだよ」
私は心臓が熱を帯び始めるのを感じながら、チェック柄のベレー帽を目深にかぶりなおした。
「そういえば、ゆりちゃんは今朝何をしてたの?」
「ここに来る直前までお勉強してたよ。昨日の間に終わらせようと思ってた課題が終わらなくって」
「昨日も課題やってたんだ」
「うん。10時半までやったけど終わらなかったから、明日の朝にやろうとおもって目覚ましをかけて寝たんだ。私、夜の10時過ぎると眠気が急に襲ってくるから、30分はなんとか頑張ったんだけど、もう眠くて眠くて腕時計付けたまま寝ちゃったよ」
なんと可愛いエピソードだろう。ザ・優等生の生活習慣である。目覚まし時計の音からも入浴剤の香りがただよっていそうだ。
「10時半っていうのは、腕時計を見たの?」
「うん、勉強中にパッと左腕を見たら30分になってたの。私、勉強中は腕時計つけるんだ」
「そうなんだ。時間測ったりするの?」
「そういうわけじゃないんだけど、なんか落ち着くというか、逆にないと寂しいというか」
水色のワンピースにアイボリーのカーディガンを羽織る彼女は、左手の指でこめかみをさすりながらそう答えた。
「目覚まし時計は何時にセットしたの?」
「えーと、7時だったかな」
「早起きなんだね」
「お休みの日は、普通は目覚ましかけないんだけど、今日はあやめちゃんと会う約束があったから一応ね」
「そっか」
「それからすぐに家を出られるように支度してから勉強を始めたんだよ。で、気づいたら10時45分だったから家を出たってわけ。家から待ち合わせ場所まで10分かかるからちょうどいいかなって思ってさ」
「なるほど、でも着いたら11時10分を過ぎていた」
「そうなんだよ、不思議だよね。ごめんねあやめちゃん」
「むしろゆりちゃんの遅刻した姿を見られてハッピーだよ」
「なにそれ、ふふふ」
冗談を言いながら、私は彼女の言動を頭の中で振り返る。店の奥の方で女性グループの話し声が聞こえる。

「私、謎解けたかも」
「ほんと?あやめちゃん」
「うん。ゆりちゃんは昨日10時半に寝て、今日は10時45分に家を出たんだよね」
「うん、そうだよ」
「ポイントはそこにあったんだよ」
「どういうこと?」
「ゆりちゃんの腕時計は、ゆりちゃんが寝ている間に電池が切れて針が止まってしまった。ゆりちゃんが眠りについた15分後にね。腕時計の針は10時45分を指して止まったんだ。そして、今朝ゆりちゃんが見た腕時計の時刻は、ちょうど12時間前に止まっていた針を見ていたんだよ。だから、実際の時間は11時を過ぎていたことになる。ゆりちゃんはもう11時を過ぎているとも知らずに、10分かけて家からここまで来た。しかも、歩いてきたから電車の時刻表も見られないし、そのことに気づけなかったんだね。ゆりちゃんの左腕につけてる腕時計、今ここで見せてくれる?」
私はベレー帽の位置を整えた。
「うん」
ゆりちゃんは腕まくりをして左腕を2人の前に差し出した。
「ほんとだ。10時45分のままになってる。さすがあやめちゃん!」
「でしょ」

「お待たせしました、パンケーキでございます」
スマホを見ると、時刻は11時20分。3分探偵あやめちゃんの勝利だった。

「ゆりちゃん、お昼は腕時計を見に行こっか」
「そうだね、あやめちゃん」

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