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【#102】翔べ!!

平成。

それは「ポケットビスケッツ」がミリオンを達成するような時代。
この小説は、当時の事件・流行・ゲームを振り返りながら進む。

主人公・半蔵はんぞうは、7人の女性との出会いを通して成長する。
中学生になった半蔵が大地讃頌を歌うとき、何かが起こる!?

この記事は、連載小説『1986年生まれの僕が大地讃頌を歌うとき』の一編です。

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2001年(平成13年)9月19日【月】
半蔵はんぞう 中学校3年生 15歳



「せーのっ」

「1!2!3!」

 

くっ!

大縄を回すのって予想以上にしんどい。



「4!5!アッ!」

 

誰かが引っかかってしまい、ため息があふれる。

僕らは中学校生活最後の体育大会に向け、『クラス全員・大縄跳び』の練習に励んでいた。


『クラス全員・大縄跳び』とは、『35人全員で、3分間で連続何回跳べたか』を競う競技である。


『合計で何回跳べたか』


ではなく、

『連続何回跳べたか』


なのがポイントだ。

 

 

「うちのクラス、一番下手なんじゃない?」

「まだ練習初日じゃん。がんばろうぜ」

 

しかし、次は3回目で失敗してしまう。

 

「ごめんなさい・・・・・・」

 

一度目も二度目も、引っかかったのは同じ人だった。

夢咲千佳ゆめさきちかさん。

吹奏楽部のエースらしく、歌もピアノもうまい才女なのだが、運動は苦手らしい。

 

「ちょっと半蔵、もっと跳びやすいように回しなさいよ」


 

花蓮が文句を言ってきた。

僕は、担任の岩本先生の勧めで回し手を務めている。




だが、具体的にどうすれば跳びやすくなるのかは、わからない。

 

「とにかく、数をこなしてみよう」

 

学級委員長の指示で、もう一度跳んでみる。

となりのクラスが「20回いったぞー!!」と言っている横で、僕らは5回も跳べなかった。

 

女子側の回し手をしている僕からは、また夢咲さんが引っかかったのが見えた。

 

 

「誰だよ、引っかかってるの」
「ちゃんと跳べよ」
「なんで、できんの?」

 

「ちょっと男子!!」

 

夢咲さんが一所懸命跳んでいることは、表情を見ればわかる。

だが、勝負事となればやはり勝ちに行きたい。

だから、文句を言う男子の気持ちは痛いほどわかる。

 

岩本先生は体育の先生なのに、アドバイスをくれることなくただじっと見つめていた。

 

 

「あっちぃよなー。今日は、こんくらいでいいんじゃね?」

 

全員、半袖ハーフパンツの体操服だが、汗をにじませている。

9月とはいえ、まだ暑い。

その暑さが、余計にイライラを加速させた。

 

2001年(平成13年)9月20日【火】

体育大会の約1週間前。

学級委員長の提案により、大縄の朝練をやることになった。


 

しかし、そこに夢咲さんの姿はなかった。

サボったり寝坊したりするタイプではないと思うのだが・・・・・・。

 

「全員揃っていないが、始めよう。せーのっ」

「1!2!3!4!・・・・・・」

 

僕らは最高記録の32回に到達した。

昨日までは、15回しか跳べなかったので大進歩である。

 

ただ、岩本先生が喜びもせず、仏像のように黙っているのが気になった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

放課後。

朝に最高記録を更新した僕らは、やる気に満ちていた。

給食にソフト麺とミートソースが出たことも大きかった。



なぜか担任の岩本先生は給食のときに不在で、その分を山分けできたので最高だったのだ。

 

『目標は50回だな』
『100回いけるんじゃないか?』




といった声が聞こえる。

 

夢咲さんは、朝練に遅刻したわけではなく『欠席』だった。

岩本先生によると、体調を崩してしまったらしい。

 

男子の中では、「仮病じゃないか?」という話も出た。

大縄跳びの失敗の9割は夢咲さんのせいだったからだ。

あれだけ引っかかっては、学校に来づらいという気持ちになってもおかしくない。

 

「せーの!」

「1!2!3!4!・・・・・・」

 

「49!50!51!52!アッ!」

 

51回を跳んだところで、誰かが引っかかった。

回し手の僕の腕はパンパンだったが、心地よい疲労感だった。

 

「すげーじゃん、俺たち!」
「やったね!」
「50回超えたところで油断しちまったわ!」

 

男子も女子も興奮している。

 

「夢咲さんがいないと、めっちゃ跳べるな」
「当日も休んでくれていいのに」


 男子の誰かが口にした。

たぶん、僕を含む多くの人が思っていたことだ。



・・・・・・器の小さな考えだと思う。

だが、中学校で最後の体育大会において、『大縄で優勝したい』という気持ちは、それほど大きなものなのだ。

 

 

今まで腕組をして見物しているだけの岩本先生が急に近づいてきた。

 

(やぱい!怒られるぞ!!)

 

岩本先生は、全員が見える位置に立ち、静かに言った。

 

「夢咲は体調不良で欠席だと伝えたな。心配だったので、給食のときに家に行ってきた」

 

え?

だから給食のときに先生はいなかったのか。

 

「夢咲は足を軽く捻挫したらしい。ご両親と、大縄の練習をしていたんだと」

 

グラウンドでは、当然他のクラスも練習している。

跳んだ数を数える声でざわつく中、うちのクラスだけが静かにしていた。

 

「夢咲は言ってたよ。『みんなに迷惑かけたくない。できることは、全部やる』って」

 

ギュッ。

僕は自然と、大縄を握る手に力を込めていた。

 

「夢咲さんのケガは、どの程度ひどいんですか?」

 

花蓮がクラスを代表するように尋ねる。

 

「俺が見たところ、1~2日で治る軽いものだった。大事をとって休んだんだろう」


先生は、男子の学級委員長を見る。

 

「このクラスの学級目標は、何だった?」

「『ひとりはみんなのために。みんなはひとりのために』です」

「そうだ。このあと、どうするかはお前らに任せる。強制しては意味がないからな」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

家に帰ると、早速パソコンのスイッチをつける。

 『Windows ME』の文字が表示され、パソコンが立ち上がった。



インターネットで検索する言葉は――。

(つづく)

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