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【#47】決戦~今にも落ちてきそうな空の下で~

平成。

それは「ポケットビスケッツ」がミリオンを達成するような時代。
この小説は、当時の事件・流行・ゲームを振り返りながら進む。

主人公・半蔵はんぞうは、7人の女性との出会いを通して成長する。
中学生になった半蔵が大地讃頌を歌うとき、何かが起こる!?

この記事は、連載小説『1986年生まれの僕が大地讃頌を歌うとき』の一編です。

←前の話  第1話  目次

 1996年(平成8年)4月19日【金】
半蔵はんぞう  9歳  小学校(4年生)



「ビームシュワッチ!」

 

赤白帽を縦にかぶり、腕を交差させて遊ぶのは意味もなく楽しい。

 

それに、天気もいい。
5時間目の体育は、最高だ。


「ふざけていないで早く並べ」

 

天光寺が吐き捨てるように言ってきた。
相変わらず、いけ好かないやつである。

 

「じゃ、キックベースのルール説明するぞぉー!」

 

先生がルールを再確認していく。

今日は、体育でキックベースをやる最後の日だ。
クラスで2チームに分かれ、真剣勝負を行なう。

僕はキャプテンとして、負けられない立場にあるのだ。

 

 

「よし、じゃあ始めるか!キャプテンはジャンケンして」

 

先攻後攻を決めるジャンケン。

敵チームのキャプテンは・・・・・・

天光寺だ。

 

「俺たちに勝てたら、『スーパーファミコンが4000円安くなるクーポン券』をくれてやるよ」

【※】
 1995年夏から1996年春にかけて発売された「スーパードンキーコング2」「スーパーマリオRPG」「星のカービィ スーパーデラックス」などに同封されたクーポン。
 ゲーム市場の勢力図を変えつつあった『セガサターン』や『プレステ』といった次世代機に対抗するため、打たれた大胆な措置である。



「いらねーよ!天光寺たちが勝ったら、『いいにおいがするティッシュ』をくれてやる」

「それこそ、いらねーよ。じゃあ、負けた方が『言うことをひとつ聞く』で、どうだ?」

「望むところだ!」


僕は拳に入れた力を強める。


「こらこら、授業で賭けをするな。早くジャンケンしなさい」

 

天光寺とはスポ少で同じチームであるが、仲良しになったというわけではなかった。

 

(コテンパンに叩きのめしてやるぜ)

 

 

「あっ、言い忘れたけど、スポ少でサッカーやってる子には、ハンデつけるから

「えっ!」

利き足で蹴れるのは1回だけなー」

「エッ!?」

 

先生が、さりげなくとんでもないことを言った。

 

「みんなが楽しめるようにするためのルールだ。ちなみに一打席一回じゃないぞ。一試合に一回だからな」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

ボールは外野のはるか上空を越え、校舎にぶつからんとする勢いで飛んでいく。

 


「すげーぜ天光寺!!」

「同じチームでよかったぁ!」

 

“利き足”を解放した天光寺は、チャンスを逃さずホームランを打ったのだ。

 

5対7。

これで2点差――。

 

天光寺は、軽い足取りでホームベースに帰ってきた。

足元で輝くエアマックス95が憎らしい。

 

【※】
 ナイキ社を代表するスニーカーシリーズ。

 エアージョーダンでバッシュムーブメントを巻き起こしたナイキが、自信を持って1995年に発売した作品。
 本来はランニングシューズとして販売されたが、ファッションアイテムとして注目され、大ヒットする。

 その人気によって、中古品はプレミア価格で取引され数多くの偽造品が出回った。さらに着用者が靴を強奪される「エアマックス狩り」が発生するにまで至った。

 

次の打者をアウトにすると、先生が突然言った。

 

「“ふりかえりの時間”取らないかんかったな。次、誰かアウトになったら終わり

 

【※】
 小学校の体育は、ただ運動を楽しめばいいわけではない。

 ふりかえりをして、その授業の“めあて”(例:ボールを思い切り蹴とばせたか)を達成できたか、仲間のいいところはあったか、などを紙に記入する必要がある。

  
(マジかよ、先生!)

 

僕の打順まで、前に二人いる。

前に控えるのは、ゴメスとイイケンだ。

 

(頼むから、繋いでくれ・・・・・・)

 

「任せてオケ」
「半蔵は、どーんと構えとれ」

 


ゴメスは、『チョン蹴り』をして猛ダッシュする。

『チョン蹴り』とは、来たボールに軽く触れる程度で蹴り返し、内野安打を狙うものである。

イイケンも、それに続いた。

二人は、“思い切り蹴飛ばす”爽快感を犠牲にして、僕につないでくれたのだ。

 

「半蔵ぉ!ホームランで逆転だぞぉ!」


 

アキラは敵チームなのに、外野から声をかけてくれる。

 

(絶対にホームランだ。じっちゃんの名にかけて!)

 


【※】
 『金田一少年の事件簿』の主人公の決めゼリフ。

 同名のテレビドラマ(堂本剛:主演)が、に1995年から大ヒット。
 こわいシーンがあったり遅い時間の放送(21時~)だったりしたので、ビビリながら見ていた記憶がある。
 話の内容は覚えていないが、BGMは今でも覚えている。

 

僕はここまで“利き足”を温存してきた。

右足に意識を集中する。

 

一球目、ボール。

ピッチャーもこなす天光寺の転がす球は、高速なうえに際どいコースを突いてくる。

 

二球目、ボール。
三球目、ボール。


四球目――

今までより球速が遅い。

 

(天光寺め、フォアボールがこわくて弱く投げたな!?)

 

狙うは、外野の頭上を越える一発だ。

右足を振りかぶる。


(いっくぞー!)

 

右足の甲にボールが当たるる瞬間、ボールが少し右にれた。

 


(カーブ!?)


 

ポイントがずれたところに当たったボールは、変なフライとなってアキラの方に飛んでいく。

 

アキラ――

 

もしかして、わざとエラーしくれるか!?


 

アキラは、ボールを身体全身でキャッチした。



アウト。
5対7で、僕たちの負けだ。

 

(そうだよな)

アキラは、『正々堂々』が好きだ。

 

「ゲームセット!よーし、ほんなら“ふりかえり”するぞぉ。班で集まれ」

 

先生が無情にも次の指示を出す。

いつのまにか天光寺が近づいてきていた。

 

「罰ゲーム、決めたぞ」

 

(あ、そうだった・・・・・・)

 

「半年間、――――禁止だ」

 


自分の耳を疑った。


(つづく)


次の話→

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