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【短短編】シャ・ノアール

あのこは今日も、ちいさな身体で必死に何かを訴えている。

耳をぺたんと折りたたみ、毛を逆立てて、
とびきり低いうなり声をあげながら。

んなぁぁぁぁぉん!
んなぁぁぁぁぉん!

美しいオッドアイから流れる悲しみを、
ふわふわの体毛に隠された見えない傷跡を、
もう二度と取りこぼすことがないように。

私は「わたし」の心に住む黒猫をそっと抱きしめた。

どうか、あのこの傷がすこしでも癒えますように。愛に怯えず心の底から甘えられる日が来ますように。

たとえ祈りが届かなくとも、私はあのこをぎゅうっと抱きしめることをやめはしない。

いつしか低いうなり声はぱたりと消え、
かわりに「ぐるるるる」と喉を震わす軽快な音ばかりが胸の中で鳴り響きだした。



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